19 ポーラとお出かけ(前編)
朝、目が覚めたら目の前にポーラの寝顔がありました。近い近い!
慌てて顔を離そうとするも、両手両足を使って思いっきり抱きつかれているせいで身動きがまったく取れない。肌が触れ合う感覚的にポーラも俺も下着姿なのがわかる。
ええい、気持ちよさそうに眠りおって。ていうかどうしてこうなった。
一瞬だけ状況が理解できずに混乱するも、俺の超ハイスペックでスーパーでウルトラな頭脳は即座に答えを導き出す。
そうそう、確か昨日、俺がこの国の歴史について勉強してたらポーラが遊びにきたんだよな。まあ俺は無視して読書を続行してたんだが。
そうしたら暇を持て余したポーラが襲いかかってきて、なんやかんやで一緒に遊ぶ羽目になって、そのまま流れで一緒に寝ることになったんだよな。んで寝間着を持ってくるの面倒くさがったポーラに付き合わされて、何故か俺まで下着で寝る羽目になったと。
うん、完全に思い出した。しかしポーラより先に意識を落としたのは失敗だったな。まさか抱き枕にされるとは……。
確かに俺は寝返りとか打たないし――というか寝ている最中は身動き一つ取れないのだが――抱き枕としては申し分ないだろう。
俺の場合、寝ると言ってもそれは睡眠というより“電源を落とす”だしな。動きたくても動けないのだ。
まあ電源を落とすと言っても完全に機能を停止するわけじゃない。ある程度の機能は起動したままだし、すぐに復帰できる。
イメージで言えばパソコンのスリープモードか。
なぜ完全に停止させないのかと言えば答えは簡単。完全に停止させてしまうと自力で再起動できないからだ。さらに停止中及び再起動中は完全に無防備なので、その隙に襲われると危ないし。
「ていうかポーラ、なに被って……まさか!」
仕方ないので脱出は諦め、すやすやと眠るポーラを見ると……その頭に女物のパンツが被られていることに気付いた。なんというかもう、色々と台無しである。
まあ別にポーラが寝るときにパンツを被る変態だろうと俺は気にしないのだが、今回はそのポーラが被っているパンツに問題があった。
ポーラが被っていたそれは、黒いレースがお洒落なローライズのパンツだ。
しかも何の偶然か、俺が普段履いているのとまったく同じデザインである。
……うん。どう見ても俺のパンツです。
そういえば、起きたときからやけに股間が涼しいなと思ってたんだよネー。確認したくてもポーラに抱きつかれてるせいで確認できなかったし。
嫌な予感を感じ、なんとか動かせる指先を自分の下腹部へとやってみると……。
「…………!?!?!?」
……穿いてない。……穿いてなかった。
コイツ何してくれてんだ! 最低だ!
羞恥心が一気に押し寄せてきて、顔が熱くなる。たぶん、今の俺の顔は真っ赤っかに染まっている事だろう。
「んぅ……朝? ふあぁ……ねっむ……。……あ、ティアおはよ」
俺が涙目でプルプル震えているとポーラの大馬鹿が起きたようだ。
寝ぼけ眼のまま俺に挨拶をするポーラ。ふふふ、いい度胸だな貴様。
「ん? 何? 顔真っ赤にしちゃってかーわいー。なになに? アタシに抱きつかれてて照れちゃったの? うりうりー」
抱きついたまま器用に体をこすり付けてくるポーラ。どうやら、自分が俺のパンツを頭に被っていることは完全に忘れているようだ。
よろしい、ならば思い出させてあげようじゃないかこのド変態。
「ポーラ、頭のそれ、なあに?」
「え? 頭? ……あ゛」
俺はできる限り優しい笑顔を作り、甘えるような声を出してポーラに問う。
最初、ポーラは何の事か理解できないようで戸惑っていたが、頭に手を伸ばして被っているパンツに触れた事で自分が何をしたのか思い出したのだろう。間抜けな声を上げ、目線を俺から逸らして冷や汗を流す。
「え、えーっと。これにはとってもふかーい訳があってですね……」
「へえー? どんな理由? 私、すっごく気になるから教えてくれないかなー?」
ニコニコと微笑みながら猫撫で声で聞いてやる。やばい、焦ってるポーラ可愛い。見ていてて凄く楽しい。もっと苛めたくなってきちゃったかも。
「え、えっーと……」
「ねぇー? 何? 何で人のパンツを脱がせて被ってたの? 教えてよー?」
ふふふ、思えばポーラにはずっと攻められ続けてたからな。今度は俺のターンだぜ! 覚悟するがいい!
