邪魔者
昨日も、ブックマーク頂きました。
本当にありがとうございます。
「なんだ、相談って?」
「私は依頼であと3時間半くらいまでに19階層のギルドの宿まで行かないといけない。」
「そりゃあ無理だろ。」
「いや、可能なんだ。この相棒がいるから。」
ルージュのサドルを軽くなでる。
「時間までにつかなかった場合、一人の冒険者が死ぬ。だから一刻も早くこの階層を抜けたいんだ。」
「事情はわかったが結論は変わらないだろ。この扉が開かない限りボス部屋にはいけない。つまりこの先にいるパーティをどうにかしないとどうにもならないだろ。」
「うん、だからこの扉を通らずにボス部屋に行こうと思う。それについて来てほしい。」
「どうやって?抜け穴でもあるっていうのか?そんな情報は無かったぞ。」
「抜け穴はあるんじゃない、作るんだよ。」
「どういうことだ?」
「詳しくは言えない。私の奥の手に関することでもあるからね。でも現状のようにただ待っているよりはいいはずだよ。まあ初めてするから成功するかもわからないけどね。」
ヨルムは黙って思案している。条件とメリット、デメリットを考えているのだろう。私的にはヨルムにデメリットは無いような気がするが。
「いいだろう。でもいいのか、奥の手なんだろ。」
「まあヨルムだからね。」
「俺だからって、まだ2回しか会ってないけどな。」
「その少ない回数しか会っていない相手を気遣う事の出来るヨルムだから変なことはしないって信用するんだよ。」
「そんな善人じゃないかもしれないぞ。」
「まあ、その時は自分の見立てが悪かったって諦めるよ。それよりも今は命の方が大事だ。」
ヨルムの目をじっと見つめながら話す。真剣な表情だったヨルムの顔が苦笑に変わる。
「わかった。これから見たことは誰にも言わない。もちろんパーティのメンバーにもな。」
「ありがとう、それじゃあ作戦を説明するよ。このボス部屋に続く壁に穴を開けるからその穴を通ってボス部屋まで突入する。たぶん穴は5秒くらいしかもたないと思うから開いたらすぐに突入するよ。その後は状況にもよるけれど中にいる冒険者を説得もしくは捕縛して扉が開くようにしよう。」
「おいおい、壁に穴を開けるなんて無理・・・。いや、わかった。とりあえず作戦通りに俺は動く。」
「お願い。」
「それじゃあ仲間にちょっと外すと伝えてくるから少し離れたところから突入しよう。」
そう言ってヨルムは離れて行った。
(ねえ、本当にいいの?何するかはいまいちわからないけど奥の手なんでしょ。)
(まあ、奥の手だけど本当に使えるのか確証はないし、別にアイテムボックスを使うわけでもない。道具とスキルさえそろえば出来ることしかやらないよ。)
(何するの?)
(まあ、それは見てのお楽しみかな。)
(おっ、引っ張るねー。期待が大きくなっちゃうよ。)
(その期待に応えられるように頑張るよ。)
さて、ヨルムが戻ってくるまでに準備をしておかないと。まあ、とは言ってもアイテムボックスから迷宮産の槍とスライムの糸を取り出し糸が切れないように槍の先端にくっつけるだけだ。
槍は切れ味がものすごくいい訳でもないので準備は簡単に終わった。
「話は通した。いつでも行けるぞ。」
「じゃあ、ちょっと離れようか。」
赤の守護剣の他の仲間から少し離れた位置に行く。これで何をしているのか詳しくはわからないはずだ。
「じゃあ、行くよ。」
後ろでヨルムが唾を飲み込む音が聞こえる。
その音を聞きながら槍をボス部屋のある方向の壁に向かって思いっきり投げる。ザクッと言う音とともに槍が壁に突き刺さり、そして5秒後に吸収される。
「よし、第一段階成功。」
「なんだ、槍が吸収されただけじゃないのか?」
「まあ、見ててよ。」
第一段階で確かめたかったのは魔力を妨害する層の厚さと結んだスライムの糸が槍が吸収された後にどうなるかだ。
魔力を妨害する層は5センチ程度で奥は普通の土だった。そしてスライムの糸は切れることなく繋がったままだ。よし、一番最高のケースだ。すべてが妨害層だったら無理だったし、糸が切れたなら死も覚悟しなければならなかったが、とりあえず圧死する可能性は低そうだ。動けなくはなりそうだがな。
「じゃあ今から壁を壊すから着いて来て。遅れたら死にはしないと思うけど大変なことにはなると思う。」
「了解、いつでもいいぞ。」
杖を上段に構えたままスライムの糸を通して土魔法を発動。人が1人通れるよりもだいぶ大きな空間を壁の間に開ける。これで残っているのは魔力の妨害層が2枚だけだ。
(太刀モード起動!!)
