27 記憶とのずれ
「ティア、どうしたの?」
「ん、なんでもない」
後ろでごそごそやっていた俺とポーラにアレスが向き直り、何があったのかを聞いてくる。
目の前を男を殺そうとしてポーラに止められていましたー、なんて言えるわけがないので適当に誤魔化す。
アレスもそこまで気になっていたわけではないのか、それとも目の前の男との話し合いのほうが重要だと思ったのか、特に気にすることなく再び前を向いた。
ふう、助かった。
「ティアを魔物退治に連れ歩くな、ですか。……まあ、言いたい事はわかります。僕も本当はティアには戦って欲しくありませんし」
「え?」
アレスのまさかの発言に凍りつく。
ちょっ、おま、え、何で? 何で何で? 俺って兵器だぞ? 戦う為に造られたんだぞ? 戦うことこそが存在意義なんだぞ? なのに戦うなって……。
「ええ……本当なら戦って欲しくなんてありませんよ。家にいて、のんびりと平和に過ごしていて欲しい。ですが……」
「ふむ、何か事情がおありの様子で。失礼しました、先ほどの発言は取り消しましょう。事情も知らずに踏み入った発言、申し訳ありませんでした」
一歩引き、発言を撤回して頭を下げるダニエル。
まあ今更そんなことしてももう遅いけどな。お前は絶対に殺すから覚えとけよ。
おっと、こんな男の事はどうでもいい。それよりもアレスだ。何であんなことを言ったのか問い詰めないとだ。
……いやまあ、大体想像はつくけどさ。見た目美少女な俺を戦わせるのが心苦しいとかそんな理由だろう。
まったく。この体は滅多な事では傷つかないし、仮に傷つたり汚れたりしても自動修復機能が働いてすぐ直るので気にするだけ無駄だって何度も何度も言ってるのに。本当に優しいなアレスは。
「いえ、頭を上げてください。仮に僕があなたの立場なら同じことを言っていたでしょうし。まあそれで、いきなり話が変わってなんですが……ティアのことは諦めてもらえたらなと」
「ありがとうございます。しかしですね、私としましても……」
「僕とティアは、将来を誓い合った仲ですので」
「えっ! ちょっ!」
アレスの爆弾発言に凍りつく俺。
へー、俺ってばアレスと将来を誓い合うほどのラブラブな仲たっだのかー。うふふー、恥ずかしいなー、照れちゃうなー。えへへ。
いやいや、何それ初耳ィ! いや、確かにこれなら一発でこの状況を切り抜けることができるけどさあ!
でもこういう言い訳使うなら事前に相談欲しかったというか? やっぱり心の準備がですね……。
というかこんなこと言って大丈夫なのかな。アレス貴族でしょ?
「なんと……! これはとんだ失礼を……! 申し訳ありませんでした。しかし、失礼を承知で申し上げますが……傭兵という出自から察するに、彼女は平民なのですよね? 私のような弱小貴族ならともかく、グランヴィル家ほどの名門が彼女を迎え入れるとなると、周りがうるさそうですが……大丈夫なのですか?」
一瞬でアレスのでっちあげを信じたダニエルは大きく頭を下げアレスと俺に謝罪した。
謝罪した後も少しの間、名残惜しそうに俺を見つめていたが……頭を軽く振ったかと思うと今度はアレスの心配を始めた。
むうう、物分かりいい素振り見せたりアレスの心配しても駄目なんだからな! お前は殺すって決めたんだからな!
「はは、そこを突かれると痛いですね。あいにくとまだ、そこについては悩んでいる最中でして……。まあ、まだまだ時間はあるんだし、ゆっくりと考えますよ」
ああ、やっぱ不味いんだ。でも上手く追及はかわしたな、やるじゃん。
「そうでしたか。ならばこのダニエル、可能な限りお二人の力になりますので、何か手伝えることがあれば気軽にお申し付けください。想い合う二人が結ばれぬ、などという結末は悲しすぎますし……あってはいけませんからね」
「……ありがとうございます、ダニエルさん」
「それでは私はこのあたりで。アレス様、ティア様。どうかお幸せに」
そう言うとともにパチンと指を鳴らして去っていくダニエル。どうやら、いつの間にか魔法で防音をしてくれていたようだ。
それにしても困ったな。あのダニエルとかいう男、時機を見て殺すつもりだったんだけど……なんだかアレスと仲良くなっちゃったぞ? どうすんのよこれ。
あいつが死んだら間違いなくアレスは悲しんじゃうだろうし……。いやー、どうしようねこれ。わりと本気でティアちゃん困っちゃうゾ☆
……まあいいか。チャンスが来たらそのとき改めて考えればそれでいいよね。
よし、それじゃああの男についてはとりあえず保留ってコトにしておこう!
「さて、それじゃあ気を取り直して行くとしようか。今回の依頼はゴブリン退治。場所は――」
「おやおやおやおや! これはこれはアレス様! お久しぶりですねえ!」
アレスが受けてきた依頼についての説明を俺たちに開始した直後、男の声が割り込んできた。今度はアレスの知り合いらしいが……ダニエルの直後なので、またかよと少々うんざりした気持ちになってしまう。
「……え? 嘘だろ、何で今、ヘンリーさんが?」
ん? どうしたアレス? 鳩が豆鉄砲でも食らったかのような顔しちゃってさ。
「いやーいやいや! 奇遇ですねえ! おや、そちらのお二人は……? 失礼しますが、もしかして、マクニール家のポーラ様でいらっしゃいますでしょうか?」
笑顔でこちらにやってきたのは茶髪のボサボサ頭をしている、グレーのコートを羽織った男だった。見た感じ二十代から三十代前半といったところかな?
