29 撃墜
サブタイトルが文字だけじゃわかりにくいなと思ったので、各話の前に数字をつけました。
内容は弄ってません、サブタイトルに数字を追加しただけですのでご安心を。
「ねえー、ティアー、機嫌直してよー。ごめんってばー」
「…………フンだ」
平謝りするポーラを尻目に、窓から外の景色を見る俺。
当然だ。いくら俺が寛大で優しいといっても、今回ばかりは簡単に許すわけにはいかない。あれから俺が平常運転に戻るまで、どれだけの苦痛と恥辱を味わったか。ああ、本当に恥ずかしかった。本当に恥ずかしかった!
そう、仮にも男の精神を持つ俺をあんな目に合わせて……あんな……目に……。
先ほどまでの自分をつい思い返してしまい、また妙な気分になりかけてしまったので頭をブンブンと振って思考を正常な方向へと戻す。
ええいもう! ポーラといると本っ当に調子が狂うな! クールで格好良かった昔の自分を思い出せ!
「仕方ないでしょー? 真横にこんな可愛い娘がいたら誰だってこうなるって。いい加減許してよー」
「……ッ! ……フン!」
可愛いというワードについ反応してポーラを許しかけてしまうが、理性を総動員して押しとどめる。
危なかった。今のはほんのちょっとだけ危なかった。ポーラのほうに振り返ろうとして腰が軽く浮いちゃったもん。
まあ、ほんのちょっぴりしか浮いてないからポーラにはバレてないけど! 口元も思いっきり笑ってしまっているが、見られていないのでセーフ!
ふふ、それにしても褒めて持ち上げる事で許しを引き出そうとするとはポーラもなかなかの策士じゃないか。でも残念、鋼の理性を持つ俺には通じないのだ!
ポーラに気付かれないよう、ゆっくりこっそりと浮いた腰を元に戻す。
うう……それにしてもパンツがぐちょぐちょで気持ち悪い。でも予備のパンツなんて持ってきてないし、ミニスカートだから穿かないってのは論外だし。
くそう、完璧に準備したと思ってたのに。まさかパンツだけ用意するのを忘れていたとはな……。
いや、俺はちゃんと準備した! きっとパンツが勝手に歩いてどこかへ行ったに違いない! ご主人様に歯向かうとはなんてパンツだ。許すまじ。
まあ、仮に持ってきていても着替えれないんだけどさ。だってまだ朝……というにはちょっと時間過ぎちゃってるか。そう、まだ午前中だし。
もしかしたらこれから戦闘やらなんやらがあって服が汚れるかもしれないんだから、着替えをここで使っちゃうってのは躊躇われる。
「ハァ……こんなムードもへったくれもない場所でやろうとしたのは謝るからさ、お願い許してー。ちゃんと次からは二人っきりのときにするからー」
うん、流石ポーラだ。まったく、これっぽっちも、反省してねえ! まあ知ってたけどさ。ポーラがそういう娘だってこと知ってたけどさ!
「うーん、ティアは僕と将来を誓い合った仲なんだから、できればそういうのは控えてもらいたいんだけどね。まあでも、ティアは可愛いし仕方ないか。そうだね、どうしてもティアとそういうことがやりたいというのなら僕の前でするか、僕と一緒に――」
「そのネタまだ引っ張るの!? というか何その変態嗜好!」
珍しいアレスの変態トークについ反応してしまう。腰を上げ、思い切り振り返って叫ぶ俺。
いや、だってアレスが! あの優しくて紳士的でカッコいいアレスが自分から変態ネタを! それに将来を誓い合うってのはダニエルの求婚をかわすためにでっち上げたネタでしょ!
「ハハハ、引っ張るも何も事実じゃないか。まあティアは恥ずかしがりやさんだからね。隠したい気持ちはわかるけど……もうバレてしまったことなんだし、いいじゃないか。ああ、今でも目を閉じれば思い出せるよ。人のいない教会の中、永遠の愛を誓うティアの姿が」
「ええ、アタシもこっそり見てたけど……頬を染めて、涙目でアレスを見上げながら愛を誓うティアは最高に可愛かったわ」
「記憶を捏造するなー!」
ノリノリで捏造された思い出を語るアレスとポーラに向かって全力で叫ぶ。くそう、二人とも楽しそうに笑いやがって。俺を弄るのはそんなに楽しいか!?
ハア……まさかアレスまで俺を弄るのに参戦するとは。アレスだけは何があっても俺の味方だと信じてたのに。信じてたのに! 裏切ったなちくしょう!
