試験開始!!
(いやー、絶好の試験日和だね。)
確かに快晴で空には雲一つない。雨などの不確定な要素が無いため、作戦通りにいく確率も高くなるのでいいことだろう。
(ルージュは気楽だね。)
(まあ順当にいけば、勝てるはずがないんだから緊張してもしょうがないでしょ。)
(でも、それをひっくり返す必要があるからね。ルージュも頼むよ。)
(りょーかーい。)
さあ、何とかしてみようか。
朝食を食べた後、アンさんと一緒に街の外へ出て、試験の場所まで案内する。
試験の時くらいは服装を替えるかと思ったのだが、アンさんは相変わらずのメイド服だ。変わったことと言えば、いつも訓練で使っていた木の杖ではなく、金属製の杖を持っていることぐらいか。
「あらっ、見晴らしのいい場所ね。お弁当も持ってきましたから後でピクニックでもしましょう。」
「はい、それまでに終わらせて見せます。」
「別に夜まででも構いませんよ。」
アンさんが薄く笑う。冗談ではなく、そんなことは出来ないという自信の表れだ。
アンさんには戦うときに笑う癖がある。おそらく本人は隠しているのだろうし、他人から見たらわからない程度のものだ。でも何度も叩きのめされてきた私にはわかる。
笑う理由はわからないが、その余裕を失くさせてもらいます。
「それでは、試験を開始します。」
「よろしくお願いいたします。」
頭を下げずに答える。以前、頭を下げたところ杖で殴られ気絶させられた。相手から目を離すなんてとんでもないとのことだ。
アンさんはいつも通りの体を半身にし、杖を中心に構えた基本の体勢だ。防御にも攻撃にも一瞬でうつることが出来る隙のない構えだ。
杖は「突けば槍、払えば薙刀、持たば太刀 杖はかくにも外れざりけり」というように攻撃手段の応用が利く万能武器だ。刃がないため殺傷能力が低いがそれが利点でもある。
「動かないようでしたらこちらから行きますが・・・いいのですか?」
ブオン、というアンさんが杖を払った風切り音が響く。
そうだな、待っていても勝てるはずが無い。攻撃あるのみ。
「行きます。」
手に持ったダートを投擲する。左は遅く、右は速いスピードだ。まずは、アンさんの体勢を崩すことが第一優先。
アンさんはその場から全く動かず杖を払うだけでダートを打ち落とす。それを確認せずにアンさんの周りを時計回りに走りながらダートを投げ続ける。
すべてのダートは杖によって弾かれるか避けられていた。
「これで終わりではないでしょう?」
「もちろん、まだまだです。」
これは準備運動みたいなものだ。アンさんもそれがわかっているのにいちいち挑発してくるからな。
ダートを山なりに数本放り投げると、アイテムボックスから杖を取り出し、急に進行方向を変えアンさんに向かって走り出す。
私に対応すればダートが当たるし、ダートに対応すれば一撃を与える隙が出来る。
狙いは突きだ。速く、攻撃面が相手からは点になるので防ぎにくい。
あと一歩で攻撃範囲というところで猛烈に嫌な予感がし、6割程度の力で突きを行い、すぐに全力で横に飛んで転がる。
ブオンっという音とともに、目の前を何かが通り過ぎていった。
「あらあら、外れてしまいましたか。」
アンさんがおかしそうに笑う。
私の突きに対して、自分も同じように突きを行い私の杖を吹き飛ばした。そしてその反動を利用して杖を回転させ、上からのダートを打ち払い、そのまま私の頭めがけて打ち下ろしたのだ。
「人間業じゃないですよ、メイド長。」
「努力すれば誰でも出来ますよ。タイチもいい判断でした。訓練の成果ですね。」
いつものお決まりのセリフだ。真理かもしれないがそこまでたどり着ける人はそうそういない。
会話で息を整えつつ、やはり正攻法では無理かとあきらめる。
そもそもそんなに簡単にいくとは全く思っていない。
予備の杖をアイテムボックスから取り出し、アンさんと同じ体勢で構える。
打ちかかると見せかけて、足先で土魔法を発動させる。
(囲め!!)
