迷宮の家
「うーん。大体理解したニャ。まあルージュがタイチの相棒で意思があるってだけだニャ。」
「まあ、そうだね。」
(うんうん。)
食事休憩を取りつつヒナにルージュの事を話していったが、すんなりと受け入れられたようだ。さすがファンタジーの世界。地球なら絶対に認めない人とかもいそうだ。
「最近私を乗せてくれてありがとうニャ。」
(いいよー、ヒナ軽いし。ちなみにヒナの体重って装備入れて・・・)
「あーっ、そういうことは言わなくていいニャ!!」
慌ててヒナが止めに入る。無駄な脂肪なんてないし、スタイルもいいんだから気にしなくてもいいと思うんだが、やはりそこは気になるところなのか。
「そんな訳ですのでルージュの事は秘密にしていただけるとありがたいです。」
(です。)
「なんで敬語ニャ?そのくらいのことは言われなくてもわかるニャ。仲間を裏切るなんてことはしないニャ。」
(ありがとね。)
「わかった、本当に助かる。」
「じゃあ食事も終わったし、そろそろ探索に戻るかニャ。」
「そうだね、じゃあ行くか。」
(おー!!)
食事で使った皿などを片付け、奥の通路へ向かう。さっきまでの和やかな雰囲気は一変しピリッとした空気だ。実際私もヒナも体力は回復しているとは言え、ジェネラルとこのままもう一度戦えと言われたら逃げることを選択するだろう。精神的な面で疲れているし、その状態では集中力が続かず後れを取る可能性もある。
しばらく通路を歩いていくと、マップ上で部屋があるのが確認できた。しかしこの作りは・・・。
「この先に部屋があるみたいだ。ただちょっと作りがおかしい。」
(あっ、確かにね。)
「どんな風ニャ?」
「なんというか普通の家みたいに区画で仕切られているんだ。部屋の大きさも今までの部屋に比べてとても狭い。」
「魔物の反応は?」
「今のところ魔物も生き物もいないよ。」
「じゃあ慎重に進んでみるニャ。」
角を曲がり、目視でその部屋の入り口が見えた。
「ドア・・・だね。」
「ドア・・・だニャ。」
(そうだね。)
入り口には迷宮にはふさわしくない普通の家の玄関ドアのような扉がついていた。しばらく歩いて近寄ったが見れば見るほど玄関ドアだ。流石にチャイムやノッカーはついていないが。罠を探すがそんな反応は全くない。とてつもなく罠っぽいのに。
「じゃあ開けるけど罠があるかもしれないから慎重にいくよ。絶対に私よりも前には行かないこと。あとルージュはとりあえずここで待っててね。」
「わかったニャ。」
(えーっ!!)
「ちょっと両手が開いた状態の方がいいんだ。何があるかわからないからね。」
(うーん、わかった。安全だとわかったら後で連れて行ってね。)
「了解。」
ノブをひねり少しづつ開けていく。鍵はかかっていないようだ。ドアから糸なども出ていないから内部で罠が発動することも無さそうだ。慎重にドアを開けた先には板張りの廊下といくつかの部屋の扉が見えた。ヒナに目で行くよっと合図をして先に進む。罠を警戒しながら部屋を開けていくが書斎のような部屋や物置のような部屋、トイレとそして台所だった。埃が積もっているが罠は全くなかった
1番奥の最後の部屋のドアを開ける。そこは寝室のようだった。小さな机と椅子があり、ベッドが部屋の大半を占拠していた。そしてそのベッドの上には骸骨が横たわっていた。
「スケルトンかニャ?」
「いや、マップに反応が無いからただの骸骨だよ。」
ひとまず骸骨を無視して部屋に罠が無いか確認していく。罠は無さそうだ。
「ヒナ、大丈夫だ。一応罠はこの家なのかはわからないが、ここには無い。」
「じゃあ私はルージュを連れてくるニャ。」
「あぁ、ありがとう。」
部屋を出て行くヒナを見送り、骸骨を観察する。ベットに寝そべり、腕を前で組んで祈っているようなポーズのまま死んでいる。その骸骨にも埃が積もっており長い年月そのままであったのだろうことがうかがい知れる。
(どう、タイチ?なにかいいものでもあった?)
