一丁目一番地 叙情詩 赤
少し小説風です。
いや、小説かも
この町にまた来るなんて
この町を逃げ出したのは
何十年前か
ここは俺の想いが残る
小さな町
ここで俺は、惚れて好きを派手に演じ
心を一つにした
想いが伝わり、想いを伝え、永遠を誓ったのは確か一丁目一番地だった
愛
それを誓ったのだ
なんだか大袈裟な言葉だ
愛は永遠の魔法
そう思ったのは若い時間
必ず幸せが待っている
しかし実際は
少しずつ体の距離は近づいたが
心の距離は離れていく
しかし子供が出来て
育んで
これはこれで良いのかも
なんて心に蓋をした
時間は流れ
子供が育ってくると
心の距離は
ますます広がり
蓋ができなくなった
終わらせよう
紙には俺の名前と……
紙切れに俺の滅びの魔法を書き入れた
カネという命を置いていったのは
俺が不器用だったから
しかし俺は出来損ないだった
再びぬくもりを求め……
あいたい
そんな文字が手紙にあった
そんな気はなかった
風の噂を耳にするまでは
一丁目一番地
そこには小さな家があり
青い屋根が
今でも鮮やかだった
家には子供が入れてくれた
どこか棘のある態度に
時間の流れを感じた
薔薇のように美しく
凛とした子供らは
棘があって当然だ
そしてその棘が
俺に向いているのも
間違いではない
いや、当然なのだ
部屋の一室に
あいつがいた
椅子に座り
姿勢を伸ばして
簡素ではあるが
美しい身なりをしている
しかし顔つき、顔色に
言葉がなかった
健康的で弾けるような
あいつのオーラが
そこにはなかった
老いたから
それもある
しかし理由は、それではない
陸に上がる時間が近い
私は確信した
風の噂は事実だった
人間は時間と言う
大河の流れに身を任せている
そこで人間は、自分の物語を
創っている
しかし大河には、いつまでも
入っていることはできない
いずれ陸に上がらないと
いけないのだ
陸には時間はながれていない
つまり陸とは
死
人間はある意味魚である
しばらくあいつと無言でいた
話すことはない
話たくない
そして話せる訳がない
ふと、あいつの口元が緩む
ごめんなさい
その言葉にあいつの瞳から
涙がおちた
そして俺も、涙をおとした
謝らないといけないのは
おそらく俺だった
顔が上がらなかった
あいつの顔が見えない
いや見えないのではなかった
見たくなかった
怖かった
情けなかった
しかし後悔していない
自分に悔しかったからだ
そう……後悔はない
しかし涙は熱かった