私の足元からアンさんの足元までの地面の地下1メートルくらいのところの土を、地面と平行に横1メートルくらい、そしてその端から地上に向かう部分をコーティングし四角柱を作る。
即座にその地面をアイテムボックスに収納し足場を崩す。
「なっ・・・」
初めてアンさんの余裕が崩れた。普通に土魔法でこんな風にへこませれば、かなりのMPを消費してしまう。Lvの低い私では連発は出来ない。
ただこの方法なら、薄くコーティングしているだけなのでMPはあまり使わないし、アイテムボックスへの収納は1しか消費しない。連発も可能だ。
すかさず駆け寄り突きを放つ。しかし片手でその突きをいなされ、すぐに陥没した地面を蹴って戻ってきた。
「少し驚きました。面白い使い方をしますね。」
「いえ、まだまだです。」
慣れないうちになんとかしたい。慣れてしまえば対策の立てようもある。
太刀のように上段に構える。そのまま杖を振り下ろすと見せかけて先ほど収納した地面をアンさんが巻き込まれるよう、掲げた手の高さから取り出す。
「ちっ」
杖を地面にぶつけ、その反動と自身の力を使って大きく横によけるアンさん。
杖を離し、アイテムボックスから取り出したダートを自身の最高の力で投擲する。それが避けられることを想定して左右にも投擲を続ける。土煙が立ち上り状況はよく見えないがそのまま投げ続ける。
「やったか?」
言わずにはいられないフラグを立てる。土煙が晴れた後にいたのは、微妙にすすけているがやはり無傷のアンさんだった。
「あらあら服が汚れてしまいました。なぜこんな不意打ちのような攻撃ばかりなんでしょうね。」
「師匠がいいからだと思います。」
皮肉には皮肉で返しておこう。
「これだけおもてなしいただきましたので、そろそろこちらからもお返ししなくてはいけませんね。」
「いえいえ、お気持ちだけで結構です。」
「メイドは奉仕するものですから、ご遠慮なさらず。」
言うが早いか構えたまま突っ込んでくる。まずいな、接近戦は分が悪い。数合なら打ちあえるがいつかは負ける。
(出ろ)
厚さが1センチほどの土壁を目前に出し、全力で後ろに飛ぶ。目くらましとちょっとの時間稼ぎだ。
このくらいの壁、アンさんなら・・・
ドスッという音とともに土壁が砕け、そのままアンさんが突っ込んでくる。
すぐにダートを投擲するが当然のように防がれる。
攻撃を考えず全力で防御を行う。
突きを避け、そこから軌道を変化させて払われた杖をこちらの杖で受け流す。上段に上がった杖がそこから打ち下ろされる。なんとか両手で杖を持ちそれを防ぐ。
耐えたその一瞬の硬直が隙になった。アンさんの蹴りがまともに腹に入り数メートル吹っ飛ばされ、土の上を転がる。
痛くて、吐きそうで、転げまわりたいがそんなことを待ってくれるようなアンさんではない。
追い打ちをかけようとこちらに向かってくるアンさんに対応するため自分の真下から土壁を発動する。
土壁に弾かれながらもアンさんと距離をとることが出来た。
「本当に面白い魔法の使い方をしますね。」
「げほっ、げほっ、こんな使い方はしたくないんですがね。」
呼吸を落ち着ける。蹴りと土壁によるダメージはあるが、なんとか我慢できそうだ。
しかしこれ以上戦い続けてダメージが蓄積していくと作戦が出来なくなる。
仕方がない、そろそろ秘密兵器を投入しますか。
自分の戦いのイメージを言葉にするのがとても難しいです。
すんなりかける人がうらやましいです。
読んでくださってありがとうございます。




