25 平和な朝
ポーラから逃げるように眠りについた日の翌朝。目が覚めたらまたもや目の前にはポーラの寝顔が。どうやら、またポーラに抱き枕にされていた模様。
「ハァ……」
思わずため息が出てしまう。まったく、今回は許可とか出してないんだけどなあ。
勝手に人の布団に潜り込んで、勝手に人を抱き枕にするってどうなのさ。
「あ、今回は寝間着着てるんだ」
なんか布と布が擦れあう感触がするので多分そうだ。ちらっと見た感じネグリジェかな? 色は白くて、うっすらと透けている。
「よっと」
軽く手を動かして自分の股間に持っていき、パンツを穿いているかどうかを確認する。……うん、今日は脱がされてないみたいだ。よかった。
もし脱がされてたら割と本気でベッドから蹴落としていたところである。
それにしてもポーラの送ってくれたこのベビードール、肌触りがよくて気持ちいいな。
デザインがアレでなければ部屋着として常用していたかもしれない。デザインがアレでなければ。
いや、でもまあ……着心地いいし、一人のときなら使ってあげてもいいかな。風呂上りのリラックスタイムのときとか。せっかくポーラが俺のために用意してくれたんだし。
「……ホント、寝てるときは可愛いのにね」
ポーラの寝顔を見てため息を吐く。ポーラって寝ているときは可愛いし格好いいんだよね。でも起きてるとなあ……。
隙あらば人の胸を揉んでくるわ、卑猥な発言をしてこちらをからかってくるわで、ポーラといるとなんか調子が狂うんだよね。まあ嫌な気分ではないんだけどさ。
ああやって気軽に接されるのは、俺としても楽しいからあまり強く文句を言えないのだ。たぶんポーラもそれを理解したうえで俺にちょっかいかけてきてるんだろうけど。
「ポーラ、朝だよ。起きて、起きて」
「んん……」
「あーさーだーぞー」
そろそろポーラに起きてもらおうと、体をゆさゆさと揺すりながら声をかける。
ほらほら、早く起きろ。起きて俺を解放してくれ。
「んう……ほぁぁ……」
「おはよ、ポーラ」
「んー? ティア? おはよ……」
寝ぼけてるポーラかわいいな。なんだか胸の奥がムズムズする。
ああ、いつもこんな感じならいいんだけどなあ……。
「うーん、何度見ても最高に可愛いわねえ。もう滅茶苦茶にしたくなっちゃう!」
「はいはい。それよりポーラ、何で私の部屋に?」
その後、完全に起きたポーラに開放された俺はベッドの上でポーラと向かい合って座っていた。ポーラがこの部屋で寝ていた理由を聞き出すためだ。
「ああ。アタシ、これからティアと一緒の部屋で過ごすことになったのよ。昨日はそれを伝えようとしたんだけど、ティアが勝手に寝ちゃうから……」
やれやれとポーラが肩をすくめる。おいコラ、誰のせいでそうなったと思ってるんだ。
というかポーラって部屋借りてなかったっけ? 何で俺と一緒の部屋?
「まあ別にいいけど、なんで?」
「アタシがそうしたかったから!」
ポーラが両手の人差し指を自分の頬に当て、にぱーっと微笑む。
くそう、あざとい。でも可愛い! でもこの程度で俺を誤魔化せると思うなよ! てい。
素早くポーラのおでこにデコピンをかます俺。ベチンと鈍い音が響き、ポーラが額を押さえて悶絶する。
「あいったぁー! 何するのよぉー!」
「んで? ホントの理由は?」
「いや、そう言われても今言った通りよ? ティアと同じ部屋でイチャイチャしながら過ごしたいからやってきただけよ? ふへへ、すべすべー」
だらしない笑顔を浮かべながら俺の太ももに顔を埋め、頬ずりしているポーラへと軽くチョップを叩き込む。
まったく、くすぐったいからやめなさいっての。
「拒否権は?」
「え、嫌なのティア?」
質問に質問で返されてしまった。うーん、ポーラと一緒の部屋かあ。なんだか大変そうだ。
でもまあ、ポーラは嫌いじゃないし、むしろ好きだし……。まあ、嫌ではない、かな。
「べ、別に嫌ってわけじゃ……」
「じゃあいいわね! ハイ決定! っていうかもう荷物運んであるんだけどね」
ポーラの台詞を聞いて部屋を見渡すと、いつの間にかチェストが増えていたことに気付く。
「屋敷の人にも言っといたし? もう決定事項って言うか? そんなわけでよろしくね、ティア! 二人でイチャイチャヌルヌルョグチョグチョ楽しみましょ!」
そう言うが早いが、ポーラが俺へと飛び掛ってきてベッドに押し倒される。
しまった、油断してた!
「ちょっ……こら! 揉むなぁ! 離れろぉ!」
「うへへへへ……! こんなカッコして! 誘ってるんでしょ! もう辛抱たまらん!」
「これはポーラが持ってきた……! ちょっと待って、降参! 降参だってば!」
マズイ、マズイぞこれは。早く逃げなきゃ……!
