閑話:彷徨う刃
章の本編完結記念投稿です。
本編とは関係がありません。
人によっては不快感を覚える内容かもしれませんので読みたくない人は無視してください。
「おりゃぁぁ死ねやー」
ドスンっという音とともにアースドラゴンの首が落ちる。さすがにこの状態で生きていることはないだろう。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
息を整えつつ周りを見渡す。一面の血と肉の塊。ブレスを受けて何も残らなかった奴もいるから残っているだけましなのか。あの中に仲間の一部もあるはずだ。
はぐれのアースドラゴンが村を滅ぼし、その討伐の強制依頼が国から出たためパーティ全員で参加した。3級パーティである俺達は1つの部隊を任された。
包囲している奴らを除いて直接戦闘に参加した冒険者は100人以上。いずれも6級以上の戦闘経験豊富な連中だ。おそらく半数は死ぬだろうが、アースドラゴンについては弱点もわかっている。生き残る可能性は高いはずだった。
実際に接敵してその判断を後悔した。その個体は特殊個体であった。アースドラゴンがあまり使わないはずのブレスを頻発し、攻撃性が極めて高かった。ドラゴンの中で比較的温厚な性格と言われるアースドラゴンであるのに。
村が滅ぼされたという段階で異常に気付くべきであったのだ。
今その100人以上の冒険者の中で立っているのは俺を含めて2人。もう1人は確か、たまたまこの街にいた2級の冒険者のはずだ。
「割に合わん仕事だ。」
「ああ、そうだな。」
仲間は皆死んでしまった。あの時もう少し早く俺が足を切り裂いていたらブレスの直撃を受けることもなかっただろう。
いや、戦闘に入る前にもっと違う作戦を考えていれば。
そもそもこの街に滞在していなければ。
いや、今更考えてもしょうがねえな。
「あんたはこれからどうするんだ。」
「報酬をもらったら旅を続ける。探し物があってな。」
「そうか、見つかるといいな。」
「お前こそどうするんだ。仲間も死んでしまったのだろう?」
「さあな、とりあえずしばらくは何もしたくねえな。」
包囲していたやつらがこちらに来て生存者の確認と死体の回収、ドラゴンの素材の回収をしている。
たまにあまりの惨状に吐いている冒険者がいることにイラつく。お前が殺されなかったのはその吐いた原因のおかげでもあるんだぞ、と。
「じゃあな、ドラゴンスレイヤー。」
「あっ・・・?あぁ、それじゃあな。」
意味が分からなかったがステータスを見て気が付いた。称号が「ドラゴンスレイヤー」になっていた。
ギルドに討伐を報告し、称号のことを伝えると国に報告が行ったらしく「名誉子爵」の地位を授かった。領地も何もない一代限りの貴族だ。戦争時に召集がかかるらしいが、ここ最近は戦争も起こっていないためあまり関係が無い。年に金貨5枚が支払われるそうだ。
貴族になったからと言って生活が変わることもなく、冒険者を続けた。今回の依頼結果をうけてランクが2級に上がった。新たな仲間を集めることが考えられなかったので一人で活動した。そんな俺に2つ名がつけられた。「竜殺し」。そのままだった。
討伐により冒険者が大量に死んだため孤児が大量に発生したので街で問題になっていた。
俺は貴族としてもらった報酬すべてと手持ちの財産の半分を孤児院に寄付した。
俺も昔は孤児だった。
小さな村で育った俺はじいさんの後を継ぐべく一緒に仕事をしていた。
ある日、仕事が終わり村へ帰ると魔物に村が襲われていた。
俺は目の前で知り合いが食われる光景に全く動けなくなってしまった。
じいさんは俺を連れては逃げられないと判断したからか魔物に向かっていった。しばらく魔物とじいさんが戦っていたが、じいさんが魔物の頭をかち割るのと同時に、魔物もじいさんののどを食い破っていた。
慌ててじいさんに駆け寄ったが、しゃべることのできなかったじいさんは必死に何かを伝えようとしていた。それが数秒続いた後静かに目を閉じ、そして2度と開かなかった。
それから村を見て回ったが全滅だった。両親も友人も知り合いも村長もみんな殺されてしまった。その日はそのまま泣きつかれて眠った。
翌朝、がさごそという音で目が覚めた。村人が生きていたかと喜んだがそれは死体をあさる魔物だった。
ここにいてはいつか殺されると思い、食料や金などを必死に集めて近くの街へ向かった。
じいさんの仕事道具も持って行った。
無事に街へたどり着いた俺が村のことを伝えるとそのまま孤児院へ入れられた。粗末な食事にいじめなどひどいところだったが生きることは出来た。12歳になるとすぐに出て冒険者になった。初めての武器はじいさんの形見だった。
今ではいっぱしの冒険者だが孤児院の現状は痛いほどわかっていた。なんとか状況を改善したいと支援を続けた。
あれから5年の月日が流れた。相変わらず俺は一人で冒険者を続けていた。年に2回ほど孤児院を見に行くがだいぶ落ち着いてきたように感じる。