もしかしたら初めてかもしれないポーラへの攻撃チャンスに内心わくわくしていると、それまで俺を抱きしめていたポーラが俺を解放してベッドから降りた。
逃げるつもりかな? でも今のポーラは下着姿だしこのまま部屋の外には逃げれないだろう。
そう思ってそのままポーラの様子を見ていると、突然ポーラが自分のパンツを脱ぎだした。なんだこいつ!
「わかったわ! ならティアがアタシのパンツを被ればおあいこね! さあ被りなさい!」
「この変態がー!」
「おぐぁ!」
意味不明なことを言い出したポーラに近寄って腹パンをお見舞いする。
なんでそうなるんだよ! 意味不明にも程があるわ!
「う、ふふ……だって仕方ないじゃない……目の前に極上の餌を出されたら誰でもこうなるわ……。無防備にすやすや眠るティアを目にしたら誰だって脱がすわ……」
ならねーよ馬鹿。とりあえずパンツ返せ。
うずくまって苦しむポーラの頭からパンツを取り返して穿く。まったく、朝から酷い目にあったわ。
ああ、ポーラへ抱いていたイメージが物凄い勢いで崩れ去っていくなあ。まさかこんな変態さんだったとは流石に予想できなかった。
まあこっちのほうが親しみやすくていいけ……いや、やっぱよくないわ。流石に襲われるのは困る。
「ふふ、アタシが一瞬前まで被っていたパンツを今、ティアが穿いている……。これは興奮するわね! げふぅ!」
よろよろと立ち上がりつつ変態発言を繰り返すポーラの腹に膝蹴りを叩き込んで再びダウンさせる。
変なこと言うなよ! 意識しちゃうだろうが!
「よーし、それじゃあ行きましょうか? 忘れ物は無いわよね?」
「ふふん、子供じゃあるまいしそんなんしないって。ほら行こう!」
昼食後、俺はポーラとともに屋敷を出る。楽しいお出かけタイムの始まりだ。
そういえば昨日、ポーラは今日のお出かけをデートとか言っていたけど、やっぱりただ遊びに行くだけのようだ。
外で待ち合わせをしたりしないで一緒に家を出たのがその証拠だろう。ちょっと安心かな。
「さて、どこ行こうかな。ティアはどこか行きたい場所ある?」
先を歩いていたポーラが俺へと振り返りながら聞いてくる。行きたい場所ねえ……。
「うーん、武器屋、とか?」
「色気なさすぎ!」
う、うるさい! 確かに言ってから自分でも「これはない」と思ったけどさあ!
でもそれぐらいしか思いつかなかったんだからしょうがないだろ。
「はあ。ティアって何か趣味とかないの?」
「そりゃあるよ。そうだねえ、私の場合は……読書と狩りかな」
「ふーん。……ねえ、その、狩りの獲物って?」
「異種族や異国民」
「……なんというか流石ね」
正直に答えたら何故だかポーラに引かれてしまった。かなぴい。
……いやまあホントはわかってるけどさ。割と平和な現代でこんなこと言ったら引かれるって。
でもアレスとポーラの二人に嘘はつきたくないしなあ。仕方ないよね。
「ど、読書が趣味ってさ、ティアはどんな本読むの? 恋愛モノとか読む?」
俺の内心の落ち込みを察したのか、ポーラが慌てて俺に話題を振る。
ああ、気を遣わせちゃったか。悪いね。
ポーラを心配させないよう、俺も明るい声を出してそれに答えることにする。
「あはは、いやあ……私って中身がさ、ほら。だから読むのは冒険譚とか気軽に楽しめるやつかな」
嘘です、本当は漫画がメインです。素直に漫画って言うのは恥ずかしいので見栄張りましたごめんなさい。
「……ふーん。でも食わず嫌いはよくないわよ? アタシのオススメ紹介するからさ、一度読んでみなさいって。面白いからさ!」
ポーラが一瞬だけ不機嫌そうに目を細めたように見えたけど……どうやら気のせいか。
それにしても恋愛モノかあ。笑顔でオススメしてくるポーラには悪いけど、やっぱ趣味じゃないんだよねえ。嫌いってわけじゃないけど、なんというか気恥ずかしいのだ。
でもまあ、ポーラと共通の話題ができるってのは魅力的かな。やっぱりこう、楽しく盛り上がった話がしたいし。
「わかった。じゃあ読んでみるよ」
「いよぅし! じゃあ早速行きましょうか? こっちよ、ついてきて!」
何が嬉しいのか、ポーラが小さくガッツポーズして喜び、それに釣られて俺も笑みを浮かべる。
もしかして、俺と共通の話題ができることを喜んでくれていたのかな? そうだったのなら嬉しいな。
上機嫌のポーラが俺に手を差し伸べてくるので、俺はその手を取る。
ポーラは俺が手を取ったのを確認すると、手をぐいっと思い切り引っ張って俺を自分のほうに引き寄せる。
「わわっ!」
「ほらほらー! いっそげいっそげー!」