迷宮都市メルリス
本日二話目なので、注意して下さい。
「ンッ」
杖術の型を出来る限りゆっくりとした動作で変化させていく。息を乱さないよう、重心、足運びすべてに神経を尖らせながら決まった動作を繰り返す。
自身の悪い癖がわかる。力の入りすぎている場所、重心のずれを修正する。理想の姿との差異を潰していく。
額から汗が流れ落ちる。
差異がなくなってきたらその動きをだんだんと早くしていく。より早く、効率的に、理想通りに。想像するのはアンさんの姿。自分の知る最高の杖術使い。遥かな高みにいる存在。
すべてに注意を払え、自分自身だけでなく地面、そして空気まで。理想と重なるように。
「ハッ!!」
気合とともに突きを繰り出し型の稽古を終える。全身が水浴びをしたようにぐっしょりしている。また井戸を借りなければ。
(おぉー、だいぶ様になってきたね。)
(まあ、それなりに仕込まれたから。)
(でもアンさんにはまだまだ及ばないね。)
それは言わない約束でしょ。ルージュさん。
杖をわざわざ持ったまま宿へ帰る。女将さんに井戸を借りる旨を伝え、水浴びをし汗を流す。とても気持ちがいい。
朝の6時ごろだがもう朝食は食べられるとのことだったので朝食を食べ出発の準備をする。
昨日でおよそ3分の2を走っているのでうまくいけば昼過ぎにはメルリスへ到着できそうだ。
そのとき、コンコンっとドアがノックされた。
「はい、どうぞ。」
一応いつでも攻撃が出来るように準備しながら自然体を装う。
入ってきたのは宿の従業員の少年だ。
「あんたに頼みがあるんだ、俺にさっきの武術の訓練をしてくれないか。」
開口一番少年はそう頼んできた。
「どうして?」
「俺は冒険者になりたいんだ。こんな何も変わらない村で一生を過ごすなんてまっぴらごめんだ。冒険者になってゆくゆくは「竜殺し」のような英雄になりたいんだ。」
朝の訓練を見ていた気配はこの子か。「竜殺し」が誰かは知らないが竜を殺した冒険者がいるのだろう。
「うーん、悪いけど断るよ。」
「なんでだよ!!あんた強いんだろ。教えてくれたっていいじゃないか。」
「私にメリットはないし、それに短期間で小手先の技術を覚えたって本当に強くはなれないよ。強くなったような無駄な自信だけがついて逆に死にかねない。」
「金を払えばいいんだろ!!俺はこんな村で終わるような奴じゃないんだ!!」
駄目だな。礼儀もなっていないし、強くなることだけに執着していて基礎とかをおろそかにするタイプだ。見た感じ自分で走ったりして体力をつけている様子もない。
「私も時間が無いんだ。悪いね。」
「なんでだよ、なんで皆断るんだよ。」
少年がボロボロと涙をこぼす。
「私の他にも断った人がいるなら、なぜ断られたのかを一度しっかり考えた方がいい。今後同じようにしても断られるかもしくは騙されると思うよ。」
少年を部屋に残しチェックアウトに向かった。
「すまないね、あの子が稽古をつけてくれって頼みに行っただろう。」
「はい、断ってしまいましたが。」
「あの子の両親は冒険者でね。赤ん坊のあの子を置いたっきり帰ってこなかったんだ。それから育ててるんだが両親の話はしていないのにやたらと冒険者になりたがるんだ。やはり血かねえ。」
「そうでしたか、もしあの子が本当に冒険者になりたいと思い女将さんがそれを許したなら、まず朝と晩に1時間のランニングと柔軟をしっかりするように伝えてあげてください。」
「あんたもお人よしだね。」
「いえ、アドバイスするだけならただですから。」
「じゃあそんなあんたに私からもアドバイスだ。メルリスに行ったら永遠の木陰亭という宿に泊まりな。あの町はぼったくり宿も多いからね。」
「ありがとうございます。」
お礼を言い宿を去る。少年は出てこなかった。
(ちょっとぐらい教えてあげれば良かったのに。)
(駄目だよ。中途半端な知識は無駄な自信しかつけない。もし魔物を倒しに行って殺されてしまったら目覚めが悪いだろ。自分自身でさえ修業中なのに教えるなんて出来ないよ。)
(ふーん、あの子冒険者になれるかな?)
