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11 トロール退治(後編)

 村の青年の案内の下、トロールが住み着いたという森の遺跡に案内される俺たち。


 ところで、森を歩いているとこの体は実に便利だなと思う。疲労は感じないし虫に刺されないし、汗でベタベタして不快に思うこともない。


 道なき道をしばらく歩き続けると、開けたエリアに出た。

 所々に建物の跡らしき煉瓦の山があるそこを、緑色の肌に二メートル以上はありそうな巨体の魔物がドスドスと歩いている。


 遺跡っていうから期待しちゃったけど、これは居住エリアの跡とかそんな感じだな。期待して損した。


「見えました、あいつらです」


「ふーむ、中型のトロールが五、いや六匹か。ご苦労、後は我々に任せたまえ。危険だから前には出るなよ」


 カルロが村人を下がらせる。よし、ようやく俺の出番だな。さあーて、一暴れしますかね!


 背中に背負った鞘から剣を抜く。黒い刀身に波打つ刃が特徴の、いわゆるフランベルジュと呼ばれる剣だ。

 俺が抜いた剣を見て騎士三人組が驚いた顔をする。どうやら俺の剣を見て驚いたようだが……何だ?


「どうかした?」 


「い、いや、少し驚いただけだ。一つ聞きたいのだが……その剣、昔から使っていたものなのか?」


「そうだけど?」


 別に隠すようなことでもないし、カルロの問いに答える。


 頑丈で対魔法性能の高い素材を使い、高熱の魔力刃を纏うギミックが搭載されているガルム時代からの愛剣だ。こいつと一緒に戦場をかけた日々が懐かしい。


 あの頃は楽しかった。いっぱい敵を殺して、戦果を妹と比べて勝った負けたとはしゃいで、よくやったとみんなに褒めてもらって……。

 昔を思い出してついつい頬が緩む。


「ああいや、なんでもない。ただなんというか、運命というものを感じてしまってだな」


 カルロがよく分からないことを言う。どういうことかわからず不思議がる俺に対し、アレスが一歩前へ出て苦笑しながら剣を抜く。


「こういうことだよ」


「おおっ」


 思わす声が出てしまう。なるほど、これは驚いた。

 アレスが抜いた剣、それは俺の剣と同じくフランベルジュだった。その刀身は白銀に輝いており、俺の剣と対になっているかのようだ。


 それにしても刃の波打ち具合まで似ているのだから驚きだ。ここまで似通っていると、確かにカルロの言うとおり運命的な何かを感じるな、面白い。



「偶然にしても凄いね、流石にこれは驚いた」


「確かにカルロの言う通り、これは運命を感じますね。坊ちゃんがティアさんと出会うのは必然でしたか」


 思わず飛び出た俺の発言にダニオが乗るが、その発言に俺とアレスは顔を見合わせて笑いあう。

 いやまあ、確かに出会うことは出会うけど本来の歴史では敵同士として出会うんだよな、俺とアレスって。


 そうやって話していると、うろついていたトロールがうまい具合に分散した。それぞれある程度の距離があり、今ならスムーズに各個撃破できそうだ。

 チャンス到来とみた全員が顔を引き締める。俺も戦闘モードを起動し、いつでも攻撃に移れるようにする。


「さて、そろそろ真面目に行こうか。僕は左の三匹を受け持つから、右の三匹はティアに任せた。お前たちはここで待機だ」


「任された!」


 にやりと笑い返事をする俺と、頷いて剣を構えるカルロたちを見てアレスが満足げに頷き、走り出す体勢を取る。


「よし、では……行くぞ!」



 アレスの号令がかかると同時に、一番近くにいたトロールの目の前まで一気に踏み込み、左足で着地する。


 トロールが俺に気づき目を見開く。あわてて棍棒を構えようとするがもう遅い。

 剣を構えた右手ごと体をひねり、遠心力を乗せた右薙ぎを胴体目掛け叩き込む!


