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14 ポーラ強襲

「アーレースー! さっきの女の子は何よー!!」


 屋敷に戻ってアレスと二人で居間でくつろいでいると、さっきの爆走少女がカチコミをかけてきた。ドスドスと足音荒く廊下を歩く音が聞こえる。


 やはりアレスにホの字のポーラちゃんとやらだったか。やれやれ、やっとアレスを宥め終わったというのに次から次へと。


 それにしてもコリンの情報通り、気が強い娘らしい。まあ、押しの弱いアレスの相手にはちょうどいいのかもな。


「さあ、話してもらうわよアレス!」


 扉を開け、仁王立ちしながらアレスを指差して吼える少女。バーンという効果音が似合いそうだ。

 さて、面倒ごとに巻き込まれるのも嫌なので俺は部屋に戻るとしますかね。


 あの、アレス君? 腕、放してもらえると嬉しいなって。え、逃がさない? ですよねー。

 部屋に戻ろうと席を立とうとするも、アレスに腕をつかまれて阻止されてしまう。


 そして、そんな俺たちを見てさらに怒り狂う少女。うーむ、アレスを連れて逃げずに、生贄として差し出すべきだったか。






「ふーん、つまり彼女はアレスが外出先でであった凄腕の傭兵で、その腕前はハインツさんと互角クラスと」


「あ、ああ。無理言ってうちの食客になってもらったんだ」


 その後、ソファーに座らされてメイドの持ってきたお茶を飲みながらアレスから俺の説明を受けた少女。

 ポーラ・マクニールと名乗った彼女は、アレスの説明を聞き終わると席を立ち上がり、なるほどなるほどーと笑顔でアレスに歩み寄る。


 おお、この後の展開が読めたぞ。アレスも読めたらしく、顔が引きつっているのが面白い。


「信じられるかー! 嘘つくにしてもマシな嘘つきなさいよー!」


「ふぉんろうらっれふぁー!」


 アレスの頬を両手で引っ張りながらポーラがまた叫ぶ。それを見てつい笑ってしまう俺。こいつら面白いな、見てて飽きないわ。

 感情表現が大げさで面白いし、気さくだし、この子ならアレスの相手でも安心だな。


 そのままアレスの頬をしばらく引っ張っていたポーラだったが、アレスに話す気はないと思ったか俺をターゲットにしたらしい。


 ポーラが再度ソファーに座り、俺を見ながら話しかけてきた。


「えっと……ティアさんよね? 貴女とアレスってどういう関係なのかしら?」


「うーん。どういう関係も何も、アレスの言ったとおりだよ? 嘘だと思うなら、ハインツさんにでも聞いてみればいいんじゃないかな?」


 まだ信じられないらしく、嘘よね……とかこんな可愛い子が……とかぶつぶつと呟きながら不満そうな顔をするポーラ。


 ふーむ、褒めてくれるのは嬉しいが本当のことなんだよなあ。


「ティア、本当のことを言っていいのよ? どうせアレスに弱みでも握られて連れてこられたんでしょ。貴女みたいな可愛い子が傭兵なんて信じられないわ」


「いや、それが本当なのですよポーラ様。私も旦那様と彼女の模擬戦を見させていただきましたが、本当に凄かった」


 全然信じてくれないポーラに対し、紅茶のお代わりを持ってきたクレイさんからの援護射撃が入る。

 ナイスタイミングだ。できる執事は空気も読めるってか? ナイスだぜ。


「クレイさんまで……。ってことはこの子って本気で強いの? こんなに肌とか綺麗なのに? うわっ柔らか……」


「ふぉのろおり」


 ようやく認めたらしきポーラが、今度は俺に近づいてきて頬ををむにむにとつまむ。

 そりゃ綺麗だろうよ。所長いわく男の子の夢を詰め込んだ素敵ボディだからな。

 自動修復機能のおかげで常に最高の状態を保っているというオマケつきだ。お手入れ要らずとか羨ましかろうフハハ。


「ほぅ……」


 ポーラが俺の頬を上下にむにむに。横にむにむに。まだ手を離してくれない。


 こら、いつまで揉んでる気だ。いい加減離しなさい、離してください! くそう、助けてアレース!


 アレスに目線で助けを求めるも、当のアレスはなにやら優しげな目で俺とポーラを見つめたまま動かない。

 ええい、肝心なときに使えない! いつまでも見てないでさっさと助けろくださいお願いします!