前々から何度も裏切られていたような気もするがきっと気のせいだ。うん、たぶん、きっときのせい。
ていうかポーラ一人でさえ手におえないってのに、そこにアレスまで追加されたら俺はいったいどうすればいいんだ。
大人しくオモチャにされろってか? 嫌だぞそんなの。自分で言うのもなんだが、俺はどちらかというとSだからな! 責める側だからな! 断じて責められる側ではない。
「……まったく。わかったよ、許せばいいんでしょ? 許す許す。だからこのネタはお終い! しゅーりょー!」
軽く目を閉じて両手を上げ、ため息を吐きながら自分の敗北を認める。まったく、何で被害者の俺ばかりこんな目に……。
というか二人とも、俺の凄さを忘れているんじゃなかろうか。いや、きっとそうだ。だから俺にこんなふざけた態度をとれるに違いない。
「ふと思ったんだけどさ。二人とも、私が誰なのか忘れてないかな? 私はガルム帝国最強の兵器、ティアマトちゃんだよ? 超強いんだよ? 超すごいんだよ? 尊敬とか敬意とか、もっとそういう感情を向けてくれていいんじゃないかな?」
再び目を閉じて腕組みをし、軽くふんぞり返って偉いんだぞオーラを出しながら二人が忘れているであろう事実を言い放ってやる。
ふふん。言ってやった、言ってやったぞ。これで二人も自らの行いを反省し、俺を弄って遊ぶような事はしなくなるだろう!
……いや、でも、完全にやめられるのはちょっと寂しいというか、なんとなくアレなので少しぐらいなら弄ってくれてもいいけどさ。
忘れ去っているであろう事実を突きつけられた二人がどのような反応を返してくるのか、ほんのちょっとだけ気になったので、チラチラと目を開けて二人の反応を確認してみると――。
「ティア、いくら防音の結界を張っているとはいえ、発言には気をつけて。どこから情報が漏れるかわからないんだからさ」
「ティア、流石に無用心すぎないかしら? アタシ達はいいけど、もしも他の誰かに知られてしまったらどうするつもりなの?」
「あ、うん……ごめんなさい……気をつけます……」
真剣な顔をした二人に怒られてしまいました。ひどい。
俺はただ、二人にちょっとでいいからちやほやされたかっただけなのに。
二人に怒られた後、俺は一人でボーっと窓の外を眺めていた。
別にどこを見ているわけでもない。というか、外の景色は代わり映えのしない平野なので特に見るものもないし。
あるとすれば遠くに見えるアルシードの山と、その麓に広がる森ぐらいか。
日が高く上り、二人が昼食を取っている間も俺は外を眺め続けていた。
ひたすら無言で外を眺め続けている俺を心配して何度かアレスやポーラが話しかけてきたが、そのときの俺は割と本気で落ち込んでいたので適当な返事しか返せなかったのが申し訳ない。
いやだって、ねえ? あの状況になったら誰だってへこむって。俺じゃなくてもへこむはずだ。たぶん。
まあ、今は時間が経った事もあって落ち着いたので大丈夫だが。二人にも心配させてごめんって謝っといたし。
「……ん?」
気を取り直した後もなんとなく外の景色を眺め続けていた俺だったが、ふとその景色に違和感を抱いた。
なんだか上空の景色がちょっぴり歪んだような……。気のせいか? いや、今のは気のせいじゃない。
「アレス」
「ん? どうかしたの?」
違和感を抱いた場所を眺めながら、目を閉じたまま腕組みをしていたアレスへと呼びかける。寝ていたらどうしようかなと思ったが、都合のいいことに起きていたようだ。
「荷台に槍が置いてあったよね。アレって使っていいのかな?」
「え? まあ、予備の武器だし、事情を説明すれば大丈夫じゃないのかな? 急にどうしたの?」
窓の外を睨んだまま、よくわからない質問をしてきた俺に対してアレスは疑問を抱いたようだが……説明している間に逃げられたら厄介だ。説明は後回しだ。
「なら、ちょっと借りるね」
「え? ティア?」
戦闘モードを起動して素早く立ち上がる。そして客室から体を乗り出して荷台に載せられていた槍を掴み、馬車から飛び降りた。
「なあ!? ちょ、ちょっと! 一体何を!」
御者のおじさんがいきなり馬車から飛び降りた俺を見て大声を上げるが、かまっている暇はない。
地面に着地した俺は左手を前方に出し、腰をひねりながら槍を握る右手を大きく振りかぶり……上空めがけ投げつける!
俺の投げた槍は上空めがけ猛スピードで飛んでいき、そして……。
遥か上空を飛んでいた、見えない何かに突き刺さった。




