手紙
本日二話目です。
マップのレベルが上がったことで、マップにメモを貼り付けることが出来るようになった。
使い方としては
1、マップの任意の点を選択。
2、頭のなかで考えたことがメモとして残る。
3、マップで再度表示した時に黄色の点があるのでそこを選択するとメモが見られる。
といった感じだ。初めての街とかなら便利なんだろうがイーリスは滞在が長いので街の中で使う必要性がない。仕方がないので南部の森で珍しい素材があったところにメモを残すようにしている。
この機能が増えてからアンさんに渡す毒草などの量が増えたためか、私の耐性レベルが軒並み上がったのはいい思い出だ。
あれから4か月ほどたったが冒険者のランクは上がっていない。
なんでも8級に上がるためには魔物を討伐することが必須らしく、マップがあるので魔物と戦わない私では自分から戦いに行かないとランクが上がらない。
特に上げる必要も感じなかったのでそのままだ。
ワクコはバイシクルの開発を続け商品化したが、乗るのに練習が必要なため一部の人にしか売れなかった。
逆に3輪の大きなかごを付けた三輪自転車については楽に多くの荷物を運べるとしてマジックバックを持っていない店などで重宝されるようになったらしい。
ちょっと不満そうだったが、生活が便利になっていることは確かなのでワクコは複雑そうだ。今は補助輪つきのバイシクルを販売して、なんとか広めようとしているようだ。
カイは相変わらずだが、後輩が出来たらしく自分がよりしっかりしなくてはと張り切っているようだ。ご飯当番から外れたのが地味に嬉しかったらしい。手伝いはしているそうだが。
訓練はアンさんとの杖術の訓練が増えたり、森に放り込まれてサバイバルになったりと午前中も使って訓練することが増えた。
なんとかルージュと走る時間を作っているがたまに不満そうにしているので整備だけでもしっかりやっている。相棒は大切にしないとな。
この世界に来て9か月目だ。そしてジンさん達については未だに何の情報も無い。
さすがに何かあったとしか思えないが、アンさんが行動を起こすことは無かった。
「あっ、タイチ。アンさんあてに手紙が届いているからついでに届けてほしいニャ。」
「依頼ですか?」
「そんなわけないニャ。」
「冗談ですって。」
薬草の納品に来た私にキナさんが手紙を渡してきた。
差出人はトロワ。誰だろう、アンさんの昔の知り合いだろうか?
そんなことを考えながら屋敷へ向かった。
「アンさん。ギルドに手紙が届いたそうですよ。」
「あら、誰からかしら?」
「トロワと言う人ですね。」
「まあまあ、ちょっと見せてくれる。」
アンさんは封筒の蜜蝋を取ると手紙を読みだす。しばらくして顔を上げた。
「タイチも読んでみなさい。」
「いいんですか?」
「はい、どうぞ。」
――
久しぶりね、アン。
昔は彼を陰から見ているだけだったのに、一緒に辺境に行くとは思わなかったわ。もうぼうやでも居るのかしら。
まだきもちの整理はついていないけれど、これからまた手紙をやりとりできればありがたいわ。
喧嘩したことが無い事があなた達の自慢だったわね。またのろけ話でも聞かせて頂戴。
そういえば最後に会った時にあなた達を探るようなことをしてしまってすまなかったわね。
水に流してくれると嬉しいわ。
それでは、またいつか手紙を書くわね。
あなたの親友 トロワ
――
「アンさんの親友からの旧交を温める手紙ですか?」
「いえ、私にトロワと言う友人はいませんし、手紙のような男性もいません。」
どういうことだ。手紙は確かにアンさん宛てだ。しかし内容、差出人ともにでたらめのようだ。
あれっ、アンさんそれがわかったうえで私に手紙を見せたよな。ということは
「これは何かしら、内容とは別の意図を持った手紙ということですね。」
「正解。何を伝えたいかタイチにはわかるかしら。」
暗号と言うことか。代表的なものから考えていくか。
縦読み、ななめ読みは違うな、意味が通らない。
漢字とひらがなによるモールスも違うな。
なにかおかしな点は無いか?そういえばなんで「水に流してくれると嬉しいわ。」だけ行間が少し離れているんだ?
「アンさん、ちょっと試してみてもいいですか?」
「どうぞ、ご自由に。」
手紙を書きうつした後、アイテムボックスから水の入った瓶を取り出し、本物の手紙をその水の中につける。
思った通りインクが溶け出し、一部の文字だけが残った。
――
久しぶり
陰 ぼう
ま き こ ま れ た
無 事 だ
探 す な
それでは、また
――
「これはジンさん達の手紙です!!」
「そのようですね、これまで手紙さえ出せなかったことを考えると厄介な状況になっているようです。」
「助けに行かないんですか、アンさんなら助けられるはずですよね。」
「かもしれません。しかしこれは彼らの問題です。冒険者なら自分の責任は自分で取るものです。」
思わず言い返したくなるが、アンさんの表情を見てやめる。多分他の人から見たら普通の顔をしていると思われるだろうけれど、8か月以上一緒に暮らした私にはアンさんがとても悲しみ、怒っていることがわかる。
私よりも多くの時間をジンさん達と過ごしてきたのだ。当たり前だ。
しかしアンさんの生き方として助けに行くことは出来ないのだろう。
ならば私が取るべき道は一つしかない。
「アンさん、折り入ってお願いがあります。そろそろ修行を終え旅に出たいと思います。」
「ジンたちを助けたいと思っているのならやめなさい。探すなということは探すだけで危険があるということです。」
「わかっています。私は前からの希望通り旅をしたいと思っているだけです。ジンさん達は関係ありません。」
「決意は揺るがないのですね。」
「はい。旅の途中で誰かを助けるかもしれませんが、冒険者ならば当たり前のことをするだけですから。」
「そうですか。」
しばらくの沈黙があった後、アンさんは顔を上げ私の目をしっかり見た。
「それでは、旅立つ条件として卒業試験を受けてもらいます。」
「どんな試験なんですか?」
「内容は簡単。私に何でもいいので有効打を一撃当てなさい。それすらも出来ないようであれば旅に出てもすぐに死んでしまうでしょう。」
「わかりました。日程はどうしますか?」
「タイチの好きな日にちでいいですよ。期限もありませんし、何回でも大丈夫です。」
「わかりました。それでは一週間後にお願いします。」
私が当初思い描いていたお気楽な旅ではなくなってしまったようだが、ジンさん達に救われたこの命、恩返しをせねば人でなしになってしまう。
さて、それではアンさんに一撃を当てる方法を考えなくては。
今までアンさんに出された課題の中で一番大変な課題になりそうだ。
いよいよ旅に出るための卒業試験です。
本格的な戦闘は次回が初なんですよね。緊張します。
読んでいただいてありがとうございます。