「まだ本とかは調べてないからわからないけれど、たぶんこの人が住んでいたんだと思う。」
ベットの上を見ながら伝える。
(ふーん、死んでからだいぶ時間が経ってそうだね。結婚してたのかな?)
「えっ、どういうこと?」
「あぁ、指輪してるニャ。」
組まれた左手の薬指にシルバーのシンプルな指輪がはめられている。スカスカになってしまった指輪の内側をよく見ると「J to K」という刻印がされている。
「うーん、なんか変な模様が書いてあるけど結婚指輪っぽいニャ。」
「えっ、変な模様なんて書いてある?」
「ほら、内側に書いてあるニャ。」
ヒナが指さしたのはイニシャルの部分だった。そうだ、おかしい。なんで地球のアルファベットの書かれた指輪をした骸骨がここにあるんだ?私と同じように昔、異世界転移した人だったんだろうか。もしかしたら書斎に手掛かりがあるかもしれない。
「ヒナ、悪いんだけど今日はここに泊まってもいいか?書斎や物置を調べたい。」
「別にいいニャ。荒らされた様子もないしここは安全だと思うニャ。」
(そうだね。荒らされたっていうか生き物が入った気配すらないからね。)
罠が無いこともわかったのでヒナが物置を私が書斎を担当して探索することにした。書斎と言ってもギルドの図書室のように本が百冊以上あるわけでなく、50冊ほどの本と机と椅子があるだけの小さな部屋だ。まずは机の上にある本から確認するか。
「うーん、読めない。」
読もうと思ったのだが、この世界の言語ではない。アルファベットで書かれているのだが英語ではない。英語なら論文を書く時にも使ったからある程度わかるんだがな。右上の数字がページをめくるたびに増えて行っているから日記のようなものかと思うのだがこれは何語だったかな。繰り返し出てくる「Ti amo」って確かヨーロッパのどこかの国で使われている「愛している」って言葉だったよな。
ページをペラペラめくっていく。だんだんと書いてあることが少なくなってくる。最後のページには「Anche se siamo molto lontani ti amo.」とだけ書かれそれ以降は空白のページが続く。
なんとなく悲しくなってくる。これを書いた人は愛している人と離れてこの世界に来てしまったのだろう。言葉の意味はわからないがその人と会いたいという感情が伝わってくるようだ。
「ねぇ、ルージュ。」
(なあに?)
「この世界には意外と地球から来た人がいるのかもしれない。この人がなんでこんなところに住んでいたかはわからないけどね。」
(そっか、いつか会えたらいいね。)
「日本人だとは限らないから判断がつかなそうだけどね。」
いつまでもこの雰囲気を引きずっていても仕方がない。壁にある本を片っ端から読んでいく。そこまで傷んでいないみたいだが年数は経っているはずなので慎重にページをめくる。普通にこの世界の言語で書かれているため読むことが出来る。本の種類はいろいろだ。子供のおとぎ話のようなものから、マーシュと言う聞いたことのない国の年表のようなもの、そして。
「これは・・・。」
(なに?いいものでもあった?)
「うん、魔術式に関する研究書みたいだ。ナンバリングしてあるからここからはすべてこの本だろう。でもネロさんの部屋で見せてもらったものとは魔術式の形式が違う。どういうことだ?」
(まあ古い本だから昔の形式なんじゃない?)
「うーん、そうかな?」
ネロさんに見せてもらった魔術式に比べ、明らかにこちらの方が複雑な形をしている。これを彫るのはかなりの技術がいるはずだ。これは無駄が多いのかそれとも・・・。
「ウニャー。」
ヒナの初めて聞く叫び声と物がドサドサと落ちる音が聞こえた。一瞬焦ったがマップには魔物の反応は無いから何かが落ちてきたとかだろう。とりあえず物置部屋へ向かうか。
古い本って独特のにおいがしますよね。
カビの匂いらしいですが。
読んでくださってありがとうございます。




