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RIN ~共に生きる異世界生活~  作者: ジルコ
第二章:メルリスの街にて
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解毒魔法

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本当にありがとうございます。

「すみません、ここに迷宮の罠の毒を受けた冒険者がいるって聞いたんですが。」

「よく来てくれた。マルロさん間に合ったんだな。こっちの部屋だ。すぐに来てくれ。」


 入口にいたギルドの職員に話しかけ、受けた依頼書を見せて案内してもらう。宿に入ると受付カウンターがあり、その奥に10部屋泊まり用の部屋があるようだ。受付にいたギルド職員に軽く頭を下げつつ1番近くの「1」と書かれた部屋に入った。

 入ってすぐの机に杖が立てかけられており、皮の胸当てやローブなどが丁寧に折りたたまれている。奥にあるベットに18歳くらいだろうか、緑の髪にそばかすが特徴的な女性が頭に濡れたタオルを乗せられて寝ている。その顔は熱で浮かされており非常に苦しそうだ。


「もう2日になる。ギルドの職員で看病はしているんだが良くならない。この娘は将来有望な冒険者なんだ。なんとか治してやってほしい。」


 年配のギルド職員が深々と頭を下げる。


「頭を上げてください。出来る限りのことはするつもりです。そのつもりでここまで来ましたから。」

「よろしく頼む。なにか手伝いが必要になったら、カウンターの職員に言って欲しい。」

「わかりました。」


 そう言い残し職員は出て行った。涙は流していなかったが、その目は潤んでいるように見えた。自分より若い冒険者が死ぬのが嫌なのだろう。私にも経験があるからわかる。


 すぐに治療といきたいところだが、まずは先生から借りた毒物の本を取り出し迷宮の罠の毒について調べる。毒の罠にもいろいろあるらしく、その種類ごとに症状が書かれている。初級迷宮については1種類のみらしい。ありがたい。

 症状は、発熱、全身の痺れ、意識の喪失、死亡の順に進んでいくらしい。現在は意識の喪失状態。死ぬ一歩手前だ。解毒薬を飲ませなかったら大体半日で死んでしまうらしいからあの父親が頑張ってここまで連れてきたことで命をながらえることが出来たのだろう。

 先生の言葉を思い出す。時間をおいて解毒薬を使っても末端に溜まった毒までは解毒できずに死ぬと言っていた。そしてこの本に書いてある症状と総合するとどこか1か所を駄目にする毒ではなく、全身に吸収されやすい種類の毒だ。しかも障害が残ると言っていたから残留性も高そうだ。

 フグ毒みたいに峠を越えればすぐに抜けるものだったら楽だったのに、厄介だ。


(どう、タイチ?)


 めずらしくルージュが不安そうに聞いてくる。そういえばルージュの近くに死にそうな人が来るなんて経験は今まで1度もないからな。


(大丈夫、大丈夫。なんとかしてみせるよ。)


 半分は嘘で半分は自分に対する鼓舞だ。気持ちはあるが初めてのことだ。絶対にできるという自信はない。でも私がやらなくてはこの娘は死ぬ。やるしかない。

 現状を正直に言ってルージュを不安にさせてもどうしようもないし。


 ロンソさんが持ってきてくれた迷宮の罠用の解毒薬を飲ますために体を起こす。布団がはだけ汗でしっとりと濡れている服が体に張り付いているのが見える。布が薄いのか肌色が透けている。この状況では目に毒だ。

 油断すると下がりそうになる目線を顔に固定し、気管に入らないようにゆっくりと解毒薬を流し込んでいく。時間はかかったがむせることもなく全てを飲ませることが出来た。

 次は魔法だ。MPの消費量がわからないのでMPポーションを数本飲んで全快にしておく。お腹がチャポチャポしてちょっと気持ち悪いが仕方がない。

 解毒の魔法を実際に先生に見せてもらったのは一度だけ。しかも見た目の変化は全身が光っていただけで内部のことはわからない。この世界の人なら呪文自体に意味があると信じているから、その言葉を唱えれば効果が発揮されるのだろうが私では無理だ。だからイメージする。

