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13 追いかけっこ

 翌朝、コリンに食欲が沸かないから朝飯はいらないとゴリ押すものの、当然のごとく不振がられることに。

 アレスの援護でなんとかその場は切り抜けられたが、本気で焦ったな。トロール退治の何倍も強敵だったぜ……。


 ちなみにその後、アレスからすごく残念な人を見る目で見られてしまった。仕方ないだろ! いい言い訳が思いつかなかったんだから!


「皆様、今回は本当にありがとうございました」


「いえいえ、お気になさらないでください。当然の務めを果たしたまでですので」


 センテの町へ帰ろうとすると、入り口までお供を連れた村長が見送りに来てくれた。村長の見送りの台詞に格好いい台詞で返すアレス。

 何度も頭を下げる村長たちに見送られ、俺たちはヴェルデ村を後にするのだった。






「それじゃあ、僕とティアはあっちで食べてくるよ」


「了解しました。我々はここにいますので、何かあれば……」


「ああ、わかってる。それじゃあティア、行こうか」


 草原での昼休憩、俺はアレスに引かれて三人とは少し離れた場所で食事をすることになった。


 アレスに手を引かれて小さな丘を一つ越えると、小さな池があった。 街道からは少し離れてしまったが、俺とアレスの戦闘力なら魔物が来ても問題ないだろう。二人で池のそばにある木にもたれかかるように座り込む。


