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24 ふて寝

「じゃあ早速着てみてくれないかしら? 絶対可愛いわよぉー」


「え゛、今? ここで? って言うかこれ着るの? 着なきゃダメなの?」


「当たり前じゃない。何でも聞くって言ったのはティアでしょ? 毎日使ってくれるんでしょ?」


「うっ……それは……」


 だってまさかこんなものをプレゼントされるとは思ってなかったし! もっとまともなものを送ってくれたんだと信じてたんだし!


 ベビードールを手に持ったまま後ずさってポーラから距離を取り、首を左右に振って嫌ですよアピールをする。

 いくら俺が元男で、そういう羞恥心のたぐいが薄いとはいっても限度がある。


 そのまましばらくの間ポーラと目線でバトルしていると、ふとポーラが俺から目線を外した。


「……はあ。そっか。どうやら、本気で嫌みたいね。ティア、ごめんなさい」


「え?」


 軽くため息を吐き、急にしおらしくなったかと思うと、悲しそうな目をして俺に謝罪してくるポーラ。急にどうしたんだ?

 肩を落とし、力なくうなだれるポーラを見ていると、なんだかこちらが悪い事をした気分になってくる。


「前に言ったでしょ? アタシはティアが本気で嫌がることはしないってさ。ごめんね? 嫌な思いさせちゃってさ」


「い、いや、別に嫌ってわけじゃ……ただ、その、驚いただけで」


 そうだ、嫌な事は嫌だけど、そこまで本気で嫌がってたわけではないはずだ。ちょっと恥ずかしかったから、照れ隠しに嫌がっていただけのはずだ。多分。


 よく見ると、いやよく見なくてもこのベビードール、可愛いし、格好いいし、俺に似合いそうじゃないか。

 毎日着るからさ。大切に使わさせてもらうからさ。そんな悲しそうな顔はしないで欲しい。


「いいのよ。無理しなくて。気を遣わさせてゴメンね? ……でも、悪気があったわけじゃなかったのよ? ホントよ?」


「え……あ……」


 ちがう、俺はポーラにこんな顔をして欲しいわけじゃない。こんな顔をさせたかったわけじゃない。

 ポーラに悪気はないのは最初からわかってた。悪いのは俺だ。精神は男だとか言って、俺がつまらない羞恥心なんて抱くから……。


「アタシはティアに喜んでもらおうと思ってたんだけどなあ……」


 そう、寂しそうに呟くポーラを見て、罪悪感が爆発した。

 慌てて肩を落としているポーラのそばへと駆け寄り、手を取って謝る。


「ゴメン、ポーラ! 嫌じゃない、嫌じゃないから! こういうの格好良くて好きだからさ! ただ、ちょっと照れくさくて、嫌がるフリしちゃっただけでさ!」


「……ティア! ええ、ええ! やっぱりそうよね! やっぱり、こういう衣装が大好きなのよね!」


「え?」


 俺の謝罪を聞いた瞬間、ニヤリと笑いながら速攻で顔を上げるポーラ。

 あれ? もしかして引っかけられた?


「さあティア、さっそく着替えて見せて頂戴! さあ! さあ!」


「あ、いや、でもここにはアレスもいるし……また後で……」


「ティアは僕に見られても気にしないんだろう? ささ、どうぞどうぞ」


 笑顔で先ほど遊ばれた復讐を行ってくるアレス。くそう、調子に乗ってアレスで遊ばなきゃよかった!

 自分の発言をそのまま返されたためぐうの音も出ない。


「う……うう……! 着替えればいいんだろ着替えれば!」


「よーしよしよし! わかればいいのよわかれば!」


 ちくしょー、いつかぎゃふんと言わせてやるからな。覚えてろよポーラ!






「ど……どう、かな……」


 ポーラの持ってきたベビードールに着替えたが、ぶっちゃけかなり恥ずかしい。

 きっと今の俺は顔真っ赤のはずだ。


「これは……! ああ、素晴らしいわ、ティア。正直なところ、今すぐ押し倒したいぐらいよ。ふふふ、アタシの見立ては間違ってなかったわね……」


「流石だね、ポーラ。君は本当にいい仕事をする。……ありがとう」


「ふ、礼はいらないわ。アタシは自らの欲望に忠実に従ったまでの事」


 ごくりと唾を飲み込みながら身勝手な事をほざくポーラに、真剣な表情でガン見してくるアレス。

 もうお前らいい加減にしろよ……!






「で? アレスとポーラはいつまでいるの? いい加減帰って欲しいんだけど。っていうかさっさと帰れ。着替えられないだろ」


 ベッドの中央あたりで、掛け布団で体を隠しながらアレスとポーラの二人を軽く睨みながら問いかける。


「は? 着替える? 何で? それ部屋着なんだし、別に着替える必要ないじゃない」


 呆れた目でポーラがこちらを見て来る。え、これ部屋着なの? 寝間着じゃないの?

 驚いてポーラの目を見ると、真顔で頷き返されてしまった。


「えっと……マジ? 女の子って普段こんなの着て部屋の中うろついてるの? うっそだぁー」


「マジに決まってんじゃない。アタシも普段はそんな感じよ? まあそこまでエロいやつじゃないけど」


「そ、そうなのか……はえー……」


 つい感嘆のため息を吐いてしまう。俺、今まで自室でも軍服で過ごして、寝るときだけ気分を変えるためにって理由でネグリジェに着替えてたんだけど間違いだったのか。


 まあよく考えれば、前世の男のときは部屋ではパジャマとかシャツにパンツで部屋うろついてたな。外行きの服だと締め付けとかがあって疲れるから、下着姿の方が楽って理由で。


 そう考えるとポーラの言う通りか。この体は疲労とか痛みとか、そういうのを一切感じないから忘れてたなあ。


「そっか……普通はそうなんだ……」


「ええそうよ。普通の女の子はみんな部屋ではこういうのを着ているの。だからティアも堂々とそれ着てればいいのよ」


 思わず漏れた俺の呟きに、ポーラがニコニコと笑顔で同意する。


 そうだったのか……。なら、俺も普段部屋にいるときはこういうの着なきゃ駄目なのか。一応、人間ではないということは隠しているわけだし。いやー、参考になるなぁ。


「いや、ティア。騙されてる。思いっきり騙されてるから。部屋でもちゃんと服を着ている人はいるからね?」


「え?」


 俺が一人感心して頷いていると、額を指で押さえたアレスが本当の事を教えてくれた。


 また嘘か! ほんとコイツ油断も隙もありゃしねえな! あやうく変態の称号を獲得するところだったじゃねえか!


「あ、コラ! アレス、アンタどっちの味方よ! もう少しで上手くいくところだったのに!」


「いや、だって流石にこれはバレたら本気で怒られそうだし……」


 ギャーギャーを醜い言い争いを続けるアレスとポーラ。二人を見ていると心が冷えていくのがわかる。


 ああうん、なんかもうどうでもいいや。着替えたんだし今日はもう寝るか。

 なんか今日はダメだわ、ポーラに勝てる気がしない。なんかそういう流れになっちゃってるし。これ以上起きててもロクなことにならなさそうだ。


「私もう寝るから。おやすみー。照明落としといてね」


「あ、ティア! 今日からアタシも――」


 布団に入りなおし、寝る体制に入る俺。

 そんな俺を見て、ポーラがあわてて何かを言おうとしているが関係ない。先に寝たもの勝ちよ。


 そのままスリープモードに入り、意識を落とす俺であった。

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