 毒物というのは体にとって異物だ。だから本来、体に無いものを抽出するイメージ。そしてその抽出した異物を除去するイメージを。


「アンチポイズン!!」


 魔法がちゃんと発動したのか、全身が薄く光る。先生のように全身から光を発するみたいな感じではなく、体の内部で光っているのが透けているような光だ。それとともに自分の魔力が急激に減少するのを感じる。


「なんだこれは?」


 思わずつぶやく。ステータスで確認するとMPの半分を消費している。今までで瞬間消費としては一番の魔法だ。先生が使っていた時はそこまで消費が大きそうには見えなかったのでやはり無駄が多いんだろうな。

 そんな考えをしながら様子を見る。熱で浮かされ苦しそうだった顔はやつれてはいるが普通の寝顔になっている。確認したところ熱もだいぶ下がったようだ。


「ふぅ、なんとか間に合ったみたいだな。」

(良かったね。)

(あぁ、本当に良かった。ぶっつけ本番だったから不安もあったしね。)


 おでこに乗っているタオルを枕元にある水の桶につけ、よく絞っておでこに戻してやる。いくら魔法が効いたとしてもすぐには熱は下がらないだろうし、場合によってはもう一度魔法を使う必要があるかも知れない。しばらくはこのまま看病を続ける必要があるな。

 あっ、そういえばこの状態はマズイな。


「クリーン。」


 患者を含めてベッド全体に対してクリーンをかける。これで汗なども綺麗になったはずだ。毒が治ったのに風邪をひきましたでは意味がないしな。

 服も乾いていることを確認し、布団をかけなおす。これで起きた時に「変態っ」とか言われるトラブルも防げるだろう。本人の知らないところで見えてしまったが治療のためだし仕方がない。その映像は自分の記憶の中だけに留めておこう。うん。





 6時間経ったがまだ起きる様子はない。ときおりタオルを取り替えながら経過を観察する。特に症状が悪化するようなことはない。様子を見に来たギルドの職員に治療は成功したと思うと伝えると「そうか。」とだけ言って出ていった。その後も何度も様子を見に来るので一緒に看病するかと聞いたのだが仕事があると断られた。ツンデレか!!

 そろそろ私自身も限界だ。昨日1日探索した後、6時間近く自転車で迷宮を走ってきたのだ。疲労もある。一睡もしていないし。

 眠気覚まし代わりにポーションを一気飲みする。苦さで多少目が覚める。疲労はあまり回復した感じがしない。回復対象が違うのかもしれないな。あと1時間看病して目を覚まさなかったら申し訳ないがギルドのカウンターに行って職員に代わってもらおう。

 そう考えたとき、ちょうど部屋の扉が開いた。あの職員か?


「治療は成功したらしいニャ。良かったニャ。」


 そこには、装備のところどころに血が付いて全体的に薄汚れたヒナが立っていた。


「大丈夫?血が付いているみたいだけど怪我はない?」

「あぁ、これは全部返り血ニャ。急いだから返り血まで注意を払えなかったニャ。」

「それは良かったよ。ちょっと待ってね。クリーン。」


 ヒナの全身が光に包まれ血などの汚れが落ちていく。


「あぁ、やっぱりタイチは便利ニャ。これを渡しておくニャ。」


 ヒナから手渡されたのはロンソさんの迷宮の罠用の解毒薬だった。もう必要はないと思うが一応受け取っておいた。


「私はもう無理ニャ。何かあったら起こして欲しいニャ。」


 そう言ってヒナは装備を雑に脱ぎ捨てるともうひとつのベッドに入り込んですぐに寝てしまった。かなり疲れていたのだろう。

 脱ぎ捨てられた装備品を綺麗に並べながら考える。


 私はどこで寝ればいいんだろう。

解毒魔法が現実でもあればいいんですが。

特に食中毒とか。あれはきついです。

読んでくださってありがとうございます。

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RINの外伝の小説を書いています。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。 「お仕事ですよ、メイド様!!」(飛びます) 少しでも気になった方は読んでみてください。
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