閑話:ネロの旅立ち
ブックマークありがとうございます。
リアルがヤバいのでとても励みになりました。
モカ人気なのか4件も増えてびっくりしました。
「それで、タイチさん。ワクコーリアルさんからの返事にはなんて書いてあったんですか?」
「ちょ、ちょっと落ち着いてください。」
タイチさんが手紙を目で追っている。そんなに時間がかからないとわかってはいるのだがその時間さえも惜しい。早く内容が知りたい。
「えっと、要約すると研究自体は面白そうだから一緒にしてもいいけれど工房を離れるわけにはいかないから、一緒に研究するならイーリスまで来てほしいとのことです。」
「イーリスですか・・・。」
正直この宿にはずっとお世話になっているし研究に没頭できるから離れたくはない。しかし研究自体が行き詰っているのも確かだ。タイチさんから材料を考えてみてはどうかとの提案を受けたのでゴブリンジェネラルの剣をギルドに注文したりしたのだが今回の踏破者は剣を壊してしまったらしい。残念だ。
他に使えそうな安価な素材は購入してあるのだが細かい研究をしながらの加工は今この街では難しい。仕方がないがイーリスへ研究のために行くしかないな。
「わかりました。イーリスへ行こうと思います。」
「引っ越しはどうするんですか。あれだけの本を持っていくのは大変だとおもいますが。マジックバックに入れていくんですか?」
タイチさんが心配をしてくれる。だがその心配は無用だ。
「大丈夫です。本は必要最低限のもの以外はここに置いていきます。もしタイチさんが見たければ見てもらって構いませんよ。」
「宿代とかは大丈夫なんですか?イーリスでもお金がいると思いますが。」
「大丈夫です。すでに1年分の料金を前払いしてありますし。もうここは私の家みたいなものですから、私の部屋を他の人に使ってほしくないですからね。」
タイチさんが唖然とした顔をしているがお金なら十分にある。鉄の魔剣の研究途中で生まれたいろいろな失敗作の権利を譲渡して、その売り上げの一部が商人ギルドの私の口座に毎月振り込まれるから生活に困ることはない。売り上げが落ちているような様子もないし、しばらくは研究を続けられるはずだ。
「ということがありまして、しばらくの間イーリスへ研究に行ってきます。数年かかる可能性もありますが必ず帰ってきますので私の部屋の管理をよろしくお願いします。それとタイチさんが部屋に入りたいと言ったら鍵を渡してあげてください。本を貸す約束をしていますので。」
「それは寂しくなりますね。研究の成果が出てまたお会いできる日を楽しみにしています。」
「ぐすっ・・・、さよならなのですよ。」
マタリさんとモカさんに挨拶をして宿を出る。この宿に泊まり始めてもう5年近くなる。小さいころから一生懸命お手伝いしている姿を見ていた私にとって、モカさんはかわいい娘のように思える。こんなことは決して言えないが。
涙を流しながら見送ってくれるモカさんに後ろ髪をひかれながら冒険者ギルドへ向かう。
持っていくものに不足がないことは昨日さんざん確かめたので大丈夫なはずだ。問題はマジックバッグが3つあってかさばることだ。マジックバッグの中にマジックバッグが入ればもっと楽に旅ができるのに。そうだ、今の研究に一定の成果が出たら次はこの研究をしてみるのも面白いかもしれない。
「今回依頼をしたネロと言います。道中よろしくお願いします。」
「「赤の守護剣」のリーダーのヨルムだ。なにかあれば俺に教えてほしい。ネロさんの道中の安全は俺たちが保障する。」
依頼を受けてくれたのは「赤の守護剣」という7級のパーティだ。リーダーのヨルムさんは赤髪をちょっと逆立たせている若い剣士だ。冒険者として実力があり、若さにしては経験も豊富らしいのでギルドの職員さんにも運がいいですねと言われた。
