選択と旅立ち
初ブックマークいただきました。
ありがとうございます。励みになります。
「残念だが、できない。」
半ば予想していたとはいえ、きついな。まぁ、帰れるならこの場所の説明なんてしないで帰してしまえばいいのだから当然と言えば当然か。
「そう、ですか。」
「すまんな、こっちの落ち度だとは分かっているのだが。ここに来た段階で元に戻ることはもう出来ない。」
そういわれてすぐに思い出したのが同居人の事だ。腐れ縁の親友だが家事能力は全くなので生活できるのだろうか。腹減ったーって部屋で行き倒れそうだ。
仕事もある。案件ごとにその人の趣味や好きなもの、嫌いなものをまとめたお助けメモや交渉経過は記録してあるからそのファイルを見れば大丈夫だと思うが引き継ぎ書は作成していない。部下には大変な仕事を押し付けてしまうだろう。
父親は大丈夫だろう、一時期は母を亡くしてぼろぼろになっていたが3年前に再婚してからがんばっているみたいだし。年の離れた弟か妹ができないか心配なくらいだ。
「とりあえずこれからどうなりますか?」
「前例どおり太一さんには次の世界に行ってもらう。ただし、肉体は滅んでいないから転生というよりは転移だな。」
「どのような世界ですか。」
「世界ごとにコンセプトがあるっていうのは聞いているか?そうか。次の世界のコンセプトは助力あり、才能表示あり、外的脅威ありだな。」
「かなりこの地球とは違うみたいですね。」
「そうだな、地球からしたらファンタジーの世界と感じるだろう。魔王と魔物もいるから生きるのに必死だな。科学は発達していないが管理者の助力があるから魔法が使える。」
「まさしくファンタジーですね、ちなみに才能表示とは?」
「RPGでいうとステータスが見えて才能がわかるということだ。普通は2,3個才能を持って生まれるな。才能がわかっているから適した仕事に就けるという利点がある。」
「私はどうなりますか?」
「とりあえず何もなしというわけにもいかないが、魂じゃないからポイントは使えない。特例として今回の人生の残りの47年分をポイントとして才能を選ぶといい。そのリストがこれだ。」
どさっ、と机の上に置かれたのは先ほど後輩さんをはたいた束だ。突っ込み用じゃなかったのか。
リストをペラペラめくると「剣の才能 10P」「火魔法の才能 10P」「鍛冶の才能 10P」などファンタジーな才能が並び補足説明もついている。これを読むだけでかなりの時間がかかりそうだ。
「いきなりでわからないことが多いと思うからそこで寝ている奴が起きたら聞いてくれ。ちなみにどんな生活がしたいんだ?」
「食べるのに困らない、安全、旅行ができれば最高って感じですかね。」
「また難しい注文だな。特に旅行なんて危険がつきものだぞ。次の世界は。」
「まぁ、あくまで希望ですから。」
「そうか、とりあえずその資料を読んでおいてくれ。俺はまだ打ち合わせがある。」
そう言って先輩さんはまた出て行った。途中で「ぐえっ」というカエルがお腹を踏まれたような声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。
1時間ほど経過しただろうか、資料も八割がた読んだところで後輩さんの気が付いた。
「あれっ、なんで床で寝ているんですか?先輩は?」
「だいぶ前に出て行かれましたよ。」
「そうなんですかー。先輩が戻ってきたのは覚えているんですが、そこから記憶がいまいち・・・」
「疲れているんですよ。」
「そうなんですかねー。」
なんとなく納得はいっていないようで首をひねっているが、放り投げられて気絶したうえ、まだ罰が残っているなんてそんな記憶はない方が幸せだろう。
「ところで太一さんは何をしているんですかー。」
起きたばっかりだからか仕事モードではないようだ。
「次の世界での才能を選んでいるんです。」
「へー、いいもの見つかりましたか?」
「どうしても大まかな情報しかわからないので判断に迷いますね。」
「私のおすすめは 「勇者の才能」 ですねー。」
資料を探してみると確かにある。しかも100ポイント。
「最初はそこまで強くないのですが、成長補正、技能取得補正が大きいので育てば最強ですねー。」
「私は47ポイントしかないので無理ですよ。」
「そうなんですか。残念ですー。」
あっ、そういえば後輩さんが前言っていたことで気になったことをこの機会に聞いておこう。
