12 討伐を終えて
トロールの討伐任務を終えた俺たちは、村に戻ろうと再び森の中を歩く。仕事を終えた後なので皆の足取りも軽い。
それにしても獣や雑魚魔物の類を見ないな。行きのときも見なかったし。トロールに怯えて逃げたのかね?
そんなことを考えながら歩いていると、最後尾を歩いているコリンとダニオの話し声が聞こえた。どうやら、俺について話しているようだ。
「それにしても、ティアちゃん強すぎだろ。最後のトロール始末したときとか、動き見えなかったぜ」
「ああ、あれは凄かった」
面と向かって褒められるのも気分がいいが、こうやって陰ながら褒められるのを聞くってのもなかなかいいな。
俺を褒めるということはガルムが、つまりは俺を造ってくれた研究所の皆が認められるということだ。
自分が褒められるのも嬉しいが俺としては研究所の皆が、家族の凄さが認められることが何より嬉しかったりする。
ぶっちゃけ、俺自身は大したことないしな。この体が、この体を造ってくれた皆が凄いのだ。
俺には、この体に恥じぬ戦果を上げる義務がある。俺を造ってくれた人たちの凄さを示す義務がある。
だからこんなところで満足してちゃいけないのだ。もっともっといっぱい殺して、もっともっと認めてもらわねば。
「ティア」
「どうかした?」
調子に乗りそうになる自分を戒めていると、隣を歩くアレスが話しかけてきたので思考を打ち切る。
「お疲れ様。それにしても流石だね」
「アレスこそ。見てたけど、鮮やかな戦いぶりだったね」
基本的に力任せの俺と違って、アレスの戦い方は華麗というかなんというか。流れるような動きでトロールを切り刻む姿は格好良かった。
まあ、力押しが楽だからやっているだけで俺にもああいう動きはできるんだが。一応、データも入ってるし。
「ははは、ありがとう。でも、僕はまだまださ」
「またまた謙遜しちゃって」
しかし、それを嫌味に感じさせないのはアレスの人柄か。それにしてもイケメンで強くて性格もよくて家柄もいいって何だこの完璧超人。
優良物件通り越して何か重大な欠陥抱えてるんじゃないかと疑心暗鬼になるレベルだぞ。
「そういえばアレスって婚約者とかいるの?」
「え? いや、いないけど?」
ふと気になったので聞いてみたが唐突過ぎたか。目を丸くして「何言ってんだコイツ」みたいな目で俺を見てくるアレス。
いや、それより婚約者いないの? 貴族なんだし普通いるんじゃないの?
「そ、そっか。いないのか……」
「お、ティアちゃん立候補でもするのかい?」
後ろにいたコリンがニヤニヤと笑みを浮かべながら近寄ってくる。
なんとなく気になったから聞いただけで、別に深い意味はないんだけどな。
「まあ、アレス様は婚約者はいないが……仲のいい女の子ならいてだね。お隣の領地を納めるマクニール家の娘、ポーラ様だ。金髪のショートカットでツリ目のかわいこちゃんでなー、見た目通りに気は強いが実は優しくていい子だってのもポイント高い。あと弓の名手だってことでも有名なんだぜ」
「そ、そうなんだ、よく知ってるね」
聞いてもいないのにそのポーラ様の情報とやらをペラペラと話してくれるラウロ。
どうでもいいけどお前詳しいな。とりあえず適当に相槌を打っておく。
「ポーラも騎士学校に通ってるから、会えたら向こうで紹介するよ」
いや、この話の流れだとポーラはお前にホの字だよな?
