冒険者登録と出会い
一週間続きました。このまま行けるといいな。
「キナ、坊主を冒険者登録してくれ。」
「呼び捨てにするなニャ。キナさんっていうニャ。ハゲ。」
「ハゲって言うな、ファッションハゲだって言ってんだろ。あーはいはい、キナさん、キナさん。」
「面倒くさそうニャ。もっと女神を敬うかのごとく言うニャ。」
「ははー、キナ様ー。」
「敬意が感じられないニャ、髪の毛生やしてから出直してくるニャ。」
「何様のつもりだよ!!」
いつまでたっても二人のやり取りが終わりそうになかったので流れを切る。
「すみませんが登録をお願いします。キナさん。」
「ほら、こういうのが敬意ニャ。リピートアフターミー、キナさん。」
「キナさん」
「まぁ、おおまけにまけて許してやるニャ。」
「だから何様のつもりだよ!!」
二人の漫才もそこそこに手続きに入る。
ギルドの登録は「名前」「年齢」「職業」「得意武器」「スキル」を専用の用紙に記入することで登録できる。もっともスキルなどは冒険者の生命線になるため記入したいスキルのみでいいらしい。
「で、タイチは自分で記入するかニャ?」
「はい、大丈夫です。」
「名前」「年齢」を記入し「職業」「得意武器」は不明なため空欄のままにした。「スキル」か。「アイテムボックス」は危険らしいし、「知識」は無いらしいから、とりあえず「マップ」だけかな。日本語じゃない文字を自然に書けるってそれだけでも「知識」すごいな。
「文字書けるなんて偉いニャ。でも、空欄が多いから仲間は集めにくいニャ。」
「まだまだLv1ですし、街の中の依頼をやるつもりなので大丈夫です。」
「わかったニャ。また変更があったら教えてニャ。」
キナさんに登録をしてもらいながら簡単な説明を受ける。基本的に依頼は、常時、通常、指名、緊急の4種類があるそうだ。
常時・・・薬草の採取や特定の魔物の討伐など依頼を受けなくてもそのものを持って来ればいいもの。
通常・・・依頼人がいる依頼。掲示板から依頼書をとり、受付にて受注する。
指名・・・依頼人から冒険者を指名する依頼方法。特殊な技能を持った冒険者に対するものが多い。
緊急・・・魔物の大量発生時の討伐など半強制的な依頼。
その中でもその依頼書の色によって種類が分類されている。赤は魔物の討伐、緑は採取、白はその他だ。これは文字があまりわからなくてもいいようにとの配慮らしい。
ギルドの2階には小さいながらも図書室があり冒険者の基礎知識を勉強することができる。ただし利用者は少ないらしく普段は閉まっているため申請することで使用することができるようだ。
「これで登録と説明は終了ニャ。これは仮のギルドカードだから市民証を交換したらこちらも交換するニャ。」
銅で出来たギルドカードが渡される。先ほど登録した情報と発行支部名、「10級」とランクが記載されている。カードに「仮」と記載されているので交換するとこれが無くなるのだろう。
「それでさっそく依頼を受けるのかニャ?」
「いえ、宿を決めないといけませんしとりあえず明日からのつもりです。」
「朝は強いかニャ?強いならマジックバック持ちにおすすめの依頼があるから、明日の朝5時にギルドに来るといいニャ。」
「ありがとうございます。そうしてみます。」
前の世界でも仕事に行く前に自転車で走るために4時起きだったから大丈夫だろう。
「そういえば、さっき買い取りの鑑定が終わったニャ。リイナー、代金払うから来てほしいニャ。」
振り返るとリイナさんが串をあわてて隠すのが見えた。あなたもですか。
「フォレストウルフの討伐が13頭で大銅貨13枚、魔石で大銅貨42枚、毛皮で大銅貨65枚、解体費用は1頭大銅貨1枚だから13枚ニャ。合わせて銀貨10枚と大銅貨7枚ニャ。」
ちなみにこの世界の貨幣の種類としては銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨の順で大きい単位になり、10枚で次の通貨1枚分となる。
さきほど商店をちらっと見た感じだと、林檎のようなくだものが銅貨1枚だったので銅貨が100円くらいと考えればいいだろう。
つまり今回は日本円にすれば10万7千円の稼ぎというわけだ。命を懸けた割に安いような気がするが、あの3人にとっては楽な仕事扱いらしいから十分なのか。
「ありがと。キナさん。じゃあとりあえず家に帰りましょうか。分け前にしても今後の話し合いにしても落ち着いたところの方がいいでしょ。」
「はい。」
「「おぉ。」」
ギルドを出て3人においしい店やおすすめの道具屋などを説明されながら歩いて行く。しばらくすると店はだんだんと減り住宅が多くなってくる。