「そういえば私の生きていた世界では才能表示なしって言っていましたが、見えないだけで生まれた時から才能があったと言う事ですか?」
「そうですね、分からないからいろいろ模索して、たまたま才能にあった職業に就いた人たちが天才とか言われることが多いですねー。」
「ちなみに私の才能ってなんでしたか?」
「それは秘密です。」
ウインクしながら、いたずらっ子のような表情で笑われてしまった。答える気はなさそうだ。気にはなるが今更か。
その時、ガチャと音がして先輩さんが戻ってきた。
「太一さん、どうだ。決まりそうか?」
「いえ、なかなか決め手が無くて迷っているところです。」
「俺のおすすめでも聞いてみるか?」
「よろしくお願いします。」
「まずは「知識」だな。向こうで知っているべき情報を知らないのはまずいし、話したり、文字が読めないでは生活できないだろう。」
確かにそうだ。剣とか魔法に意識が行ってしまっていたが言語などの知識がないことには生活が全くできない。町にも入れないだろうから山で生活とかになってしまう。それは無理だ。
「次に「マップ」と「アイテムボックス」だな。マップは現在地から周囲の地形などを把握できる才能だな。魔物も表示可能だから安全な生活には意味のある才能のはずだ。アイテムボックスは物を異空間に収納できる技能だな。旅行するなら荷物は多くなるだろうしな。」
「つまんないです、先輩。」
「うるせえ、お前の好みは聞いてねえ。」
さすが先輩さん。できる男だ。私の要望を聞いて考えてくれたのだろう。
「ありがとうございます。ちなみに合計は何ポイントですか?」
「35ポイントだな。アイテムボックスは本当なら「空間魔法の才能」のほうが後々便利なんだがポイントが足らないからな。」
ちなみに「知識 5P」、「マップ 15P」、「アイテムボックス 15P」らしい。知識はその世界で生まれれば普通に分かるものだが、特例の私のために用意されたおまけのような才能らしい。
「ありがとうございます。これで十分です。」
「残りはどうする。武闘系の才能があった方がいいとは思うが?」
どうしよう。選んだ技能があれば生活はできそうだ。不安がないと言えば嘘になるが。ただ心残りがある。
「この才能の選択なのですが自分だけしかだめですか?」
「どういう意味だ?」
「違う人に私の分の才能を渡すことはできないのかと言う事ですね。」
「出来ないこともないが他人のために使うのか?」
「ちょっと心配なやつがいるので出来るなら。」
「わかった。あまり変なものは止めてくれ。混乱が起きる。まあポイントの残り的に選べないとは思うが。」
よかった。それなら多少は安心していなくなることができる。
「では、私の同居人に「幸運の才能」をおねがいします。ついでにメッセージを伝えたいんですが。」
「その才能なら大丈夫だろう。多少運が良くなるだけだしな。メッセージか。内容を確認するがいいか?」
「はい、大丈夫です。何か書いてはいけないことはありますか?」
「とりあえずこの場所へ来る方法だけだな。太一さんのような人が増えてはたまらん。道の再設定にもしばらく時間がかかるからな。」
「えっ、この場所については書いてもいいんですか?」
「書いたとしても妄言といわれて終わりだろうしな。」
よかった。これなら心配なく次の世界に行ける。いきなりいなくなるから、見つからずに延々と探されるなんて人生の無駄遣いはして欲しくないしな。
手紙を書き終え、先輩さんに見せた。内容は大丈夫のようだ。
「それでは、よろしくお願いします。」
「ああ、この手紙と才能は責任を持って届ける。こいつがな。」
「えー、私案内業務があるから無理ですよー。ほらっ、私先輩と違って・・ぶへっ」
天どんしようとした後輩さんをいつのまにか取り出したはりせんでつっこむ先輩さん。
ここにきて対応してくれたのがこの二人で良かったかもしれない。この二人のやり取りにすごく救われた。
「それでは、いってきます。」
「おう、頑張って生きてこい。」
「いってらっしゃい。また会いましょうねー。」
先輩さんは片手をあげ、後輩さんはぶんぶんと手を振り見送ってくれる。ぺこりと頭を下げ光の道へ進んでいく。さぁ、新しい人生の始まりだ。
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