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RIN ~共に生きる異世界生活~  作者: ジルコ
第一章:イーリスの街にて
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一撃

 相手はあのアンさんだ。しかしアンさんも同じ人間のはずだ。同じ人間だよな・・・。

 余計なことを考えている場合じゃない。集中しろ、集中。


「何かするつもりですね。」

「さて、何のことでしょうか。」


 会話をしながら攻撃を始めるタイミングを探る。アンさんが隙を見せることはないだろうがコンマ数秒でも反応が遅れる瞬間を。

 お互いが相手の出方を探り、こう着する。そしてアンさんが杖を握り直した。

 ここだ!!


 アイテムボックスからワクコ特製ダートを取り出し、正面に二本、6割ほどの速度で投げ、上空に次々とダートを投擲していく。上空に投擲したダートははるかかなたへ飛んでいく角度と速度だ。

 それを一瞥し、害は無いと判断したのか、正面のダートをその場で打ち払われる。


「なんのつもり・・・」


 最後まで言い終わる前に上空からダートが次々とアンさん目がけて飛んでくる


「ちっ」


 全力で横へ飛び避けられ、それでも当たりそうなものについては杖で弾かれる。


 さすがです、アンさん。でもこれで終わるわけがないですよね。


 続けて正面へ二本、左右に一本ずつ投擲する。

 左右に投擲したダートが弧を描きながらアンさんへと向かう。

 正面のダートが杖で弾かれた。そのままこちらに突っ込んでくるつもりだろう。


 甘いです。アンさん。


 前に出てきたアンさんを狙うように、曲がる角度を増したダートが死角から飛んでくる。

 アンさんは立ち止まると、私を見たまま右手に持った杖をバトンのように回転させながら背中で左手に持ち替え、さらに回転させていつもの体勢に戻った。

 たったそれだけで背後から来ていたダートは打ち払われてしまった。

 嘘だろ。


「面白い武器ですね。穴の開いたダートにスライムの糸をつけましたか。」

「対アンさん用の秘密兵器だったんですけどね。あっさり見破られました。結構扱いに苦労したんですよ。」

「不意をつくにはいい武器だと思います。しかし一度見破られてしまえば対策は簡単に出来ます。」


 そのとおりだ。アンさんに見破られた通り、秘密兵器はスライムの糸付きダートだった。糸を操作することでダートの進行方向のベクトルを変え、弧を描くように追跡することが出来る。この世界に来て成長した筋力と器用さがあって初めて使える武器だった。

 ただし欠点が無いわけではない。魔法ではないので進行方向と直角に曲がるような軌道はとることが出来ない。無理をすれば軌道は変わるかもしれないがダートの矢の部分が刺さらずに意味がなくなってしまう。

 さらに操っているのが私一人というのもネックだ。


「まあ、それは重々わかっているんですけどね!!」


 先ほどと同様に正面に二本、そして上空に次々とダートを投げていく。


「同じ手が通用するわけないでしょう。」


 アンさんは前方に走り出すと正面から来たダートを打ち払いそのまま突進してくる。

 この時を待っていた。


「ルージュ!!」

(あいあいさー)


 ルージュが土魔法を発動させ、この近辺50メートル四方が1メートルくらい陥没する。

 よし、アンさんの突進が止まった。

 もちろんこんな範囲の土魔法を使えばすぐにMPが枯渇してしまう。しかし試験をこの場所ですると決めてから少しずつ地中に空洞を開け、魔法で補強して崩落しないようにしておいたのだ。

