目覚め
初感想と30000PV達成記念投稿です。
本日二話目です。ありがとうございます。
結局眠気には勝てず、カウンターのギルド職員に看病をお願いして仮眠を取ることにした。患者が起きたり、症状に変化があったらすぐに呼ぶようにお願いした。
寝る場所がないので結局部屋を借りたのだがしっかりと料金は取られた。面白いことに魔石での支払いも可能だった。これなら地上に戻らなくても長期間この宿を使うことも出来るだろう。面白いシステムだ。
自分にクリーンをかけた後、ベッドに入り泥のように眠った。ベッドに入った後の記憶が全くない。
夢を見る。私は仕事をしていた。パソコンに向かい書類を作り、家に帰り、同居人を叱りながら一緒にご飯を食べる。平和な日常だ。いつもの風景だ。そしてもう戻れない光景だ。夢を夢と認識できるのは現状とあまりに違うからだろうか。悲しいのか、懐かしいのか何とも言えない感情が浮かぶ。同僚が、上司が、同居人が微笑む。何かを言っているようだが聞き取れない。何だ、何を言っているんだ?
「・・・イチさん、目を覚ましたぞ。タイチさん」
「んんっ?」
眠気を振り払い、意識を覚醒させる。目の前にあの年配のギルドの職員がいる。とても嬉しそうな顔をしている。わかったからそんなに揺さぶらないでくれ。
「わかりました。準備しますから先に行っていてください。何時間くらい経ちましたか?」
「タイチさんが寝てから2時間くらいだ。」
「ありがとうございます。」
ギルド職員が出ていった後、着替えをして顔を桶の水で洗うと多少は眠気が飛んだ。寝る前よりは格段に体の調子がいい。顔を洗う前になにか水分が顔にあったような気がしたがなんだろうな。おっちゃんのつばじゃないといいな。
「1」の部屋へ入る前に一応ノックをする。
「どうぞ」
小さな声だが聞こえたので中に入る。女性はさすがにベットに入ったままだが体を起こしている。顔色もいいしこれから悪化するようなことはないだろう。
「おはようございます。どこか調子が悪いところはありませんか。」
「おはようございます。助けていただいて本当にありがとうございます。今のところ特に気になるところはありません。」
手足を曲げたり、指を動かしてもらったりして異常がないか確認していく。痛みを我慢しているような様子もないし本当に大丈夫そうだ。
「大丈夫みたいですね。もし何かあれば言ってください。」
「本当にありがとうございます。あっ、自己紹介が遅れました。私の名前は・・・」
そのときクーっという可愛らしい音が部屋に響いた。女性が顔を真っ赤にする。
「すみません。」
「いえ、毒と戦うために栄養を使ったはずですから食事が必要です。こちらこそ気がつかずにすみません。まだ内臓が弱っていると思いますからちょっと待ってくださいね。」
アイテムボックスから卵スープとリンゴを取り出す。
「無理のない程度に食べてください。さすがに暖かくはないですが消化にはいいですよ。リンゴは皮をむきますからちょっと待ってくださいね。」
「重ね重ねすみません。」
ナイフでりんごの皮をむいていく。お約束ならウサギさんとかにするんだが皮は消化しにくいかも知れないからとりあえず全てむいて一口サイズに切って取り出した皿に並べる。
女性は少しずつではあるがスープを飲んでいる。食べられない様子はないし大丈夫だろう。
食べている様子を見ていたら自分もお腹が減ってきたので迷宮焼きを取り出し食べる。これは今回役に立ったからまた補充しておこう。
しばらくして女性の食事が終わった。スープもリンゴも完食している。
「改めて自己紹介を。私の名前はメリル・リーフィルと言います。助けていただいて本当にありがとうございます。」
「タイチです。もしかしてメリルさんは貴族の方ですか?」
「メリルで大丈夫です。恩人の方にさん付けで呼ばれるのはちょっと。一応貴族ではありますが、祖父が名誉士爵なだけで、祖父が亡くなれば貴族ではなくなりますから。そのうち家名も無くなるでしょう。」
「そうでしたか。だから冒険者に?」
「そうですね。私には生まれつき水魔法の才能がありましたので仕事には困らないのですが、学校を卒業しただけで強力な魔法はまだ使えません。だから冒険者になってLvを上げているのです。このまま冒険者を続けるかは正直わかりません。」
そうだよな、いくらLvが上がるからといっても今回のように死に直面する可能性も高いからな。安全な仕事があるならそちらを選ぶのも人生だよな。
「でもここまで1人で来て迷宮の毒を一度で治すなんてタイチさんは高ランクのヒーラーですよね。依頼料とかは大丈夫なんでしょうか?」
「えっと、私はヒーラーではなくてシーフですよ。8級ですし。」
「えっ、でも迷宮の罠の毒を完全に解毒するような魔法が使えるのに・・・」
「それでもシーフです。」
メリルが納得がいかないような顔をしている。そこのギルドのおっちゃんも同じような顔をするんじゃない!!
