16 オーク退治
「えい」
「あ……が……」
真正面から適当に駆け寄って適当に放った突きがオークの心臓をグサリと刺す。素早く剣を引き抜きバックステップ。剣を振るって付着した血を振り払う。
心臓を貫かれたオークは目を見開き、変な悲鳴を上げた後にその場に崩れ落ちピクリとも動かなくなる。ああ、大して貴重でもないゴミのような命がまた一つ消えてしまった。やったぜ。
それにしてもこいつらマジ弱いわー。遅いし脆いし見るべきところが何一つない。
「貴様ァ! 生きて帰れると思うな!」
「人間風情がぁ!」
「うおおぉぉ!」
仲間をやられた怒りか、雄たけびを上げながら集団のうちの三体のオークが俺に突進してくるが――。
「そこぉ!」
「があぁぁぁぁ!」
うち、中央を走っていた一体がポーラの放った炎属性を付与された矢で胸を射抜かれて転倒し、そのまま燃え広がった炎に包まれてのた打ち回った後に焼死する。
あそこまで燃え広がるとはポーラもやるね。これは確かにアレスが言うとおり優秀だ。
「よそ見厳禁ってね」
「く……そ……」
「お……ご……」
二匹のオークがやられた仲間のほうに注意を向けた隙を突き、側面に回りこみつつ一気に接近する。駆け抜けながら一匹は左薙ぎで胴体を両断し、その勢いのまま突きを放つことで残る一匹の心臓も貫く。
俺みたいに全周囲を同時に警戒できるのならともかく、そうじゃないのに相手から注意を逸らしちゃ駄目だよ。今回の経験を生かし、来世では頑張りたまえ。
「もらった!」
俺が視線を集めた隙に、今度は白銀の鎧を纏ったアレスがオークの集団に突撃をかけ、ポーラと同じく炎属性の属性付与魔法を発動した剣で斬りかかった。
一番近くにいた一匹目の首に突きを叩き込み、その勢いのまま右側にいた二匹目の胴を切り裂く。
「いい加減にしろ人間!」
オークがアレスへと走りよって剣を振り下ろすも、その一撃は魔力で身体能力を強化したアレスに軽く弾かれる。
渾身の力を篭めたであろう一撃を弾かれ、無防備になったオークにアレスがお返しとばかりに上段斬りを叩き込む。これで三匹始末か、やるねえアレスも。俺も負けてられないな。
「くそ! コイツら、ただの人間じゃない!」
「挟み撃ちだ! 同時に行けば!」
一対一では勝てないと理解したか、槍を持った二匹のオークがアレスを挟み撃ちにしようと左右から同時に襲い掛かろうとするので――。
「死ね」
「アタシも忘れないでよね!」
大地を強く蹴り、アレスに襲い掛かろうとしていた一匹に全速力……には程遠いが、それなりのスピードで接近する。
まあアレスならこうやって手助けするまでもなく余裕で迎撃できるだろうけど。
「な! ちく……しょ……」
結構な距離が開いていたはずなのに一瞬で接近した俺に驚いたか、オークの目が見開かれる。
驚いてる暇があればさっさと武器構えればいいのに、所詮はオークか。まあ、ここまで接近されたらもう遅いけど。
そのまま突進の速度を利用して突きを放ち、心臓を貫いて始末する。
突きって返り血がかかりにくいからいいんだよね。それに、急所のみを的確に貫いて殺す技とかカッコよくね?
もう一匹の方はポーラによって脳天を燃え盛る矢で穿たれ、地に倒れ伏す。即死じゃないのか、ピクピクと痙攣していて面白い。その間抜けっぷりについ笑ってしまう。
「うわあああぁぁ!」
「嘘だ、嘘だ!」
「あ、逃げた」
「まあ、流石にここまでやられたら逃げるよね」
仲間の大半が一方的にやられたことで恐怖を感じたか、オークが武器を投げ捨てて全力で逃げ出した。どうやら森に逃げ込もうとしているようだ。
それをのんびりと眺めながらのん気な台詞を吐くポーラとアレス。追いかけないのだろうか。疲れたのかな?