 ルージュがしたのはその補強を崩すことだけなのでほとんどMPは使用していない。


 ここが勝負の分かれ目だ。


 石つぶてを発動させる。アンさんの背後から。


「チッ、うっとうしい。」


 すぐに気づかれ、大半は打ち払いによって弾かれ有効打にはならないが、気にせず周囲の様々な方向から石つぶてを発動させる。

 レベルの低い私にとってこんな風に遠距離から魔法を発動させるのは厳しい。しかし今回に限ってはそのデメリットはない。

 魔法の発動場所はアンさんが打ち落としたダート、正しくはそれに結び付いていたスライムの糸だ。

 魔力をよく通すこの糸なら、繋がってさえいれば遠距離発動による消費MPの増大を防ぐことが出来る。

 無駄にダートを投擲していたわけではないのだ。


「うおぉぉぉおー」


 私らしくない雄たけびを上げながら、死角から、時に正面から位置を調整し、石つぶてを発動し続ける。

 MP枯渇まであと数発・・・。

 撃ち尽くし、最後にダメージにもならないような小さな石つぶてをアンさんに向かって山なりに放つ。もう威力もスピードも出ない。


 ズサッという音が聞こえ、何の音かと思ったが自分が膝をついた音だった。


「これでおしまいのようですね。」

「ええ、これで終わりです。」


 石つぶてに紛れ、上空からダートがアンさんの側頭部をかすめ、肩に当たるのを確認できたことに満足し、そのまま意識を失った。



(あっ、タイチ。目が覚めたね。)


 ルージュの声を聞き、まどろんでいた意識が覚醒する。MP切れによる気持ち悪さは残っているが慣れたものなので気にせず起き上がる。

 少し離れたところでアンさんがお昼の準備をしていた。


「おはようございます。メイド長。」

「おはよう、タイチ。ふふっ、この場合の挨拶はおはようでいいのかしらね?」


 肩に刃が潰してあるとはいえダートが当たったはずだが、アンさんの動きには全く違和感がない。あれっ、夢じゃないよね。


「とりあえずお昼をいただきましょう。」

「はい。」


 準備を手伝いサンドイッチを二人で食べる。若干の不安もあるが、やりきったと言う思いも大きく、おいしいサンドイッチが更においしく感じた。


「試験についてですが・・・結果は合格です。」

「良かったー。」

「最後の有効打ですが、あれは2回目の最初に上空に投げたダートですね。」

「はい、糸付きのダートを1回見せただけでメイド長ならそれを見破り、そして一番有効な対応策をとってくると考えました。そこで同じことをすると見せかけて、糸のついていないダートを3本上空に投げておいたんです。あとはその最初の一手が最後の一手になるように意識を魔法に向けさせるようにし、攻撃で位置を調節しました。」


 まともに戦っても一撃も与えられるわけがないし、この作戦自体もほとんどが賭けだった。アンさんが後方に退避したり、魔法を迎撃せずに距離をとって回避するようなら失敗していた。アンさんの性格ならこうする確率が高いだろうと想定しての作戦だったが。


「この場所にも罠を仕掛けていたようですね。」

「はい、試験が決まった日から罠を作り始めました。卑怯だとは思ったのですがどうしても勝ちたかったので。」


 正々堂々と挑んで負けるなら、卑怯と言われても勝ちたい。私の尊厳などよりもジンさん達を助けに行くことの方がはるかに大切だ。


「私はそれでいいと思いますよ。現状のタイチの実力では私に有効打を与えることは非常に難しい。それこそ正々堂々勝負したのでは万に一つも勝ち目はなかったでしょう。」

「そうだと思います。」

「旅に出るならば、いつか死の危険にも直面するでしょう。そのときは例え卑怯者だと言われようとも生き残る道を探しなさい。死んでしまっては目的は果たせませんよ。」

「はい、心に刻んでおきます。」



「それでタイチはいつから旅に出るつもりですか?」

「とりあえず、ギルドやお世話になった人への挨拶、旅の準備を含めて一週間後くらいを考えています。」

「その期間を1か月に延ばすことは出来ますか?」

「どうしてですか?」

「タイチの訓練ですが、もう少し長い期間を想定して計画していたので、まだまだ教え切れていないのです。生存確率を上げるために必要な訓練をする最低限の期間が1か月ということです。」