「ふぁれふー!」


「……あ。ほらほら、ポーラ。ティアが嫌がってるからその辺で」


「あ、うん。ゴメンね、つい」


 声に出して助けを求めると、ようやくアレスが助けてくれた。ふう、助かった。

 助けるのが遅いとジロりとアレスの方を見てやると、苦笑しながら手を立てて謝罪のポーズを取ってくれたのでよしとしよう。


「それでポーラは何のためにうちに?」


「暇だったから遊びに来たのよ。うちの領土は最近、魔物の討伐依頼もなくてねー。アンタのとこなら依頼いっぱいあるでしょ? 手伝うわよ」


 ニヤリと笑いながらガッツポーズを取るポーラ。

 魔物の討伐が趣味の貴族令嬢とかひっでえなオイ。いや、俺も趣味は似たようなもんだけど立場が違うしな。

 俺は兵器でポーラは貴族。俺が魔物を殺すのはごく自然なことだけど、ポーラは不味いだろ。よく親もこんな趣味許してるよな。


「ご両親の許可って――」


「貰ったわよ。アレスと一緒ならって条件つきだけどね。ハインツさんも許してくれたわよ?」


 深いため息をついた後、ガックシと肩を落すアレスが面白くてつい笑いがこぼれてしまう。

 いやー、信頼されてますねぇアレス君。


「まあ、ティアの実績作りのために討伐依頼受ける予定だったからかまわないけどさ」


「実績作りぃ? なんでそんな事?」


「ティアはもの凄く強いんだけど、正式な依頼とかを受けていたわけじゃないから実績の類がなくてね。うちの食客として、みんなが納得できるだけの実績が欲しいのさ」


 ポーラの疑問にアレスが答え、それを聞いて納得したのかポーラが頷く。


「なるほどね。うちと違ってアンタのとこは有名だし、大変ね。で、出かけて立ってことは依頼受けてきたんでしょ? 何を討伐してきたの?」


「トロールさ。ヴェルデ村の近くに六匹ほど住み着いてね。僕とティアで三匹ずつ倒してきた」


「は?」


 口をあんぐりと開けて聞き返してくるポーラ。間抜けなんだけど今までの勝気な娘がこんな表情してると思うと可愛いな。


 そのまま数秒ほど硬直していたが、ふと我に返ってもう一度聞いてきた。


「えーっと? よく聞こえなかったんだけど。何を、何匹、倒してきたって?」


「トロールを僕とティアで三匹ずつ、計六匹」


「はあああああ!? アンタ馬鹿でしょ! 剣士二人で行くとか何考えてんのよ! しかも六匹って!」


 うがーっと吼えるポーラ。別に俺一人でもアレス一人でも余裕で片付けられる雑魚なんだけどな。


 ああ、でもアレスは青いオーラ纏うアレは隠してるんだっけ? いや、それ抜きでも余裕だろうし、実力を隠しているのかね?



「でも雑魚かったよ? そもそもあいつらトロすぎて全然脅威でもなんでもないし」


 それに二人じゃなくて五人だし。万が一何かあったとしても、他の三人が援護してくれただろうから問題無いはずだ。

 そう語る俺を見てポーラがため息を吐く。何が気に入らないのやら。


「まあ、ハインツさんクラスならそう思っても仕方ないけどさ。本来なら弓や魔法で弱らせてから剣や槍で仕留める相手なんだけどなあ」


「何それ面倒。最初から剣で殺せばいいじゃん」


「だからそれができたら苦労しないっつってんじゃない!」


 つい口を挟んでしまい、ポーラに怒られてしまった。それにしても面白いなポーラは。大げさに反応してくれるので弄りがいがある。


「まあまあ。それで次はモトリス平原のはぐれオークの討伐に向かおうかなと思ってたんだけど……」

「ふーん、何人で?」


「僕とティアの二人で」


「アンタいい加減にしなさいよ?」


「ちょっとポーラ!? なんで怒るのさ!」


 俺を放置して二人でわいわいと騒ぐアレスとポーラ。……二人とも、楽しそうだな。


 楽しそうにはしゃぎあう二人の姿を見ていると、昔の、みんながいた頃を思い出してきてなんとなく寂しくなってきた。


 俺がいたら二人の邪魔のような気がしてきたので、足音を殺してそっとその場を離れ自室に向かう。


 タイミングがいいのか悪いのか、ちょうどこちらを見ている人はいない。

 部屋を出た俺は足音を殺したまま急ぎ足で自分の部屋に戻り、扉に鍵をかけてベッドの上に寝転がる。


「レヴィア……フェルニ……会いたいなあ……」


 ため息を吐きながらそう呟く俺。目を閉じて思い返すは笑顔の妹たちだ。


 ……なんとなく湿っぽい気分になってしまったので、気分をリセットするために一度スリープモードに入る。一度意識を落とせばこのモヤモヤも晴れるだろう。


 そうして意識が落ちる瞬間、何故だか、部屋の扉が叩かれる音がした気がした。

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