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15 ポーラとの話し合い

 目が覚めたら日はほぼ落ちており、外はかなり暗くなっていた。ポーラはどうしたのだろうか。屋敷も静かだし帰ったのかな?


 一度意識を落としたことで気分はすっきりしており、さっきまでの湿っぽい気分は吹き飛んでいた。

 居間に下りるのも面倒だったので書き物机から本を持ってきて、それをベッドの上で寝転がりながら読む。


 内容は国一番の勇敢な騎士が悪いドラゴンに浚われたお姫様を助けるためあちらこちらを駆け巡る、といったよくある冒険譚だ。


 しばらく読んでいると部屋の扉がノックされ、アレスの声が聞こえる。俺は返事をし、鍵を開けてアレスを迎え入れた。


「どうかした?」


「ああ、うん。急にいなくなるから心配になって、さ」


 お互いに椅子に座って向かい合うも会話が始まらないので、俺から話しかけることに。

 それに対し歯切れの悪い調子で返答するアレス。


「あー、なんか楽しそうだったし、二人の邪魔しちゃいけないかなって思ったんだけど」


 嘘ではない。気を遣ったのは本当でもある。そのあと、妹たちを思い出して湿っぽい気分になったってところまでは言わないが。


 アレスも俺が全部言ってないことは察したのか微妙な表情だが、追及する気はないらしい。


「……ならいいけど。それより、ポーラの事だけどティアはどう思った?」


 ポーラねえ。個人的には高評価かな。貴族だけど居丈高ってわけでもないし、俺にも気軽に接してくれたいい子だし。まあ、悪い子ではないだろう。

 感情表現も豊かで、横から見てる分には面白い。直接相手をするのは、俺みたいなのんびり系からすると疲れそうでちょっとご遠慮したいけど。


 そうアレスに伝えると、嬉しそうな困ったような、なんともいえない表情をされた。それにしても、何で急に俺からポーラへの評価を聞いたんだ?


 軽く疑問に思っているとアレスがそれに答えてくれた。


「ティアの秘密の件だけど、ポーラにも伝えて協力してもらおうかなって。学校に行ったらさすがに僕だけじゃカバーしきれないし、同性の仲間がいたほうがいいと思ってね。ポーラは人の秘密をペラペラ喋るような子じゃないし、信頼できると保障するよ。父さんも賛成してるし」


「わかった。まあそこらへんの判断はアレスに任せるよ」


 アレスが信頼できると言うならいいかな。実際にトロール討伐後の朝にやらかしかけた俺としても協力者は多い方がいいし。まあ、多すぎるのも問題だけど。


 そう思い許可を出すと、アレスがほっと一息ついた。


「ポーラはしばらくの間うちに滞在するらしいから、後で打ち明けに行こうか」


「了解」


 話が終わったのに、アレスは席を立とうとしない。席を立とうとした俺も、まだ何かあるのかと座りなおす。


「未来のポーラはさ、騎士学校が悪魔に襲撃された際に殺されてしまったんだ。……だから、ティアに守ってもらえたらなって」


 思ったより重い話だったでござる。なるほどね、それで俺をわざわざ学校なんかに放り込もうとしたわけか。ようやく納得したわ。


 ポーラのことは俺も気に入ったし、一肌脱いであげますか。ここで俺がポーラを華麗に救ってやれば、しばらくはアレスにでかい顔ができそうだしな!