なんだか人懐っこそうな笑顔を浮かべており、悪い奴ではなさそうだ。頭がボサボサなので、だらしなさそうではあるけど。櫛入れるのが面倒なら思いっきり短くすればいいのに。
「ええそうよ。アタシがポーラ・マクニールよ。貴方は一体?」
「どっひゃー、これは失礼を! わたくし、ガルム帝国についての研究を行っているヘンリーと申します。アレス様やアレス様のお父上であるハインツ様には色々とお世話になっていましてねえ……」
両手を上げて驚いたかと思えばペコペコとポーラに頭を下げる。ずいぶんとオーバーリアクションな男だ。でもポーラと違って可愛くないな。
それより、今こいつハインツさんのお世話になってるって言ったよな?
ふふ、ふふふふふ。こいつか。こいつが未来の世界でしょっぱい依頼にアレスを指名した愚か者か。
よーし、憶えたぞ。まあ流石に殺しはしないけど、ちょっとぐらい痛い目は見てもらわないとな。
「へー。あ、そう、この子はティア。新しくグランヴィル家に迎え入れられた食客よ」
「よろしく」
軽く右手を上げて挨拶をする。……あ! しまった。考え事してたせいで格好つけ忘れた。
一見するとただの美少女でしかない俺にとって、格好をつけるという行為は重要な意味を持つのだ。主に舐められない為に。
いやまあ、本来なら舐められる方が正しいんだけどね。
わざと舐められるような外見にして、相手に「これなら勝てるかも」と思わせて逃走を阻止するって建前でこの外見にされたわけだし。
実際の理由は「どうせ造るなら美少女がいい」とかいうすっげえふざけた理由だったりするんだけど。まあ気持ちはわかるけど。すごくわかるけど。
「おおー、すっごい可愛い子ですねえ。こんな可愛い子始めて見ましたよ」
「ふふん」
そうだろうそうだろう。もっと褒めるがいい。
俺が軽くふんぞり返って悦に浸っていると、アレスが落ち着かなさそうにヘンリーへと話しかける。
「あの、ヘンリーさん。今日はいったい何の用事でここに?」
なんだかアレスがさっきからずっと難しそうな表情をしている件について。
ふーむ。最初の呟きから察するに、出会う場所か時間でも違ったのかね? 後で聞いてみよう。
「ええはい、なにやらアルシードの洞窟の奥から新しい遺跡が見つかったようなので、その調査に行ってこいと上から言われましてね。その護衛の依頼を要請するために来たわけです」
「そうですか……」
ヘンリーの回答を聞き、アレスはなにやら考え込む。なんだか難しそうな顔してるけど大丈夫かな? 何か手伝えることがあればいいんだけど。
「あんなとこに遺跡なんてあったんだ。それより、冒険者や傭兵じゃなくて騎士団に協力を要請するってことは……ヘンリーさんって結構なお偉いさんだったり?」
考え事をして動かないアレスに変わり、ポーラがヘンリーの回答に食いついた。
確かにそこは重要だな。お偉いさんだったら下手に罰を与えられなくなるから注意しないと。
「ハハハ、まあ一応、王都の大学に教員として所属させてもらってはいますが……ただの下っ端ですよ。偉かったら、こうやってよくわからない遺跡の調査に狩り出されたりしませんしね」
照れくさそうに頭を掻くヘンリー。
へー、一見すると若く見えるんだけど、先生だったのか。意外と優秀なのかな? いや、優秀じゃなかったらハインツさんからの協力なんて得られないか。
「ヘンリーさん、遺跡の調査にはいつ頃出発する予定ですか?」
考え事を終えたらしきアレスがヘンリーへと問いかける。
そうだな、こっちはこの調査中に出るという土竜を倒したいわけだし、ちゃんと聞いておかないとな。
「そうですねえ、一応、予定としては四日後ですね。先ほど要請を出した際に聞いたのですが、幸いにして今は重要な依頼が少ないみたいで、割りとすぐ出発できそうです。まあ別に急いでるわけではありませんが、だからといってのんびりしすぎても怒られちゃいますし」
「四日後か……ヘンリーさん、その依頼、僕たちも同行してよろしいでしょうか?」
「おお、いいのですか? いやあ、全然構いませんとも! むしろこちらからお願いしたいぐらいですよ! いやあ、アレス様がついてきてくれるのなら安全は確定したようなものですし、本当にありがたいです!」
アレスの提案を聞いて大喜びするヘンリー。嬉しいのはわかるが、声がちょっとだけ大きいぞ。
今度は先ほどのダニエルと違い、防音の魔法やらは使われていないので普通に注目されてしまった。
「はは、僕はそこまで大した事ないんですけどね。それじゃあ、ちょっと受付の人に説明しに行きましょうか?」
「はい、了解です。それにしても、大した事がないとかまたまたご謙遜を」
「それじゃあポーラ、ティア。ちょっと悪いけどもう少し待っててもらえるかな?」
「あ、アタシも同行するから伝えといてよねー」
「いってらっしゃーい」
依頼の受付のほうへ行き、列へと並ぶアレスとヘンリーを見送る俺とポーラ。
四日後には土竜退治か。楽しみだなあ。
2017/5/12
アルシーダの洞窟→アルシードの洞窟
に修正しました