 死んでは元も子もないからな、仕方がないか。


「わかりました。それでは後1か月よろしくお願いします。」


 こうして旅に出る日が1か月後に決まった。


 それから1か月間、あれっ、これ旅に出る前に死ぬんじゃねというアンさんの訓練を受けつつお世話になった人たちに挨拶をして回った。

 ワクコやカイとささやかなお別れパーティーをしたり、準ギルド会員の3人に泣かれて驚いたりした。朝の配達の店の人達はおいしい携帯食料を作ってくれたり、自家製のドライフルーツをくれたりした。頑固者の店の店主さんにぼそっと、また帰ってこいと言われたことは忘れないだろう。


「じゃあ、親父さん行ってきます。」

「おう、いつでも戻って来いよ。」


 この街での旅立ち前の朝食を南門の親父さんの宿でとったあとギルドへ向かう。


「おはようございます。キナさん。それではメルリスへ行ってきます。」

「了解ニャ。メルリスのギルドへ手紙を渡せば依頼は完了ニャ。もし迷宮に飽きたらここへ戻ってくるといいニャ。タイチといると退屈しないニャ。」

「わかりました。やるべきことが終わったら一度帰ってきます。それでは、また。」

「じゃあニャ。タイチ。」


 メルリスへの手紙の配達の依頼を受け、キナさんとあいさつを交わし別れる。キナさんとは図書室にいるときにいろいろ話したり、お菓子を分けあったりしていた。

 ここのギルドでうまくやれたのはキナさんのおかげだ。絶対にまた会いに来よう。


 北門へ向かう。そこにはアンさんとワクコとカイがいた。


「いままで本当にありがとうございました。」

「こちらこそ楽しかったですよ。久しぶりに運動も出来ましたし。」

「こっちこそタイチがジテンシャを教えてくれて良かったわよ。今度タイチが帰ってくるまでにはバイシクルを改良してルージュぐらいのものを作って見せるから。」

「俺も一人前のきこりになれるように頑張る。」


 一人一人と握手をしていく。最後にアンさんと握手した時に耳元でそっとつぶやかれる。


「何度も言いましたが旅をするなら殺す覚悟を持って旅をしなさい。特にあなたはこの世界の人間ではないのでしょう。杖の機能を十分に使いこなせるように訓練は忘れないようにね。」


 表情には出さなかったつもりだが完全にバレているようだ。まあアンさんならいいか。


「忠告ありがとうございました。それでは行ってきます。」


 3人に向かって精一杯手をふりながら門を出た。


(じゃあ、行こうかルージュ。)

(絶好の自転車日和だしね。)


 雲一つない空の下、ルージュにまたがり走り出す。目的地は迷宮都市メルリスだ。



 名前:タイチ

 年齢:15

 職業:冒険者

 称号:アンの後継者


 Lv:4

 HP:433/433  MP:480/495

 攻撃力:268     防御力:363

 魔力:380      賢さ:492

 素早さ:351     器用さ:412

 運:30


 ―スキル―

「アイテムボックス Lv6」「マップ Lv2」「知識 Lv2」「投擲 Lv8」「開錠 Lv6」「罠察知 Lv6」「罠作成 Lv4」「罠解除 Lv4」「魔力操作 Lv5」「杖術 Lv4」「気配察知 Lv3」「採取 Lv5」「毒耐性 Lv3」「睡眠耐性 Lv3」「麻痺耐性 Lv3」「混乱耐性 Lv3」「魅了耐性 Lv3」「石化耐性 Lv2」「恐怖耐性 Lv5」


 ルージュ Lv6

 耐久 192/210  DP:11433/14601


「土魔法 Lv4」「念話 Lv3」「変形」

試験も終わりいよいよ旅立ちです。この後3話ほど閑話を挟んで新章へ向かいます。

読んでくださりありがとうございます。

そろそろ自転車始めたくなりませんか。(久しぶり)

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RINの外伝の小説を書いています。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。 「お仕事ですよ、メイド様!!」(飛びます) 少しでも気になった方は読んでみてください。
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