今回受けた依頼は「辺境都市イーリスへの護衛依頼」。ここからだと大体1か月程度の距離だ。ランクは5級。普通なら受けない依頼だが依頼者の職業がじいさんと同じだったので懐かしくなり受けてしまった。
「まさか「竜殺し」さんに依頼を受けてもらえるとは。」
「その名はやめてくれ。俺はただの冒険者だ。」
「でも竜を殺したんでしょ。お話し聞かせてね。」
護衛対象は父親と娘だった。この街まで取引に来て、売った代金で必要なものを買ってきたらしい。5級なのであまり依頼料は多くないが食事つきなので問題はない。
その日から3人の馬車による旅が始まった。基本的に俺が夜に見張りをし、昼は馬車の中で眠る日々だ。魔物などが出た場合は叫んでもらい殺していった。
「「竜殺し」さんは本当に強いね。」
「だから、その「竜殺し」はやめてくれ。」
「だって、ドラゴン討伐の話をしてくれないから、してくれるまでやめない。」
朝と夜の食事のあたりで一緒になるのだが、依頼者の娘はすごく気やすかった。表情もコロコロと変わり見ていて楽しくなる感じだ。
「ほらっ、やめなさい。早く食事の準備をしておいで。」
「はーい。パパはうるさいなぁ。」
「なにかいったかな?」
依頼主がにらむと娘はすたこらと逃げていった。
「すみません。悪気はないんですがあまり男性とかかわったことが無いので。」
「いや、別に気にしていない。」
「だれかいい人でも出来るといいんですがね。」
依頼人の悩みは多そうだった。
「馬車の中にいろ!!」
イーリスまであと1週間というところで盗賊たちの襲撃を受けた。人数は隠れている奴も含めて7人。数人殺して後は捕まえればいいだろう。
武器をふるい首をはねていく。あまりに弱い。全員が黒い覆面をかぶっているのは闇に紛れるためだろう。3人殺した後、隠れていたやつを含めて手足を折って捕まえる。簡単な仕事だ。
「お前たちのアジトはどこだ。他に仲間はいるのか?」
捕まえた4人に対して尋問を始める。大きな盗賊団ならギルドに報告して討伐隊を編成しなくてはいけない。基本的に盗賊は殺すものだ。
それがわかっているから、当然盗賊たちは何も答えない。
「とりあえず、つらを見せてもらうぞ。」
覆面をとっていく。3人目の覆面をとったところで驚きで手が止まる。
「やあ、おじさん。」
俺が寄付していた孤児院の子供だった。
「なんでお前が・・・。」
「あぁ、おじさんはよく寄付してくれていたもんね。でもそれで利益を得たのは経営者だけだよ。こっちは食事の一品さえ増えなかった。おじさんが来る時だけ豪華だったけどね。」
「・・・」
「いいことしてるつもりだった?僕らの生活は何一つ変わらなかったよ。お金だけで変わるとでも思ったの?」
「・・・」
「おじさんがやっていたのはただの自己満足さ。孤児院から出れば仕事なんてない。こんなことをしなければ生きていけないんだ。」
「・・・」
「ねえ、おじさん。生きるって難しいね。ただ普通に暮らしたいだけなのになんでこうなってしまったんだろう。」
俺は間違っていたのか?孤児の現状を知っていたはずなのに何もできていなかったのか。
「さあ、おじさんの手で僕の人生を終わらせてくれよ。自分が救ったつもりの命を自分が殺すなんて素敵だろ。」
「・・・」
「いい加減にしてください!!「竜殺し」さんの、ケイルさんのせいにしないでください。あなたが盗賊になったのはあなたのせいでしょう。絶対に他の道もあったはずです。」
娘が怒りながら叫んでいた。
「違うよ・」
「違いません。あなたが盗賊になったのはあなたの選択のせい。その結果を受けなさい。」
振り下ろされた短剣を慌てて斧で止める。
「なぜ止めるの、ケイルさん。」
「こいつらの始末は俺がつける。それが依頼だからな。」
情報を引き出すのをあきらめ、盗賊の首をはねていく。盗賊はすぐに動かなくなった。
「次にもし生まれ変わったら普通の人生が送れるといいな。」
炎で焼かれる死体を見ながら、はなむけの言葉を贈った。
「イーリスの街についたぜ。」
「本当にありがとうございました。」
「結局ケイルさんにドラゴン殺しの話、聞けなかったわ。」
「勘弁してくれ。」
これで護衛の依頼も終わりだ。この先どうしようか?
「なんか、ケイルさんこの先どうしようって顔してる。」
「なんだ、顔に出てたか?」
「もし冒険者を辞められるようなら、うちで働きませんか。斧を使うケイルさんならきこりの仕事もすぐ覚えるでしょう。」
「まあ、考えとくわ。」
「絶対に来てよ。待ってるから。」
ぶんぶんと手を振られながら別れる。とりあえずギルドに依頼達成と盗賊の報告だな。
俺はケイル。2級の冒険者だ。「竜殺し」とも呼ばれる。
いろいろと選択を誤ったかもしれないが、それを生かしてこれから生きてみようと思う。
ということできこりのケイルさんの過去話でした。
次の閑話はケイルさんの木こり編・・・ではなくちょっと気軽な閑話です。
読んでくださりありがとうございます。