自分に惚れてる子に別の女の子を紹介するとかお前やべえな。どう考えても面倒事の匂いがするのでやめてくれ……と言いたいが、にこやかなアレスを見てつい黙ってしまう。
泥棒猫扱いされて目の敵にされたらやだなー。面倒だから的な意味でも、精神が男だから的な意味でも。
俺様は精神が男だからそういう恋愛的な心配はないんだぜHAHAHAとぶっちゃけられたら楽なんだが。いや、言っても信じて貰えねえか普通。
「こうして見ていると、さっきまでトロールを虐殺してた子と同一人物とは思えませんね」
「ああ」
おいそこ、俺の後ろのほうでこそこそ話してるダニオとカルロ。バッチリ聞こえてるし見えているからな。ガルム舐めんな。
というか三匹しか殺してないのに虐殺って大げさだろ。アレスだって俺と同じく三匹処分してるじゃないか。
その後、夕方前に無事に村に着いた俺たちは村長に感謝の言葉を貰った後、用意されていた家に案内された。
木造の二階建てで、部屋は一階が調理場に食堂と食料庫、物置部屋らしき小さな空き部屋が二つに二階が三部屋だ。
周囲にある他の家と比べて一回り大きく、これも馬小屋同様に依頼を受けてやってくる冒険者とか騎士とか用に用意してある家なんだとか。
ゲームなら宿屋とかがあるんだろうが、流石に人の出入りが激しいわけでもない村にそんなものはないか。
それにしても部屋分けどうするんだろうな。一部屋にベッドが二つあるから人数的には問題ないけど、俺は外見だけなら女の子だしな。
貴族のアレスが下っ端騎士と同室ってのも不味いだろうし、騎士三人組が一部屋になるのか? そうなったらなんか悪い気がするな。
確かに定期的にこの体を休止させる時間は欲しいけど、人間みたいに毎日必須って訳でもないし、そもそもベッドみたいな寝具も必要じゃないし。
「アレス、部屋分けどうするの?」
「部屋は三つだし、カルロたちと僕で二部屋使ってティアが一部屋使って丁度じゃないかな?」
「いやいや、我々は三人一部屋で十分ですのでアレス様は個室をどうぞ」
アレスらしい返事が返ってきたが、それをカルロが打ち消す。
その意見にアレスが渋りかけるが、ダニオとコリンの二人もカルロに同調したことで素直に頷いた。
アレスが頷いた以上、俺がどうこう言うのもおかしいか。悪い気がするけど仕方ない、ありがたく一部屋使わさせて頂きますか。
カルロは部屋の確認をと二階に、ダニオは村の確認をしてくると外に出かけ、コリンは調理を担当するからと食料庫を確認しに行った。
俺とアレスは二人で食堂の椅子に座って待つことに。なんか適当に理由つけて食事スルーしないとな。さて、どう言い訳するか。
「お、チクタクじゃないか。アレス様ー、こいつ丸焼きにしちゃっていいですかね?」
「お前たちに任せるよ。好きなように使ってくれ」
食料庫を確認していたコリンがアレスに話しかける。なんだその時計っぽい名前はと気になって食料庫の方を覗き込むと、コリンの手には鳥らしきものが握られていた。
鶏肉か、前世では好物だったんだけどこの体じゃね。肉体に準拠してなのか、食欲の類を一切感じないのが救いかな。
「アレス、食事を回避するなんかいい言い訳ないかな?」
「うーん、故郷の風習で生き物の命を奪った後は食事をしないことにしてるとか?」
小声でアレスに相談すると、いい案をくれたのでいただくことに。
早速コリンに伝えると、特に疑われることもなく食事をかわすことができた。アレスに感謝だな、今後もこの理由で行こう。
でも、とりあえず夕食は回避できたが朝飯もあるんだよな。こいつはどうかわすか。
普通なら腹ペコだろうし、食欲がないって言い訳はキツいだろうが……。困ったことにいい言い訳がまったく思いつかん。
多少怪しいだろうが仕方ない、食欲不振でゴリ押すことにしよう。
その後、部屋の確認が終わったとカルロが一階に降りてきたので、コリンに伝えたのと同じ理由を説明。
起きてるとお腹が減るからさっさと寝るね、とボロを出す前に引き篭もることにした。
水古戦場きちゅい