迷宮の盗賊
昨日は記念投稿で二話投稿しています。
ご注意下さい。
その冒険者の男の気が付いたのは2本目の槍を回収したころだった。
「ここは・・・。」
「5階層の半ば辺りニャ。」
キナが簡潔に答える。先ほどの3人の冒険者たちの話からおそらく盗賊ではなくはぐれた仲間だと思われるが注意するに越したことはない。
「盗賊か!!」
「落ち着いてください。盗賊ならあなたは今頃死んでいます。」
落としていた弓を拾いながらこちらに向けようとするのでその前に伝える。やはり状況判断能力は低そうだ。面倒くさい。
「自分の状況はわかっていますか?」
「ゴブリンと戦っている最中に盗賊に後ろから襲われて逃げていた。その最中に前のやつが罠を踏んだと思ったら槍を食らってしばらく倒れていたがそれから記憶が無い。」
罠に引っかかったのは本人のせいではなかったのか。それにしてもあの3人、罠は踏むし、仲間が負傷したことに気付かないし、かなりいい加減だな。そんなことで冒険者をやっていけるのか。
男が自分の装備に空いている穴を見つけその下の体に怪我が無い事に気付く。
「助けてもらったということか、すまない。ありがとう。」
「別に気にしないでいいですよ。」
「7級の冒険者で狩人のニゴだ。」
「8級の冒険者でシーフのタイチです。あちらは仲間のヒナ。」
少し離れたところでヒナが軽く手を上げる。
「改めて礼を言う。ありがとう。」
「どういたしまして。それでニゴさんはこれからどうされるつもりですか?仲間の3人は既に地上へ向かっていると思いますよ。」
「あいつら・・・。まあいい、しばらく5階層を見て回った後、無理のない程度で帰るよ。」
「そうですか、すぐに帰るなら途中まで送っていこうかと思ったのですが、それでは失礼します。」
「ちょっと待ってくれ。タイチ君たちも5階層を回るつもりなのか?」
「はい、今日中に5階層までは探索する予定です」
「それではしばらく一緒に行動しないか?シーフがいるなら心強い。」
ヒナに目線で確認すると、ちょっと迷ったような仕草の後、首を縦に振った。
「わかりました。しばらくの間よろしくお願いします。」
こうしてしばらくの間3人で進むことが決まった。ヒナの態度だけが気がかりだった。
3人で5階層を進む。先頭が私で次がニゴさん、最後がヒナという順番だ。一応マップがあるから後方から不意打ちを受けることは無いとは思うが、遠距離から攻撃できる狩人のニゴさんがどちらから魔物が来ても援護しやすくするためだ。
そのための順番なのだが・・・。
「うわっ、危ないニャ。」
「あっ、ごめん。」
ニゴさんは仲間の動きを見なかった。魔物に対してのみ注意を払い一直線に矢を射るため、仲間がその方向へ走っていてもお構いなしなのだ。しかも矢の精度もそれほど高くない。
実際ほとんどのゴブリンを私かヒナが倒しているので、いてもいなくても変わらないのだ。
「それにしてもタイチ君もヒナさんもすごいねぇ。」
「そんなことないです。」
「普通だニャ。」
私もたぶんヒナも、あなたが普通じゃないんだと思っていると思うが、さすがに年上の冒険者に対してはそんなことは言えない。微妙な雰囲気だ。
「いや、私が下手なことはわかっているんだ。もともとはこちらを使っていてね。」
腰にさげている短剣をポンポンと叩きながらニゴさんが笑う。
「なぜ、武器を変えたニャ?」
「いろいろと思うところがあってね。だからまだ弓は修業中なんだよ。前衛と後衛はやはり違うね。」
「後衛の時は味方の動きに注意した方がいいですよ。援護するなら、魔物を倒すことよりもいかに味方を有利な状況に出来るかを優先するんです。」
「アドバイス、ありがたく受け取るよ。」
その後もゴブリンと4回遭遇したがあまり成長は見られなかった。
「ヒナ、ニゴさん。前方のT字路の前に3人、右に3人いるみたいだ。」
マップに人の反応がある。冒険者にしては2組そろって移動している様子が無いのは不自然だ。非常に怪しい。
「タイチの勘ではどう思うニャ?」
「まぁ、黒だろうね。ヒナは?」
「黒に限りなく近い灰色かニャ。」
「奴らがいるのか?」
「おそらく。」
立ち止まり今後の対応について相談しよう。
「どちらかに進んだ場合は、もう片方の盗賊が背後から襲って挟み撃ちにする予定だろうね。引き返した場合は追ってくるのか、そのまま見逃すのかわからないな、どうする?」
「とりあえず直進でいいんじゃないかニャ?人数は多いけど、ニゴの仲間だった冒険者の話を聞く限りそこまで強くなさそうニャ。盗賊は発見したら潰すものニャ。」
「私としても襲われた仕返しはしたいところだね。」