 波打つ刃がトロールの胴体を両断する。胴体から真っ二つにされたというのに、何が起こったのかわからないといった間抜け面を晒すトロールが愉快だ。


 汚い返り血など浴びたくないので、血が噴き出す前に左足に力を籠めてそのまま前方に――次の獲物がいる方向へと跳躍、離脱する。


 んー、流石トロールと言うべきか。鈍い、鈍すぎる。

 仲間が一人やられたというのに、状況がまだ理解できないのか口をポカンと開けたまま動かない。


 少し物足りないが……まあ、楽に始末できるのならそれに越したことはないか。


 二匹目のトロールの左側に着地した俺はそのまま左薙ぎを叩き込み、こいつも胴体から真っ二つにする。


 それにしても、耐久力とかは俺のいたときとそう変わらないんだな。この調子で臓器の位置やパワーみたいな他の情報も一致してくれればデータが流用できて楽なんだが。


 背後で戦っているアレスを襟首に仕込んだサブカメラで確認する。


 こちらも一匹目を、足を切り落とし脳天を突くことで始末して二匹目に移るところだった。うーん鮮やか、流石だな。


 ここでようやく状況を理解したトロールたちが動き出す。大きな叫び声を上げ、お怒りのご様子だ。


 地面を棍棒で叩いて気合を入れた後、俺目掛けてドスドスと地面を揺らしながら突進してくる。


 普通の感覚だと、まあそれなりのスピードなのだろうが……俺にとっては遅い遅い。お、アレスが二匹目終わらせた。


「あぶない!」


 棒立ちのままの俺を見て村人が叫ぶが華麗にスルー。というかこの程度の攻撃なら当たってもノーダメージだと思う。

 服が破れたら嫌だからやらないけどさ。


 突進してきたトロールが俺を叩き潰そうと、その勢いのまま棍棒を振り上げ、その高さが頂点に達した瞬間――高速でトロールの背後に回り込む。


 そして逆手に持ち替えた剣を振りかぶり、トロールの心臓のあるであろう部位に一気に突き刺す!


 この攻撃は一応、臓器の位置が俺の時代と変わっていないかというデータ取りも兼ねている。

 外れてたらカッコ悪いなー、どうしようなー、と思っていたが、無事に心臓に直撃したようで一安心。


 心臓を貫かれたトロールが動きを止め、何が起こったのかわからない、といった感じの間抜けな声を上げる。


 そして数秒後、振り上げた手から棍棒が抜け落ちて地面に落ち――トロール本体も膝から崩れ落ちて前方に倒れこんだ。


 うむ、完全勝利である。それにしても、人に仇なす魔物を処分するってのは実に気分がいい。

 正義のために戦っているって感じがしてとてもいい。爽快感についつい笑みがこぼれてしまう。


 アレスの方も三匹目の首を刎ねて終わらせた様子。剣を振って血を払った後、こちらに歩み寄ってくるので俺も戦闘モードを終了する。これにて一件落着だな。


 コートのポケットから布を取り出して剣を拭き、鞘にしまう。別に放っておいても錆びたりはしないんだが、気分的によろしくないしね。



「……流石ですな」


「ティアちゃんやっべえな……。怖いぐらいだぜ」


「まあね! それほどでも、あるかなー?」


 剣をしまって広間の中央に集合すると、カルロとコリンの二人が褒めてくれた。嬉しくてちょっと調子に乗る俺。


 そう、ここにきてようやく仕事らしい仕事が出来たので嬉しいのだ。穀潰し卒業やったぜ。


「本当にありがとうございます! これで安心して眠れます。いやあ、それにしてもお二人とも凄いですねえ!」


 村人さんも大喜びだ。ここまで喜んで貰えるとこっちまで嬉しくなってくるな。


「ははは、ありがとう。さあ、討伐も終わったことだし村に戻ろうか」


「了解!」


 トロールの討伐任務、無事に成功。幸先のいいスタートだ。

主人公のメイン武器の癖に十話以上抜かれなかった剣があるらしい

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