「まあ、基本は1人で行動していますからなんでも出来るようにしているんです。」
「そういうものですか。」
なんとか納得はしてもらえたようだ。私の魔法はルージュの状態によって使える魔法が変化するからな。下手に特定の魔法が使える職業にしてしまうとルージュをずっとその状態にしないといけなくなってしまうから却下だ。
「んっ、うるさいニャ。タイチ。」
「あっ、ごめん、ヒナ。」
話し声がうるさかったのか寝ていたヒナが起きてしまったようだ。この前の宿のように暴走していないので一安心だが。
「ヒナさんですよね。助けていただいてありがとうございます。メリル・リーフィルと言います。」
「6級冒険者のヒナニャ。私はただ薬を持ってきただけニャ。感謝するならタイチにするニャ。」
「いや、もうお礼はしてもらったよ。」
「薬を持ってきて頂いただけでもありがたいです。本当にありがとうございます。」
メリルが頭を下げる。ヒナが頬をポリポリとかきながらちょっと気はずかしそうにしている。
「そういえばヒナはこの後のことを聞いてる?」
「ミアおばさんにはもしメリルの体調がいいようなら私たちが帰ってくるときに一緒に連れて来てほしいって言われてるニャ。」
「さすがに無理じゃない?」
「いえ、大丈夫です。自分でも驚く程体の調子がいいんです。体が軽いというか。1日しっかり休んで食事を取れば明日には帰れると思います。」
ガッツポーズで大丈夫アピールをしてくる。解毒魔法とクリーンだけで回復魔法は使っていないんだが本当に大丈夫なのか?後で一応かけておこう。
「わかったニャ。じゃあ今日一日はしっかりと休んで、明日の朝一番にここから出発するニャ。」
「了解。じゃあしばらく休むよ。メリルも大丈夫っぽいし。もし体調が悪くなったら「2」の部屋にいるから呼んで。」
「本当にありがとうございました。」
「おやすみニャ、タイチ。」
ギルドのおっちゃんと一緒に部屋を出る。そういえばヒナはメリルの部屋で寝るつもりなのか?メリルも特に気にしていなかったみたいだがそれが普通なのか?
自分の部屋に戻ろうとしたら深々と頭を下げられた。
「感謝する。」
「依頼を果たしただけですから。それに出来ることはしていたのでしょう?」
「気づいたのか?」
「ズボンにまだ新しい返り血と腕に軽い傷があったので。」
「そのくらいしか出来んがな。」
「それでも助かりました。ありがとうございます。ではしばらく休みますから何か異変があったら起こしてください。」
「ああ、それじゃあな。」
部屋に戻りすぐにベッドに倒れこむ。いい夢が見られますように。
早起きは得意ですが逆に夜に起きていられません。
年をとったということでしょうか。
読んでくださってありがとうございます。