(冒険者にはなれると思うけど、その後生きていけるかはわからないな。アドバイスをちゃんと聞いてくれるといいけれど。)
(そうだねー。まあとりあえずメルリスに行こうか。)
(そうだな。)
昨日と同じような景色が見渡す限り続いていることをちょっと残念に思いながらペダルを回した。
(はーい、到着。かかった時間は1日と半分でしたー。)
(思ったより早かったな。)
そう、昼前にもうメルリスについてしまった。これなら無理をすればイーリスまで一日で帰れるな。体力が上がったおかげもあるだろうけれど意外と近いな。
メルリスも防壁に囲まれているがイーリスほど高くない。そしてイーリスの街は円形だったのに比べ、メルリスの街は大きな四角形に3つの小さな四角がくっついたようないびつな形をしている。
なぜこんなことがわかるかといえば普通に街の案内板があるからだ。
どうも小さな四角形にそれぞれ迷宮があるらしい。ということは3つもあると言う事か。
順番を待ちながら案内板でギルドの場所を確認する。さすがに宿の位置までは載っていないのでギルドで聞いてみよう。
順番を待っている人で一番多いのはやはり冒険者だ。私のように一人の人もいるし、パーティの人達もいる。目を輝かせている人が多いので初めての人が多いのかもしれない。
次に多いのが商人だ。この迷宮でとれる素材や宝を仕入れるためだろう。荷物を見たところ酒や食料品が多いみたいだ。ここでの生産があまり行われていないんだろうか。値段が高くなっていないといいが。
きょろきょろと周りを見回していると一人の少女に目が留まる。ソロの冒険者らしく他に仲間がいるようなそぶりはない。腰には剣を差しており皮の鎧を身に着けている。
どこかで見たような気がするなと考えているうちにその子の順番になって、街の中へ消えて行ってしまった。
(ルージュ、さっきの女の子に見覚え無い?)
(特にないけど、なんで?)
(いや、どこかで見たような気がして。)
(なに、ナンパするの?)
(しないよ。)
確かにきれいな子だったが、見ず知らずの人をナンパするほどの度胸はない。
そうこうしているうちに私の順番になったのでギルド証を見せて街へ入る。ついに迷宮都市メルリスに着いた。
門付近は宿が立ち並んでおり、入ってきた冒険者たちを勧誘する客引きがたくさんいた。男性の冒険者が多いからだろうかかわいい女の子の客引きが多い気がする。逆にイケメンの男性もいてその人は女性冒険者に声をかけている。
勧誘してくる女の子に断りながらギルドを目指した。
10分ほど走るとギルドに着いた。案内板通りで良かった。
イーリスの街と同じようなつくりの建物なのでわかりやすいのだが、冒険者ギルドはこの建物って決まっているのか?それとも建てた人が同じなんだろうか。
なんとなく懐かしく思いながらドアを開けた。
まず驚いたのが人が多いことだ。この時間のイーリスならほとんど冒険者がおらずギルド職員も少ない。しかしここには見た限りでも30人以上の冒険者がおり、併設の酒場も盛り上がっているようだ。なぜだろう。
窓口の列に並び順番を待つ。なんとなく猫人族の人の列だ。とはいっても40くらいのおばちゃんだが。
「はい、次の人。」
「あっ、はい。イーリスのギルドから手紙の配達の依頼を受けましたタイチです。依頼書と手紙はこちらになります。」
「お疲れさま。依頼書を確認してっと、あんたこの依頼昨日じゃないか。」
「えっと、そうですが。」
「どうやって来たんだい?飛龍便に匹敵する早さだよ。あっ、やっぱ言わなくていい。冒険者にとって特技は隠しておくべきものもあるしね。」
おばちゃんがウインクする。可愛くはないが愛嬌はあるな。あれっ、そういえば語尾にニャってつかないな。なんでだ。
「まあ何はともあれ早いにこしたことはないからね。依頼は完了だよ。ほら、報酬だ。」
報酬の銀貨5枚を受け取る。1日半で銀貨5枚か。かなり割がいいな。
「ありがとうございます。ところで永遠の木陰亭って宿を知ってますか?」
「そこならここを出て西の方へ30分くらい歩いたところにあるよ。木の下に猫がいる看板が目印さ。あそこにこの街の地図があって、宿や店が載ってるからそれで確認しな。」
「わかりました。ありがとうございます。」
地図を見ながら「マップ」にギルドや使いそうな店をメモに残しながら道順を確認した。
さあ、永遠の木陰亭へ行こう。
いよいよ到着しました。
読んでくださいありがとうございます。




