掃除と装備
「どうしたの、ヒナ?」
「いや、何でもないニャ。」
物置部屋に入るとヒナが何事もなかったかのように立っていた。そう、ヒナはね。
「後ろに見える崩れた荷物は何?」
「何のことかニャー?」
物置部屋は最初に確認した時の面影が見えないほど荒れていた。荷物が適当に放り投げられているし、たぶん要らないものなんだろうけど、隅の方に山が出来ている。
「ヒナは片付けが出来ない人と見た。」
「そんなことないニャ。」
「じゃあヒナの部屋を一度見せてくれる?」
「うぐっ・・・、女の人の部屋に入ろうとするなんて何を考えてるニャ。」
「はぁー。まあいいや。この部屋の探索は私がするからヒナはとりあえず台所が使えるかどうか確認してきて。」
「わかったニャ。」
ヒナが助かったーっていうすがすがしい顔で部屋を出て行く。本当にどうしようかなこの状況。とりあえず片付けながら何かないか探してみるか。
とりあえず手前の方から調べてヒナがくちゃくちゃにしたのを直していこう。ひとまずヒナが作った山を適当な箱に入れてアイテムボックスに収納し、部屋の両サイドにある棚以外の荷物も収納していく。これで多少はすっきりした。こうして片付けてみるとこの部屋は6畳くらいの大きさで、住んでいたアパートの私の部屋くらいの広さだ。そんなに広くない。
棚を1つずつ確認していく。食器やカトラリーの棚やよくわからないおもちゃのようなものが入った棚、そして衣服が入っていた棚があった。衣服は年月のせいかほとんどがボロボロになってしまっていたが男性物だったのでここの住人は男性だったようだ。
最後の観音開きのドアを開けると、古ぼけた魔法使いが使うような杖と、使い込まれた胸当てやすね当てなどの軽装備が飾られていた。ゴーグルのようなものまでかかっている。それにしてもここだけは劣化していないようだ。
「ヒナ、ちょっと来て。」
大きな声でヒナを呼ぶ。トットットッという軽い足音が近づいてくる。
「どうしたニャ、ってすごいきれいになってるニャ!!」
「いや、まだ邪魔な荷物をマジックバックに入れただけだから。」
ヒナがドアを開けてすぐ驚愕の表情になったので訂正しておく。まあ片付けはアイテムボックスの訓練でアンさんに散々やらされたから得意ではあるけど。
「とりあえずサイドの棚は食器、よくわからないもの、服、それと冒険者の装備だったよ。ヒナは目利きって出来る?」
「うーん、まぁ家の関係上ある程度できるニャ。」
「そっか、じゃあちょっと見てくれる?」
「わかったニャ。」
ヒナの家のことが気にならないわけではないが、自分から言うまでは聞かないようにしておこう。ヒナがそれぞれの棚を見ていく。
「うーん、この食器は古いけれど一般的な食器だからあまり価値は無いニャ。好きな人なら高値で買うかもしれないけどそれを探す方が大変ニャ。あと服は論外ニャ。この棚はよくわからないニャ。おもちゃにも見えるけど違うような気もするニャ。最後のこの装備だけどこれはすごいニャ!!見た目は使い古した安い装備に見えるけどその裏にしっかりとした皮が縫い込んであるニャ。何の皮かはわからないけどニャ。杖もおそらくいいものだと思うニャ。」
「そういえばこの棚の装備だけ劣化していないみたいだけど。」
「おそらくこの棚自体に空間魔法がかかっているんじゃないのかニャ。だからこの棚自体も非常に貴重なものニャ。タイチはどれを持っていくニャ?」
「持っていっていいのかな?」
「迷宮で発見したものは冒険者のものニャ。この装備とかもこのままここで朽ちるよりは使ってもらった方がいいと思うニャ。」
「そういうものかな?」
「そうニャ。」
「じゃあ、どうしようかな?」
「出来ればでいいんだけど私は棚が欲しいニャ。」
「あれっ、装備じゃなくていいの?」
「私は剣をもらったし、棚の方が今後を考えると有効利用できるニャ。保存されるなら新鮮な食べ物とかが迷宮で食べられるニャ。」
「ああ、そういうことか。」
そういえばそうだったな。ヒナもマジックバックを持ってるけどマジックバックは普通に時間が経過するから普通の食べ物は腐ってしまうんだよな。だから必然的に干し肉や硬いパンなどの保存食になってしまう。自分がアイテムボックスだからそんなことはあまり気にしてなかったがそれは大きなアドバンテージになりうるな。
「了解、じゃあ装備一式をもらうよ。」
「ありがとうニャ。あぁ、これであの干し肉とパンとドライフルーツの生活から逃れられるニャ。」
