回復魔法
「それで、次は何をすればいいんですか?」
「そうだな、本当は薬草をすりつぶしてもらうだけで良かったんだがもう終わってしまったしな。お前、冒険者だって言っていたな。なんで治療を見たいんだ?」
「今まで回復魔法を見たことがなかったのでどんな風に治るのか見てみたいというのが一番ですね。迷宮で怪我するかもしれませんし。」
「お前、それだけじゃないだろ。」
ロンソさんに顔をのぞき込まれる。なぜこんなに鋭い人が多いんだ。目をそらしたら悟られそうだ。
「一応それが一番の理由ですよ。」
「「一応」「一番」ね。まあいいや。そうだな、それじゃあお前にはMPポーションを作らせてやろう。」
「MPポーションってマナポーションみたいなものですか?」
「ああ、効果はだいぶ落ちるし他人が作ったものだと効率が悪いんだがな。途中までは普通のポーションと同じだ。さっきのすり潰した薬草を持って来い。・・・よし持ってきたな。それを精製水と混ぜ、ビッコリの実を乾燥させて砕いたものと魔石を砕いたものを順番に混ぜる。ここまでは普通のポーションと一緒だな。」
うなずく。このまましばらく時間を置いておき、ろ過すればポーションの出来上がりだ。
「次にこの混ぜた液体を火にかける。」
「えっ、火にかけたら回復効果が激減するのでは?」
「ああ、だからこの薬で体力の回復は出来ない。弱火でじっくりと温めながらこの液体に魔力を注いでいくんだ。沸騰させるなよ。」
言われたとおり沸騰させないように注意しながら魔力を注いでいく。緑色だった液体が5分ほど注ぎ続けるとだんだん青色に近くなっていく。
「そのくらいだな。あとは冷ましてからろ過すれば出来上がりだ。この分量でだいたい50くらい魔力を注げるはずだ。それ以上注いでも変わらないから注意しろよ。」
「はい。」
MPを確認すると確かに49減っている。これは慣れないうちはステータスを見ながら注いだほうがいいな。
「1つ注意点だ。これは自分自身で飲めば注いだ分のMPを回復できるが、他人に飲ませるとその効果が半減する。教えてやったんだから自分で作れよ。」
「はい、ありがとうございます。もう一度作ってみます。」
その後、残りの時間をこのMPポーションを作って過ごした。私のMPでは10本が限度だったのでぎりぎりまで作った。ロンソさんに10本すべてを渡そうとしたら、5本分は報酬だと言われ返してもらった。
「MPポーションを作りたくなったらまた来い。タイチなら少々仕事はしてもらうがここを自由に使っていいぞ。」
「ありがとうございます、ロンソさん。また来ます。」
そう言ってロンソさんと別れた。
お昼の食事をとり、いよいよ回復魔法だ。
「ロンソの爺さんから聞いてるよ。あんたここで働かないかい?」
「申し出はありがたいのですが、旅を続けたいので。」
「ふんっ、まあいいよ。治療を見たいんだってね。患者が来たら呼んでやるからそれまでそこの本でも読んでな。」
先生はカーテンの奥へ消えていく。読んどけと言われた本は人体の解体図のようなものだった。骨や筋肉、血管、内臓などが詳細に描かれている。夜には読みたくない本だ。
種族ごとにページが分かれており、猫人族のしっぽの筋肉のつき方なども描いてあるのが面白い。確かにこちらの世界は色々な種族がいるからそれぞれ違うし、医者は大変だな。
2時間ほど本を読んでいたが一向に呼ばれない。忘れられていないよな、とちょっと不安になるが患者が少ないのかもしれないし、この本も面白いからしばらくはいいか。
それから1時間ほど経った頃、カーテンの向こうが騒がしくなった。
「あんた!!ちょっと来な。」
「はいっ。」
切迫した声に慌ててカーテンを開ける。そこで見たのは血まみれの片足と片手を失った冒険者とそれを診る先生とお姉さん、そして心配そうにしている冒険者の仲間たちだった。仲間もボロボロで一人はこの重傷者を背負ってきたからだろうか背中が血で染まっている。
「先生、早くしてくれ。死んじまう。」
「うるさいよ。黙ってられないなら外へ出な。」
先生が他の冒険者を黙らす。猶予はあまりないようだ。
「そこの女、ちぎれた腕をここに置きな。そしてタイチ、こいつが動かないように体を抑えてな。」
仲間の女性がすぐに持っていた腕を元の場所の近くへ置く。私も手と胸を抑えて動けないようにする。下半身はお姉さんが担当するようだ。冒険者は意識が朦朧としているのかかすかに動くだけでうめき声も小さい。
「じゃあいくよ、この者の不浄を取り払え、クリーン。」
冒険者の体が光に包まれ、血や泥などが落ちていく。まるで汚れる前の状態に逆再生しているみたいだ。
「この者のすべての傷を癒したまえ、ハイヒール。」
冒険者の傷がみるみるふさがっていく。それどころかちぎれた腕までが盛り上がった肉同士がくっつき合い元の状態に戻っていく。しかしちぎれた部分が無かった足については傷口がふさがっただけだ。
「ぐがぁぁー」
突然冒険者が暴れだした。お姉さんとふたりで懸命に抑える。しばらくすると冒険者は気を失ったようで静かになった。
「とりあえずは終わりだよ。次の患者が来るかもしれないんだ。あんたらこいつを病室まで運んでいきな。」
「先生、ありがとう。」
仲間が患者を板に載せ運んでいく。その様子を見て緊張感から解放され思わずため息が漏れる。
「すごい魔法ですね。」
「まだまださ。私には患者の足を治すことは出来ない。腕はちぎれた先があったからくっつけられたけどね。」
先生が自嘲の笑みを浮かべる。
「私だって長年ヒーラーとして修行をして、そこいらの奴らよりは腕も立つと自信を持って言える。あいつらは回復魔法について何もわかっちゃいない。魔法の勉強しているだけじゃ、まだ足りないのさ。」
「なにかほかに回復魔法にとって重要な要因があるということですか?」
「そうだよ、回復魔法を十全に発揮するためには知識が必要なのさ。人の構造、血管、神経全てについてだ。私が治療したからさっきの冒険者はすぐにちぎれた腕を振るえるようになるだろう。でもそこらのヒーラーならかなりの時間リハビリが必要になるはずさ。」
確かに言われる通りだ。魔法がイメージで発動する。具体的に回復したい部分を思い浮かべて発動するのと、なんとなく発動するのでは雲泥の差が出るだろう。
「あんたももし回復魔法を使うならこれだけはしっかり覚えておきな。」
「・・・なんでわかりましたか?」
「ただ治療を見たいなんてやつが医学書を真剣に読んだりしないよ。」
「そうですかね。」
「あんたはまだ若い。勉強して皆を救える回復魔法使いになっておくれ。」
「ヒーラーになるつもりはありませんが、覚えておきます。」
「それでいいよ。私もエルフだったらねぇ。たまにロンソの爺さんがうらやましくなるんだよ。」
先生は遠くを見つめながらそう言った。その目がどこを見ているのかはわからなかった。
医者や看護師になる人を尊敬します。
他人の命を直接握る職業は怖いのです。
読んでくださってありがとうございます。