「ま、確かに俺なら同性扱いでアレスより近くでガードできるしな。わかった、このティア様に任せなさい!」


「ありがとう。それじゃ、僕も部屋に戻るよ」


 今度こそ席を立ち、扉の方へ歩いていくアレスに手を振って答える。

 それにしてもポーラの説得かあ。仲間が押しの弱いアレスだけじゃ心細いな。俺も口が上手いほうじゃないし。


 ハインツさんあたりが協力してくれたら楽なんだけどなー。






 夕食後、アレスの部屋に俺とアレスとポーラは集合した。まあ、俺は狸寝入りで夕食はスルーしたのだが。他人の食事風景を眺めてるのって退屈だしね。


 部屋に集まると同時に、アレスがハインツさんより借りてきたのだろう防音のマジックアイテムを早速使っていた。うむ、これならポーラが叫んでも安心だな。


 それにしてもアレスの部屋に入るのは初めてだな。きちんと整理整頓されており、物も少ない。アレスらしいといえばらしいが。

 三人で椅子に座り、向かい合う俺たち。最初に口火を切ったのはポーラだった。


「それで? アタシとティアを呼びつけて何の用なの?」


「ティアの事情について説明しようかなって。ポーラ、これから話すことは他言無用でお願いするよ」


 おお、アレスからかつてないプレッシャーというかそんな感じのものを感じるぞ。アレスってこんな雰囲気出せたんだな。ちょっと感動。

 ポーラもアレスの真剣さが伝わったか、息を呑んで真剣な表情になる。


 そして、アレスによって俺の説明が始まった。自分のことだし、俺も横からちょくちょく補足して協力する。


 ポーラも最初は信じられるかとうるさかったが、パフォーマンスとして手首をキュイーンと高速回転させてやるとあっさり信じてくれた。


「はあ……、伝説のガルム帝国の戦闘兵器ねえ。こんなの知ったら学者連中がひっくり返るわね」


「そういう事だから、くれぐれも他言無用で頼むよ」


「まあ、言ったところで誰も信じてくれないだろうけどね。それで? アタシに教えたってことはティアのサポートでもしろってこと?」


「うん。ティアには騎士学校に入ってもらおうと思っててね。それで、できれば同じ寮で事情を知っている人が欲しくてさ。いざというときのフォローをポーラにはお願いしたいんだけど、いいかな?」


「まあ、アタシはいいけどさ。それにしてもずいぶんと過保護なことねー。それで、フォローするのは別にいいけどさ、アタシは何を気をつければいいの? とりあえず飲み食いできないのと魔法を無効化するって事はわかったけど」


 ポーラの質問を受け、アレスは数秒ほど考えた後にその質問に答える。


 にしても俺のことだってのにほとんどアレスが喋ってるな。まあ教えちゃまずい情報とかを取捨選択してくれてるんだから感謝なんだけどさ。


 俺はこの時代に詳しくないから、ついうっかり重大情報を漏らしちゃう可能性が無くは無いんだし。


「そうだね……とりあえず気をつけて欲しいのはその二つかな。ちなみにティアの魔法無効化に関してだけど、正確には“魔力を消し去る”だね。それが魔力ならば問答無用で、見境無くかき消してくるから厄介なんだよねーこれが。ただ魔法をかき消すだけじゃなくて、マジックアイテムの類もガラクタにしちゃうし」


「……うわあ面倒臭い。その機能って停止できないの?」


 ポーラが俺の方を見ながら質問してくる。

 うーん、ポーラが言いたいことはわからんでもないんだけど……。


「一応、ここみたいな安全な場所では消してるよ? でも、学校みたいな人が多くていつ襲われるかわからない場所じゃ消したくはないかなあって。まあ、高価なマジックアイテムや重要な魔法陣があったら注意してくれればちゃんと対処するから大丈夫だよ」


 ポーラには悪いが、町や学校みたいな場所でこの機能を常時消すってのは流石に怖いのだ。

 ちょっとの間だってのならともかくね。


「うーん、まあいいわ。じゃあちゃんと消すべきところではその能力消してよね?」


「うん」


 ポーラの要求に頷いて了承の意を示すと、ポーラも満足そうに頷き返してくれた。

 ふう、とりあえずこれで交渉は完了かな?


「ところでさ、ふと思ったんだけどティアは魔力を消すのよね? それじゃあスライムみたいな魔法生物に触ったらどうなるの?」


 首をかしげながらポーラが質問してくる。おお、いい質問じゃないか。

 ふむ、ここは素直に答えてあげようじゃないか。聞いて驚け!