ヒナが本当に嬉しそうに棚に頬ずりしている。ヒナ、まだその棚はクリーンかけていないから汚いよ。あぁ、ほっぺたに埃がついてるし。
棚全体とヒナにクリーンをかけてから装備を取り出し、一度身に着けてみる。体にフィットして今まで着けていた胸当ての邪魔さ加減が嘘のように動きやすい。全身の装備なんて初めてだが、動きを阻害しないし、かなりいいものかもしれない。
「どう?」
「うーん、見た目は新人冒険者って感じニャ。」
と言う事は今までの私の装備は新人以下ってことですね。まあ不自由を感じていなかったから買わなかったんだが今日みたいなことがあるなら装備は必要だったな。反省が必要だ。
「動きやすいし、サイズもちょうどいい。ありがたく使わせてもらおう。」
「じゃあ私は棚をもらうニャ。」
そうですか、ヒナはもう棚に夢中ですね。何年も冒険者を続けると携帯食に飽きがくるんだろう。私にはまだわからないがこれだけ夢中になるってことはかなりの重症だ。この世界の冒険者は違う意味でも大変なんだな。
でもこれでアイテムボックスをごまかせる理由が一つ増えたな。空間魔法がかかった棚か。もし保存関係で疑われたらこの棚があるって言えばごまかせそうだ。
「じゃあ、私は続きをするよ。そっちはどんな感じ?」
「台所は魔石で動く道具がいろいろあったニャ。もう少し調べたらお茶を入れるから出来たら呼びに来るニャ。」
「了解、ありがとう。」
ヒナが持って行った棚の場所にアイテムボックスから順番に荷物を取り出し、中身を確認していく。ほとんどは壊れたガラクタのようなもので有効そうなものはない。
「うわっ、やっぱり埃がすごいな。」
(僕は平気だけど、タイチはマスクがいるね。)
これ以上埃が舞う中そのまま掃除を続けるのは嫌なのでハンカチで口を覆い、先ほどのゴーグルをつける。すると視界が若干明るく見えた。あれっ?
ゴーグルをつけたり、外したりする。やはり若干明るくなっている。特にゴーグルに色がついているわけではないのだが。
(何してるの?)
「いや、ゴーグルをつけると明るく見えるんだ。何かの魔道具なのかもしれない。」
(後でヒナに聞いてみたら?)
「そうだね。」
ゴーグルをつけながら作業を続ける。埃はあまり気にならなくなった。最初に部屋全体にクリーンをかけておくべきだったかもしれないが後の祭りだ。今更なのでそのまま作業を続ける。特にめぼしいものは無かったが部屋は入ってきた時よりもきれいに片付いた。
やはり片付いた部屋は気持ちがいい。
「タイチ、お茶が入ったニャ。おぉー、ちゃんと整理されてるニャ。」
「ありがとう、とりあえずめぼしいものは無かったよ。休憩しよう。」
台所へ行きお茶を飲むつもりだがここもまだ埃が積もっている場所が多いので部屋全体にクリーンをかける。MPの3割ほどを使ったが綺麗になったので問題は無い。お茶を飲む前にMPポーションを飲んでしまったことが残念なくらいだ。
ヒナが淹れてくれたお茶を飲み一息つく。
「とりあえずわかったことはこの部屋の持ち主は魔法使いで男性。結婚をしていて、ここで暮らしていたってことくらいかな。」
「そうだニャ、なんでダンジョンなんかに暮らしていたのかはわからないけどニャ。」
ほかにもいくつかわかったのだがヒナには言う事はできないしな。
「とりあえず今日はこの部屋で寝るニャ。もうこの部屋の探索は終わったし、明日は朝から18、19階層を探索して帰ればいいニャ。」
「そうだね、この部屋の事はギルドに伝える?」
「うーん、やめておくニャ。変な冒険者に入られてこの部屋の主の眠りを邪魔したくないニャ。」
「まあ装備品とかもらってしまった私たちが言う事では無いかもしれないけど、そうだね。」
変な冒険者が入り込んで根こそぎ奪って行ったり、部屋をぐしゃぐしゃにされてしまうのは同郷としても忍びない。自己満足かもしれないがここはそのままにしておきたい。
「じゃあ道具が使えるようだから食事を作るよ。」
「やったニャ。魚料理がいいニャ。」
「いや、材料が無いから無理だよ。」
ヒナの無茶な要望に突っ込みを入れながら食事を作っていく。あの人もここで料理していたんだろうなと思うとなんとなく感慨深かった。
片付けが出来ない人は捨てる行為が出来ない人が多いらしいです。
私は逆にいるものまでたまに捨てて後悔しますが。
読んでくださってありがとうございます。