さっそく私が借りた馬車で移動を開始する。日程としては野営を3日、途中の町で1泊ずつで計6日で到着する予定だ。あと6日であの有名なワクコーリアルと会えるのだ。期待に胸が膨らんで今から楽しみで仕方がない。
道中は盗賊などが出ることもなく、危険があったのは2日目の夕方にフィールドウルフの群れが襲ってきたくらいだ。そのフィールドウルフも「赤い守護剣」のパーティに簡単に討伐されていたので私自身が危険を感じることはなかった。
問題があるとすれば食事だ。途中に村があるとはいえどうしても新鮮なものはなかなか食べることができず、また彼らは冒険者であって料理人ではないためどうしてもマタリさんと比べれば味が落ちる。しかし彼らに言わせれば今回の食事費用を私が出したおかげでいつもよりましな食事らしい。
「いつも食べているものを食べてみてもいいですか?」
「ああ、美味しくはないぞ。」
そう言ってヨルムさんが干し肉をナイフで削り、乾燥したパンと一緒に渡してくれる。一口食べるが干し肉は保存のためか塩分がかなり含まれているようだ。パンも固く確かにお世辞にも美味しいとは言えない。しかし興味深い。保存を一番に考えられた食事というわけだ。保存期間を延ばす方法としては干物などの乾燥によるものもある。野菜などを乾燥して持ち運び、スープなどにすれば塩辛くない食事ができるかもしれないな。こっち系の研究はあいつの得意分野だったはずだから気が向いたら連絡してやろう。
「大丈夫なのか?さっきからずっと干し肉を噛んでいるが。」
考え事に集中しすぎて心配させてしまったらしい。申し訳ないことをした。
「いえ、ちょっと興味深かったので。」
「なら良かったが。」
ヨルムさんがほっとした顔をする。この数日間彼らと過ごしているが非常に有能だ。役割分担がしっかりとされていてストレスがない。ギルドの職員が言った運がいいというのは本当だったようだ。
ふとヨルムさんが首からさげているアクセサリーに目を引かれる。円形の鉄板に盾の枠の中に剣というデザインが彫られている。
「そちらが「赤の守護剣」のトレードマークですか?」
「ああ、これか?」
ヨルムさんがそのアクセサリーを持ち上げながら私に見せる。裏面にはヨルムさんの名前が彫ってあった。
「知り合いが作ってくれたんだ。この依頼を受けたのもその知り合いのお願いがあったからだな。」
この精巧な加工には見覚えがある。
「タイチさん、ですね。」
「そうだ。不思議な奴だったな。ほとんど何も装備せず迷宮に現れたかと思ったら、3か月もせずに初級迷宮を踏破する。かと思えばこんなものを作る。何者なんだろうな。」
「そうですね。私がこんな風にイーリスへ行くきっかけを作ってくださったのもタイチさんです。私の研究も手伝っていただいていましたし。」
「本人はシーフだって言い張っていたがな。」
「ただのシーフではないことは確かです。しかし・・・。」
「しかし?」
「共に研究してみたいと思わせる人材でした。」
「そうだな。俺もこのパーティに誘いたいと思っていた。無理だったがな。」
「なんででしょうか。発想が突飛なせいかもしれませんが一緒にいて面白い人でしたね。」
「お人よしだしな。」
2人であの少年の顔を思い出して笑う。あの変わり者でおせっかいな冒険者はこれからどんな風に生きていくのだろうか。
「じゃあこれで依頼は完了だ。」
「ありがとうございました。また機会があればよろしくお願いします。」
予定通り6日目の夕方、辺境都市イーリスへと到着した。今日はひとまず宿を取り、明日の昼頃にタイチさんに書いてもらった地図を頼りにワクコーリアルさんを訪ねよう。
おすすめされた南門の宿へ向かいつつ決意する。気にしなくてもいいと言っていたが絶対に安価な魔剣の製造方法を確立してタイチさんに報告してみせる。どれだけ困難なことだとしても。
ネロさんはお金持ちです。
他人から見たらすごい人ですが本人的には研究成果が出ていないので満足できていません。
読んでくださってありがとうございます。