「死ぬよ」


「えっ」


「ははは……魔力を消し去るティアと魔法生物の相性は物凄いことになっていてね。魔法生物では戦闘以前に、ティアに触られるだけで肉体の構成を維持できなくなって死んでしまうんだ」


 ポーラが俺の回答に驚く。ふふん、いい反応だ。

 そしてアレスがそんなポーラに苦笑しつつ俺の回答を補足する。


 まあ、正確には俺に触られるとじゃなくて、俺の展開する魔力消失領域に触れられると、なんだが。まあ似たようなもんだしいいか。

 余計なものを巻き込まないよう、普段は基本的に体の周囲を覆うように展開してるからな。


「ちなみに肉体を魔力で構築している悪魔や精霊なんかとも相性がよかったりするんだよねー。悪魔で例えるなら下級悪魔は俺に触られると即死で、中級悪魔は指一本動かせないレベルの重症。上級悪魔までいくと流石に死にはしないものの、行動に支障が出るレベルのダメージは与えられるかな」


「とんでもないわね……」


 ふんぞり返ってドヤ顔で解説する俺にポーラが呟く。そう、ぶっちゃけ悪魔とか敵ではないのだ。ガルム時代にはよく狩って遊んでたし。


 悪魔のほうも俺を見ると全力で逃げ出すから鬼ごっこみたいで楽しかった。ああ、思い出したらまたやりたくなってきたなあ。


 まあ、未来からの逆行者であるアレスも俺と悪魔の相性のよさを知っていたからこそ、俺に学校に湧くという悪魔退治を頼んだのであろう。






 その後も話を続け、ひと段落ついた頃。ポーラが突然、笑顔で(俺にとっての)爆弾発言をかましてくれた。


「あ、そうそう。協力してあげてもいいけど、その代わりこれからティアはその俺って一人称禁止ね」


「え? ちょっ、何で? こっちの方が気楽でいいんだけど?」


 何故また急に。人前では使わないんだからいいじゃん。いやまあボロを出さないようにするにはその方がいいんだろうけどさ。


「その可愛らしい外見で『俺』とか言われると違和感感じると言うか? なーんか見ててモヤモヤするのよね」


「違和感ぐらいだったら別にいいじゃん。女の冒険者には男口調の奴も結構多いらしいし……」


 ジロリと睨むポーラに気圧され、少しずつ声が小さくなっていく俺。ぶっちゃけ向こうの方が正しい意見だし強く言えねえ。


 俺一人では勝ち目が見えないのでアレスに目線で助けを求める。頼む、お前だけが頼りだ!


「まあまあ。僕はこれはこれでアリだと思うよ? 人前では使わないから、信頼されてるって気が――」


「黙れ」


「はい」


 ポーラの一睨みで撃沈するアレス。

 よっわ! アレスよっわ! いやまあポーラのマジ睨み怖かったけどさ。


「大体アンタはティアを甘やかしすぎなのよ。ちょーっとティアに目で訴えかけられると大喜びで手助けに入ってさ」


「あはは、可愛いからつい。でも仕方ないだろ? あの不安と期待が入り混じった眼差しでじーっと見つめられると、こう、なんというか胸の奥が――」


「あ゛?」


「すいませんでした」


 女の子が絶対に出してはいけない声でアレスを威圧するポーラ。正直いまのはこわい。俺もちょっと腰が浮きかけたもん。


 机に頭を擦り付けて謝罪するアレスを、まるでゴミを見るかのような目で見つめてるポーラ。

 なんだか今のポーラを見ていると何かいけない扉が開いてしまいそうな気がしてくるぞ。



 その後、アレスが意外な粘りを見せちまちまと反論するもすべてポーラに正論で潰され、結局男言葉は禁止になってしまった。

 俺? 俺はポーラが怖かったので早々にリタイアしましたが何か? ヘタレでごめんよアレス。


 にしても本気で残念がってくれるアレスを見ていると友情に胸が熱くなるというか、申し訳なってくるというか。


 まあぶっちゃけ、ポーラの見てる前で使わなきゃいいだけの話だしな。バレなきゃいいんだよバレなきゃ。


 それよりもとりあえずあれだ。ポーラは怒らせないよう気をつけとこう。うん。 

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