36 合流
あれから土竜の最後に残った左腕を切り飛ばし、サッカーの壁打ちのように何度も洞窟の壁に蹴り飛ばして叩きつけた後に胴体を滅多刺しにして土竜を始末した俺はアレスと洞窟を歩いていた。
「あー、ほんっとうに恥かいた! いい? さっきの出来事は絶対にポーラに言っちゃ駄目なんだからな! 絶対だぞ! フリじゃないからな!」
「はは、わかってるって」
割と必死に念を押す俺に対し、アレスがやれやれといった感じで苦笑しながら同意の返事をしてくれる。
わかってるならいいけどさ。ああ、本当に恥ずかしかった。しかもアレスに横から一部始終を見られていたとはなんて罰ゲームだよ。
深いため息をつき、頭を軽く振って思考を切り替える。
……それにしても、まさか土竜が地属性上級魔法を使ってくるとはね。俺が記憶する限り、土竜は魔法やブレスのたぐいは一切使えない、肉弾戦オンリーなある意味漢らしい種族だったはずなんだけどな。
「ねえアレス、土竜って魔法とかブレスは使えないはずだよね?」
念のためアレスにも聞いてみる。まあ、土竜が魔法を使ってきた際にはアレスも驚いてたから、本来なら使えないはずだとは思うが。
「……うん。使えないはずさ。魔法が効かないティアだからこそよかったものの、それ以外の人間が相手だったら間違いなく不意を打たれて危なかったと思うよ」
俺の質問に、真剣な顔で頷いて答えるアレス。
だよな。やっぱ使えないよな。土竜が魔法を使ってきた驚きと、魔法なんだから避けなくてもいいやという油断が合わさってあの事件に繋がったんだし。
位置的にこれ食らったら恥ずかしくね? ってとこまで頭が回らなかったのが本当に悔やまれる。おのれ変態土竜め。
そこまで考えたとき、俺はふと気付いた。
そういえば、あのポーラが俺たちの救援に来なかったな。まあ別に必要なかったんだけど、ポーラの性格なら絶対に引き返してきて合流してきそうなものなんだが。……もしかして、何かあった?
嫌な予想が俺の脳内を駆け巡る。……いや、大丈夫だ。ポーラは無事なはず。
だって土竜と戦っている間、ポーラの叫び声とかそういうのは聞こえなかった。
人間に聞こえないような小さな音でも聞き分けることができる俺の耳にも、何か異常事態が起きた声や音は聞こえなかったのだし、何もないはずだ。
ポーラは俺の実力を知ってるから、足手まといになるまいと離れていただけに違いない。きっとそうだ。
大丈夫だと何度も自分に言い聞かせるが、それでも不安は治まらない。
「……ねえアレス、ポーラたち、大丈夫かな? さっきの土竜ってアレスの記憶にある奴と違うんでしょ? もしかして、実はもう一匹アレスの知ってる土竜がいるとか……」
「……その可能性はあるね。でも、正規の騎士が五人もついているんだ。ポーラの補助魔法があれば問題ないはずだとは思うけど……」
俺の不安を否定はするが、アレスも少々不安そうだ。俺はまだポーラの補助魔法見てないからわからないけど、そんなに凄いのか? 洞窟の探索中は魔力温存のために使わなかったんだよね。
「……念のため、急ぐ?」
「そうだね、急ごうか」
俺とアレスは顔を見合わせ、お互いに頷きあう。次の瞬間、俺とアレスは洞窟の奥目掛けて駆け出していた。
「ポーラ! 無事!?」
「ああっ、アレス! ティアも! よかった、無事だったのね!」
「よかった、ご無事でしたか! お力になれず、本当に申し訳ございませんでした!」
「申し訳ございませんでしたぁ!」
洞窟を駆け抜けた俺とアレスは無事にポーラと騎士たちを見つけた。駆けつけた俺たちを見て安堵の声を漏らすポーラたち。特に怪我とかはしてないみたいだな、よかった。