「はーい、到着。ここが私たちの家よ。」
家というから普通の一軒家を想像していたのだがこれは屋敷だ。普通の家4軒分ぐらいの屋敷とその倍はある庭がついている。周囲の家から見ても段違いの広さだ。
「なんですか、この屋敷。」
「ちょっと縁があってね。」
「もしかして、リイナさん達は偉い人ですか?」
「いや、全然違うから。冒険者としては上の方だけど貴族とかじゃないし。」
リイナさんが軽く笑いながら否定する。後ろでジンさんとニールさんも笑っている。この反応を見るために黙っていたな。
玄関前を箒で掃いているメイド服を着たお婆さんがいる。背筋もピンとしており表現としては正しくないかもしれないが格好のいいお婆さんだ。
「アンさん。ただいまー。」
「アンさん。戻りました。」
「アン婆さん。帰ってきたぜ。」
みんながそれぞれお婆さんに挨拶をする。お婆さんはツカツカとこちらに向かってくると手に提げていた箒でいきなりジンさんをたたき伏せた。
「お帰りなさい、みなさん。あらっ、こちらの方はお客様ですか。」
「そうですよ、フォレストウルフに襲われていたところを助けたので連れてきました。」
「まぁ、それは大変でしたね。立ち話もなんですし、家でお茶でも飲みながらお話ししましょうか。そういえばご飯は食べられました?」
「まだでーす。やったー、お昼ごはんだー。」
「まあ、時間が遅いからすぐにできる料理にしますけれどね。」
いやいやいや、何事もなかったように話しているけれど、ジンさん地面に倒れていますから。しかも起き上がろうとしてもアンさんの持った箒で押さえつけられて動けなくなっているし。
「あの、ジンさんはいいんですか。」
「あらっ、そんな人いたかしら。」
「いるぞー、ここにいるぞー。」
「女性に向かって婆さんなんていうお馬鹿さんは目に入らなくって。」
「やっぱり老眼か・・・」
「ぐふっ」というジンさんの声が聞こえたと思ったらそのまま動かなくなる。
「あらあら、こんなところにごみが落ちていますね。お客様の前で恥ずかしい。ちょっと捨ててきますから先に中に入ってお待ちくださいね。」
ジンさんの足を持ち、ずるずるとひっぱりながら庭の裏の方へ向かって歩いて行くアンさん。
「じゃあ、家に入りましょうか。」
「いや、大丈夫なんですか。」
「まあ、いつものことだし。ジンならしばらくしたら戻ってくるでしょ。」
ニールさんを見ると頷いている。本当なんだ。
玄関から中に入ると広いホールがあり、天井にはシャンデリアがかかっている。輝きからしてかなりの値段のはずだ。飾ってある調度品にしても派手さはないが質のいいものだと一目でわかる。
壊したら借金が数十倍に増えそうだ。
「それじゃあ食堂で待っていましょ。」
リイナさんについて食堂へ向かう。食堂はかなり広い部屋なのに、6人掛けの机がぽつんと置かれているだけというちぐはぐな印象の部屋だった。
自由席でよいとのことだったのでこの世界ではどうかはわからないがとりあえず下座に座っておいた。
「お待たせしちゃったわね。とりあえずお茶を用意しますからお待ちくださいね。」
いつの間にか帰ってきたアンさんがクッキーを机に置いて、すっと去って行った。
「えっ。」
「あぁ、アンさんのことは気にしない方がいいよ。」
「うむ。」
フォレストウルフ13頭を倒せる二人にここまで言わせるアンさんっていったい・・・。
「で、まずは分け前かな。毛皮の売却益が大銅貨65枚で13頭中8頭を運んでもらったからその分は大銅貨40枚。運んでもらった仕事のお金として25%の大銅貨10枚でどうかな。」
「相場もわかりませんし、もともと恩返しのつもりでしたのでお二人がそれでいいなら。ありがとうございます。」
「それでこれからどうするつもりなんだ?」
「とりあえず宿を借りて冒険者ギルドの仕事でお金を稼ぎたいと思います。それでこつこつとお金をお返しできたらと。」
「あらあら、宿が決まってないならここに泊まればいいじゃない。」
またしてもいつも間にかいたアンさんがお茶の用意をしながら告げる。
「えっ、いいんですか。私、仮市民証ですし会ったばかりですよ。」
「いいのよ。この子たちが家まで連れてきたんだもの。私はこの子たちを信じていますから。」
リイナさんとニールさんを見ると、とても嬉しそうにしながら頷いている。
「それにこの家で何かあったらどうなるかわかっているでしょう?」
私は瞬時に何度もうなずいた。
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