 いやあ、朝に思い切りやらかしちゃったから手助けしてくれるのはありがたいんだけどさあ。


「いい場所を見つけたから二人だけで食事したいとか、絶対に勘違いされるよなあ」


「いやあ、僕もこういう言い訳とかはティアに任せる予定だったんだけど……まさかティアがあそこまで天然だとは思わなくてね」


 ぐぬぬ。笑顔でさらっと毒を吐きおって。いやまあ俺が悪いから仕方ないんだけどさ。


「ま、まあ、俺は勘違いされても実害とかないからいいけどさ、アレスは不味いだろ。貴族なんだし」


「ははは、ティアが相手なら勘違いされても悪くないね」


 臭い台詞を吐くアレスにジト目を向ける。お前そんなプレイボーイキャラじゃないだろと。

 まあ俺をからかって遊んでいるのだろうが、流石にこんな露骨なからかいに引っかかる俺ではないのだ。


「精神が男だと知った上でその台詞を吐けるとかお前すげえなー。全然痺れないし憧れもしないが」


「手厳しいね。さて、それじゃあ食べようか。とはいえ、僕だけでなんか申し訳ないんだけど」


「食欲の類は持ってないから別にいいよ。アレスだって満腹のときに他人の食事風景見せられても何とも思わないだろ?」


「そんなものかな?」


 多分、そんなもんだと思う。食欲がどんな感じだったかなんてもう完全に忘れちゃったから、もしかしたら違うのかもしれないけど。


 楕円形のパンに肉と野菜をはさんだサンドイッチを食べるアレスを横目に池を眺めて暇を潰す。

 あのタイプのサンドイッチは確か、地球では形が潜水艦みたいだからとサブマリン・サンドイッチとか呼ばれていたはずだ。


 まあ、こっちの世界には潜水艦なんてないから普通にサンドイッチとしか呼ばれないけど。


「二人分も食べて大丈夫か? 勿体無いけど池に捨てちゃっても……」


「いや、さすがに捨てるのはちょっとね。それに、今回は僕の分を減らしてもらったからね。合わせて一人半前ぐらいだし大丈夫だよ」


 俺の分のサンドイッチを渡す際に、食いすぎ大丈夫かと聞いてみたが問題ないと帰ってきた。


 まあ、アレスはガンガン運動するから太ったりはしないと思うけど、胃袋が大きくなったり万が一太ったりしたら俺のせいだよな。


 もういっそのこと人間じゃないからとバラすべきか? 飯もそうだが、それ以外にもいちいち人間の真似するの面倒だし。

 アレスにそう伝えてみると渋い顔をされてしまった。


「黙っておいたほうがいいよ。そんなことを言えば間違いなく大騒ぎになるし、ティアの望みである『妹との平穏な生活』も遠のくよ?」


「うへえ、それは困る」


 多少不便なだけで、別に我慢できないってわけじゃないしな。大人しく人間のフリ続けますか。


「ふう、ちょっと食休み」


「はいよー。それにしても平和だねえ」


 あとはここに妹たちがいればもう何も言うことはないんだが。早く会いたいなあ……。


 まあ、焦ってもしょうがないんだけどさ。お互いに死んでるわけじゃないんだし会えるだろう。会ってみせる。

 そんなことを考えながらしばらくボーっとしてると、ふとアレスが立ち上がる。休憩は終わりのようだ。


「さて、そろそろ行こうか」


「りょーかい」


 俺も立ち上がり、スカートをはたきながらアレスを追いかける。






「それでは、我々はここで。アレス様、お疲れ様でした」


「ああ、お前たちも付き合ってくれて感謝する。ゆっくり休んでくれ」


「ティアちゃんもまたなー」


 センテの町の入り口で三人と別れて、グランヴィルの屋敷に戻ろうと並んで歩く俺とアレス。太陽が真上から少し傾いてるし、昼過ぎあたりだろうか。


 小道を曲がり大通りに差し掛かかると、向こう側からなんかものすごい勢いで走ってくる人影が見えた。ほう、人間にしてはずいぶんと速い。


 なんとなく興味を引かれたので確認してみると、金髪をショートカットにした気の強そうな少女だった。

 白い上着にワインレッドのミニスカート、そして太ももまである白いブーツを履いており、身長は俺より少し低いぐらいだ。


 ちなみに胸はほとんど無い。ぺったんこだ。そして、なんか怒り心頭って感じの顔をしている。


 どうでもいいことだけど、俺の胸部装甲は……まあ人並み以上はあったりする。

 普通以上巨乳以下といったところか。一応、あの少女には圧勝というわけだ。……元男としては複雑なところだが。


 それにしても金髪ショートカットで気の強そうな女の子ってどこかで聞いたような気がするな。隣を歩くアレスもキョドってるし、なんでかなーアハハ。


「アレスウウウウウウウウウウウ!」


「ティア、逃げるよ」


 金髪の女の子が大声でアレスの名を叫び、その大声を聞いて道を歩く人たちがギョッとして爆走少女と、その先にいる俺たちを注目する。


 アレスは俺の手を引いて逃げ出そうとするが、向こうは完全に速度に乗ってるし、いくらアレスでも逃げ切れないだろう。そう、アレスでは。


「了解、家まで飛ばすよ?」


「え、あの? ちょっと、ティア?」


 ニヤリとアレスに笑いかけ、問答無用で横に抱きかかえる。いわゆるお姫様抱っこというやつだ。

 俺の手を引いて逃げるつもりだったらしいアレスが慌てるが、もう遅い。抱きかかえてしまえばこちらのものだ。


「口、閉じたほうがいいよ。舌噛んでも知らないよ?」


「いや、ティア? ちょっとこれは男として恥ずかし――」


「コラアアアアアアアアア! アレスウウウウウ!」


 俺とアレスの様子を見た爆走少女がさらに加速する。おお、速い速い。気迫も合わさって、なんかアレスより速い気がしてくる。


 人間でもお互いの顔が完全に見える距離なのだろう、少女のほうを見たアレスが顔を引きつらせるのが面白い。アレスもこんな顔するんだなー。


 アレスが暴れて降りようとするので思いっきり抱きしめて黙らせる。まったく、これから走るのに落ちたら危ないだろうが。


「じゃあ行くよー!」


 アレスに声をかけた後、通ってきた小道の方に走り出す。人一人抱きかかえてようが俺のパワーの前では関係ない。


 そのまま小道を駆け抜け、別ルートを通って屋敷を目指す。フハハ、見るがいいこの俊足! 圧倒的ではないか!

 遠く後ろの方でゼエハアという感じで膝をついている少女を尻目に道を駆ける。


「ティア、ちょっと怖いんだけど! 速くないかな!」


 アレスはもっと速いスピードをお望みのようなのでさらに加速してあげる俺。うーん優しい。まさに聖人君子。


「ちょっと、なんで加速!? 速い、速いってば!」


「あはははは、いやあ、こんなに喜んでもらえて嬉しいなあ」


 楽しそうなアレスの叫び声に笑い声で答え、グランヴィルの屋敷に戻る俺たちであった。

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