杖の持ち手の10センチ上くらいから魔力の刃が杖を覆う。アンさんの杖の機能の1つで私が勝手に太刀モードと呼んでいる機能だ。この機能は魔力の刃を発生させ通常の剣のように、いやそれ以上に物を切り裂くことが出来る。
素早く縦に2閃、横に2閃し壁を長方形に切る。切った壁を蹴り飛ばし通れる穴を作り突入する。2メートルほどの距離を一瞬で駆け、ボス部屋側の壁も同様に切り裂き蹴り飛ばして壁を破壊する。ボス部屋の景色が見えた。行ける!!
「ヨルム、早く!!」
「おう。」
ヨルムが通り過ぎて1秒後くらいに壁は何事もなかったかのように復活していた。
「ハハッ。」
「「ハハハハハッ・・・」」
「まさか本当に壁を抜けるとはな。」
「いや私もこんなにうまくいくとは思わなかった。」
なぜか2人でしたことが非常識すぎて笑えてきて、しばらく笑いあってしまった。
「てめえらどこから来やがった。」
なんなんだ、いい気分に水を差しやがって。あぁ違った。そうだなこのパーティをどうにかしないと。
「そんなことはどうでもいいでしょう。ボス部屋を不当に占拠するのはギルドの罰金対象の行為ですよ。すでに2時間以上いるみたいですし。」
「何を根拠に言ってやがる。俺たちがここに来たのはさっきだぜ。」
「なんだと、俺たちはもう1時間以上待ってたんだ。その間ずっと扉が開かないか試していたんだ。」
「そんなことは知らねえよ。」
「てめえ・・・。」
ヨルムと男が言い争っている間に他の仲間を見る。たき火の近くに座っている男2人の武器は槍と弓矢か。女は杖を持っているのでヒーラーか魔法使いだろう。言い争っている男は剣を持っているし、かなりバランスのとれたパーティだ。とくに弓矢と魔法がそろっていたら厄介だな。
「ヨルム、ちょっと落ち着いて。」
いつの間にか一触即発の状態になっていたヨルムを男から引き離す。
「しかし・・・」
「まあちょっと待って。あなたたちはボス部屋を占拠していたわけではないと言う事ですよね。」
「ああ、当たり前だろ。」
「そうですか。それはそうと、たき火の灰がさっき来たにしてはずいぶん多いですね。それにこの部屋で休憩は出来ないのに、なぜたき火をする必要があるのですか?」
「それはあれだよ。ボス戦で負傷したからその治療のためだ。それはギルドでも認められているはずだ。」
「それこそおかしいですね。血の匂いもしませんし、治療している様子もありません。」
「・・・治療はさっき終わったところだ。」
「そうですか、それではたき火を消してこの部屋から出て行ってください。それともギルドの罰金でも払いますか?」
奥の方で男の仲間が武器に手をかけたのが見える。けん制が必要だな。弓矢を装備している男がつがえようとしている矢を狙ってダートを投擲する。
カシャンと言う音とともにダートの当たった矢が床に転がり落ちる。
「てめぇ、何しやがる。」
「これが最大限の譲歩です。次に武器を向けようとした段階で敵意ありとして攻撃します。相手の実力ぐらいわかりますよね。」
これははったりだ。相手からしてみれば変なところから出てきた正体不明の存在だ。実力はわからないし、明確な逃げ道まで用意してあるんだからリスクは取らないだろう。
おそらく実力的には私以下ではあると思うが4人で連携されたらどうなるかは不確定だからな。
「ちっ、いくぞ。」
4人が11階層へ降りていく。それを黙ってヨルムと見守った。
「ごめんね、これが一番早く終わりそうだったから。」
「気にするな、それよりも早く19階層まで行け。時間が無いんだろ。」
「ありがとう、ヨルム。こんど外で食事でもおごるよ。」
「ああ、楽しみにしてる。」
ああ、無駄な時間を使った。残り時間は約3時間だ。急がなくては。
人の迷惑を考えない人はどこにでもいます。そう学校や職場にもね。
しかもそういう人に限って反省もしないんですよね。
読んでくださってありがとうございます。