「引き返したいところだけれど、2対1だから直進するか。注意して進もう。」
やはりこの世界の盗賊は害虫扱いみたいだ。発見、即、殺す、みたいな。命が軽い世界だ。
「ところで盗賊だとわかったら殺すの?」
「うーん、場合によるニャ。迷宮だと死体は吸収されるから報奨金が欲しければ生かして外へ連れて行く必要があるニャ。だから深い層では基本殺すニャ。今回は浅いから連れて行けば1人につき大銀貨1枚になるニャ。」
「またずいぶんと報奨金が多いね。」
「それだけこの迷宮が重要視されている証拠ニャ。あと、捕まえた盗賊は犯罪奴隷として売られるからその売上金を考えれば少ないくらいニャ。」
「ふーん、それでどうする?」
「まあ、なるべく殺さないようにして、死んだら仕方がないくらいでいいんじゃないかニャ。」
アンさんには口が酸っぱくなるくらい、人を殺すことを躊躇することの危険性を教えてもらったが、それでもためらってしまうのは私が日本人だからだろうか。殺す覚悟は出来ているつもりだが、ヒナにそう言われてほっとした自分がいるのも確かだ。
T字路を直進する。腰のダートホルダーは特別製のダートに交換してある。しびれ薬を塗ったものだ。まあ、そのしびれ薬は私が耐性をつけるために食べているしびれ草をロンソさんのところですり潰し、煮詰めたりして作ったものだ。なぜかロンソさんがノリノリで作り方を教えてくれたので手持ちの食べる用の在庫が減ってしまった。また取りに行かないといけない。毒薬なども作ったので、もし日本なら私が捕まるところだ。
3人の男を目でしっかりと確認する。相手もこちらに気づいたようだ。
ハックション。
男の1人が大きなくしゃみをする。これが獲物が来たと知らせる合図かな?てっきり何かのスキルとか特殊な道具があるのかと思ったがずいぶんとアナログだ。しかし事前の情報が無ければわからなかっただろうし有効な手段かもしれない。
「ニゴさん、見覚えのある相手はいますか?」
「すまない、逃げるのに必死でよく見ていなかったんだ。少なくとも切りつけたやつはいない。」
「そうですか。」
相手に聞こえないように小声で聞いてみたが、やはり無理だったか。なんとなくそうじゃないかと思ってはいたのだが。これで相手が具体的な行動をとるまでは攻撃が出来なくなったな。盗賊だと確定出来たら先制攻撃出来たのだが。
「こんにちは。」
「おお、こんなところに来るなんて珍しいな。」
「それはお互い様ですね。」
男と会話を続ける。腰のダートホルダー付近に手を添え、不自然に見えないようにそしてすぐに攻撃できるように準備しておく。相手も剣の付近に手を置いているのですぐに攻撃は可能だろう。これ以上間合いを詰められないように気を付けるか。
「休憩中ですか?」
「ああ、ちょうどゴブリンを倒し終えたところでな。少し数が多くて大変だったんだ。」
「そうですか、3人パーティだとゴブリンの数が多いと大変ですもんね。」
「そうだな、お互い3人パーティだしな。よくわかるだろう。」
ダウトだ。先ほどのくしゃみから移動していた右にいた3人がこちらに向かっている。音がしないことを考えると気づかれないようにしていると言う事だ。他に3人が別の場所で休憩しているとか言われたらちょっと判断に迷ったんだけどな。
状況的にはほぼ黒と断定してもいいだろう。そろそろ攻撃するか。死にはしないし。
「こちらはたまたま、こちらのニゴさんとここで会って一緒にいるだけなのでちょっと違うんですけどね。どうもニゴさんは盗賊に襲われたらしくて。」
一瞬男たちの顔がぴくっとひきつる。
「それは大変だったな。情報に感謝する。」
「いえいえ、それには及びませんよ、盗賊さん。」
ダートを素早く取り出し男の太ももめがけて投擲する。男が反応するよりも早くダートが突き刺さり、膝から崩れ落ちて動かなくなる。
怖っ、ロンソさん強力すぎませんか?障害が残らないか心配だ。取扱いに注意しよう。
「チッ、殺せ!!」
残りの2人が剣を構え向かってくる。盗賊で確定だな。後方から剣げきの音が聞こえる。まあこの程度の敵ならヒナなら大丈夫だろう。とりあえずは目の前の敵だ。
先ほどと同様に太ももを狙って投擲する。あっさりと2人とも突き刺さり、走っていたので顔面から地面にダイブする。弱っ。まあ死ぬことは無いだろう。一応動かないか警戒していると、背後から嫌な予感がしてとっさに振り返る。
(タイチ、危ない!!)
ルージュの声が聞こえたのは、矢が私の服を貫いた後だった。
意外と身近なところに毒のある草とかってありますよね。
漆の木に登ってお岩さんのようになったりとかね。
読んでくださってありがとうございます。