ああ、でも押し倒されてる今無理矢理逃げたらせっかく貰ったこのベビードールが破れちゃいそうだし動けない……! やべえ、詰んだ!
「いやー、ティアのおっぱいって本当に揉み心地最高ねえ。何度揉んでも飽きないわぁ」
「こらぁ……んぅ……いい加減にっ……! んんっ……!」
くそう、負けるもんか! 絶対ポーラなんかに負けたりしない!
「いやー、いい汗かいたわ! それじゃティア、アタシは先に下りてるから、早く着替えて来るのよー」
「……! こにょぉ……! まれぇ……!」
やりたい放題やった挙句、さっさと着替えたかと思うとベッドの上に痙攣する俺を放置して部屋を出て行くポーラ。
無理……! 絶対無理……! やっぱ同じ部屋とか無理だこれ……!
そのまましばらくベッドの上でダウンしてると、ようやく落ち着いてきたのでよろよろとベッドから立ち上がる。
「し、しぬかとおもった……」
ポーラめ、こっちがプレゼントされたベビードールが破れないかどうかを気にして碌な抵抗ができなかったのをいいことに好き放題してくれちゃって。
「うぅ……ぐちょぐちょ……」
ベッドの上に投げ捨てられていた自分のパンツを手に取るも、とても穿けるような状態ではなかった。シーツも酷いことになってるし、どうしよう。
ポーラめ、後片付けとか全部押し付けてくれちゃって。……どうすればいいんだこれ?
仕方ないのでチェストまで行き、そこから新しいパンツとタオルを出す。そして体をタオルで拭いてから新しいパンツに穿き替える。シーツの件は後で考えよう。
「はぁ……。破れてないよな? 大丈夫……だよな?」
ポーラから貰ったこのベビードールを守る為に、碌な抵抗ができなくてこんな目にあったというのに、これでこのベビードールが破れてたら大ショックだ。完全に冗談抜きでガチ泣き確定である。
ベビードールを脱いで、無事なのかをじっくりと確かめる。そうして何度も何度も丁寧に確認した結果、破れもほつれも見当たらなかった。一安心である。
「ふぅー、よかった。本当に良かったあ。ふふふ……」
安堵のあまり、つい笑いが出てきてしまった。いやあ、でも本当に良かった。
こんなくだらないことでポーラからのプレゼントを傷物にしてしまったら、もう立ち直れなくなっていたところだ。
「ふう……。今は朝食の時間かなぁ?」
今から着替えて行ってもアレだしな。もうちょっと部屋でごろごろしてから行ってもいいだろう。
そう思い、再びベビードールを着てベッドを整える。……とはいっても汚れたシーツを外し、ベッドに掛け布団をかけるだけなんだけど。
シーツの処理についても色々考えたけどやっぱ無理。すっぱり諦めよう。メイドさんごめんね。でもポーラが悪いんだから、文句はポーラに言ってほしい。
とりあえず見た目だけ取り繕ったベッドの上に横になり、一息つく。
「これからポーラと一緒の部屋、か……。また今日みたいな事になったら困るなあ……ふふっ」
それにしてもこのベビードールどうしようかね。一人のときなら着てもいいかなと思った直後に一人の時間が消えてしまった。
ポーラの前で着てたらいつ襲われるかわかったものじゃないし……。
いや、それ以前にポーラが普通の服着てる横でこんなの着てたら完全に痛い人である。ポーラ次第ではあるが、やはり寝間着として着るだけになりそうだ。
「ポーラがいない今のうちに遊んどこっか」
よく考えれば、今は今後貴重になるかもしれない自由時間だ。ごろごろして潰すのは勿体無い。ポーラが戻ってくる前に、ポーラがいたらできないことをやっておこう。
「ふーむ」
部屋の隅に置いてある姿見の前に立ち、ベビードール姿の自分を再確認してみる。真正面から確認。鏡から見て斜めになるように立って確認。最後に適当にポーズを取ってみて確認する。
「むー……カッコよくない? 意外と悪くないかもだな……」
昨日はアレスとポーラに茶化されながらだったので恥ずかしさが上回っていたが……一晩たって一人になった今、冷静に考えてみるとそう恥ずかしがるものでもない気がしてきた。単純に慣れただけかもしれないが。
うん、なんだかスタイリッシュでカッコイイかも。……いやまあ、さすがに人に見せるほどの勇気はないけどさ。でも一人のときに着る分には全然アリだ。むしろ積極的に着てもいいぐらいだ。
しかし悲しいかな、その一人の時間がガクっと減ってしまったわけだが。
「ん?」
なんとなく人がいたような感じがしたので振り向いて部屋の中を見渡すが、別に誰もいない。ドアも閉まってるし……気のせいかな?
ふう、少し熱中しすぎたか。今回はよかったが、もしもポーラあたりに今の独り言を聞かれていたら大変な事になるのが目に見えているので気をつけないとだ。
「さて、そろそろ着替えて下りますかね」