……まあいいか。二人はやる気がなさそうだし俺が動こう。
それに何を隠そう、俺は逃げ惑う相手を追いかけて殺すのは得意なのだ。なんてったってガルム時代にいっぱいやってきたからな!
足に力を篭め、一気に飛び出す。そのまま剣を構えて突きの体勢を取り、逃げるオークの心臓を背後から貫く!
「がふっ……! は、はええなオイ……」
「お前たちが遅いだけだよ」
敵に褒められてもまったく嬉しくないんだよなあ。しかもオークだし。どうせならアレスに褒めてもらいたいものだ。あ、あとポーラにも。
剣を引き抜くと同時にオークが崩れ落ちる。逃げ出したもう一匹のオークは相方の死体を信じられないといった表情で見たまま動かない。
「やっぱ、敵は皆殺しにしなきゃモヤモヤするしね」
誰に聞かせるわけでもなく呟いた後、茫然自失といった感じで固まっている最後の一匹に向き直る。
俺が向かってくるのを見て我に返ったようだが、逃げられないことを悟ったかキョロキョロと周囲を見渡すばかりで動こうとしない。
かまわず歩いて近寄ると、最後のオークが地面に跪いて命乞いをしだした。
「た、助けてくれ! 何でもする! これでも力には自信が――」
「死ね」
できれば心臓を貫いてやりたかったのだが、跪いているせいで狙いにくい。心臓突き刺すの好きなんだけどなー。
仕方ないのでちょうど狙いやすい位置にあった脳天に剣を突き刺す。うん、これにてお仕事完了だ!
センテの町より南へしばらく移動した場所にあるモトリス平原。
そこに気性が荒かったりしてオークの集落から追い出された問題児軍団がやってきたらしく、その討伐に俺とアレスとポーラの三人は来ていた。
ちなみに、まだ馬に乗れない俺はまた相乗りさせてもらっている。今回はアレスの後ろではなく、ポーラの後ろに乗せてもらっていた。
まあ、今回のアレスは鎧を着ていたしな。抱きつきにくいから仕方ないか。
追い出された暴れん坊オーク達は集落から追い出されたのでろくな武器も防具も身に着けておらず、その装備はボロ切れのような服に粗末な剣や槍、酷いものだとお手製の棍棒と極めて貧弱だ。
さらに問題児集団だけあってか高度な連携も取れないと、残念な敵である。まあそれでも腐ってもオークと言うべきか、腕力やタフネスはそれなりに脅威なのらしいが……俺やアレスの敵じゃあなかったな。
それに加えてポーラも結構な腕前だったし、本当に今回の依頼は楽だった。
とりあえず終わったという事を示す為、アレスとポーラの方に向き直り笑顔でピースサインをする。
「終わったよー!」
「う、うん。そうね……」
「あはは……」
歩いて二人の元に向かうも、引き攣った笑顔を浮かべるポーラと曖昧な表情をするアレスに迎えられた。何故だ。
追いかけたのが不味かった? あそこは逃がすべきだったのか? いや常識的に考えて逃げた魔物を放置は不味いだろう。つまり俺の行動は正しかったはず。
しかしアレだ。別に褒めてもらいたかった訳ではないが、そう引かれると気が沈むじゃないか。
「はあ。ティア、貴女…………いえ、なんでもないわ」
「へ?」
ポーラがため息を吐き、俺に何かを伝えようとするも、途中で取り下げた。
その様子に首を傾げる俺。すまん、俺何かしたか?
「なんでもないわよ。ほら、さっさと帰りましょ? 汗かいたしお風呂入りたくなっちゃった」
ポーラは手をひらひらと振り、街道のほうに歩いていく。それにしても、ポーラは俺に何を伝えようとしたんだ?
少し考えてみたが何も思い浮かばない。あー、モヤモヤするなあ。
「ほらー! 帰るわよー! さっさと来なさーい!」
「ふう。帰ろうか、ティア」
「あ、うん。そうだな」
アレスに従い、思考を打ち切る。まあ、考えても分からないことをいつまでも考えても仕方ないか。
依頼も終わったし、センテに戻ろう。