何かあった場合に備え、抜き身のまま握っていた剣を鞘に仕舞う。同じくアレスも剣を鞘に仕舞い、魔法の光球を消していた。
「顔を上げてください。ポーラも、心配させて悪かったね。……あの土竜はティアが始末しました。アーノルドさん、あれからそちらはどうでした?」
駆け寄ってくるポーラを宥めつつ、アーノルドへ向こうの事情を聞くアレス。
そうだね、一応効いておかないとだね。一応、周囲の状況を見る感じじゃ、別の土竜の襲来とかはなかったみたいだけど……。
「ティア氏が……!? いやはや、さすがですなあ。こちらは特に報告するようなことは起きていませんね。アレス様たちの救援に駆けつけようとする者たちを、我々が行っても邪魔になるだけだと説得した事ぐらいでしょうか」
「アタシも駆けつけるべきか迷ったんだけど……。ティアの実力は知ってるし、補助役に徹しようにも洞窟の中って狭いから足を引っ張ったらどうしようかと思って……。ごめんなさい」
ともて申し訳なさそうな表情をしながらポーラが謝ってくる。
いやいや、いいんだよポーラ。別に苦戦とかしなかったしね。余裕だったし。
でも残念だなー! かーっ! もし来てたら俺の超格好いいシーンが見れたのに! 残念だなー!
……いやあ、ポーラにあの残念なシーンを見られなくて本当によかった。
「別にいいよ、実際余裕だったしね。それよりも来なくて正解だったかも。……あの土竜、なんか魔法使ってきたし。遠距離で補助かけて油断してたら、あっさりやられてたと思うよ」
「土竜が魔法ですと……!? アレス様、それは本当ですか?」
俺の台詞を聞いて、アーノルドが驚愕した様子でアレスへと確認を取る。
まあ、そりゃ脳筋の敵が魔法使ってきたら驚くよね。
「ええ、事実です。僕たちが戦っていたあの土竜は土属性の上級魔法、アースグレイブを使ってきました」
「なんと……。よくぞご無事で」
アーノルドが感心した目で俺を見てくる。
ふふん、いい目だ。込められた賞賛と驚愕の感情が心地よい。もっと俺の凄さに驚くがいい!
「あー、じゃあアタシは救援に行かなくて正解だったのね……」
結果的にはそうなるね。言い方悪いけど、あの場にアレス以外の人間がいても邪魔になるだけだったと思う。アレスなら不意打ちアースグレイブ食らっても逃げられると思うけど、ポーラにはちょっと厳しそうだ。
ポーラの台詞に一人うんうんと頷く俺。
「ま、なんにせよこうして無事に倒せたわけだしさ。とりあえず先進もう? 新しく見つかった遺跡とやらに、さ」
洞窟の奥を指差して先へ進もうと提案する。別に土竜についての話は後でもできるんだしさ。
「そうですね……。遺跡までもうかなり近い位置に来てますし、先に進みましょうか。……おっと、その前にアレス様たちは休憩などは取らなくて大丈夫なのですか?」
俺の提案にアーノルドが頷き、洞窟の奥側へと向き直って先へ進もうとした瞬間……再び回転して俺とアレスへ向き直る。
ごつい外見に反して気配りのできる奴じゃないか。でも悪いけど、俺にはそういうの必要ないんだよねえ。アレスはどうなんだろう。
「いや、僕はいいよ。ほとんどティアが一人で片付けてたから体力余ってるしね」
「私もいらなーい。まだまだ余裕だしー」
そもそも俺に疲労なんてものは存在しないしな。ああでも、人間らしく振る舞うのなら休憩貰っといた方がよかったかな? まあいいか、もういらないって言っちゃったし。
「……凄まじいですな、ティア氏は……。わかりました、では先へ進みましょう。ですが、もし休憩などが取りたくなったのならば教えてくださいね?」
「ん!」
アーノルドの台詞に頷いて同意を示す。
そうして俺たちは再び洞窟奥に存在するという遺跡へと向かうことになった。




