証明と可能性
投稿時間を8時にしてみました。
なるべく守りたいものです。
「お待たせしましたー。」
5分ぐらい経っただろうか後輩さんが帰ってきた。
「はい、緑茶とお茶請けのどら焼きです。ちなみにこのどら焼きはこだわりの逸品らしいですよー。」
「ありがとうございます。いただきます。」
思考が停滞気味であったのでこの差し入れはありがたい。
一口食べてみると確かにいつも食べているどら焼きとは餡が違う。ただ甘いのではなく、コクというのかうまみというのか深い味になっている。
「このどら焼きおいしいですね。どこの店のものなんですか?」
「いやー、私知らないんですよ。先輩のお菓子箱からちょっとパクってきましたから。自慢してましたからおいしいだろうって前から狙ってたんです。」
不穏なことをいいながら後輩さんはパクパクとどら焼きをほおばっていく。
「いいんですか?また怒られません?」
「いいんです。女性の顔を握りつぶす人への仕返しです。」
まあ、私が盗ったわけではないから大丈夫だろうと半ば考えを放棄し、おいしいどら焼きをほおばる至福の時間を堪能した。
「それで考えはまとまりましたか?」
一息ついた後輩さんが改めて尋ねてきた。
「現在の情報だけでは聞いた話が正しいのか判断が付きません。証拠があれば出してほしいということと、もし本当だった場合私と同じケースはあったのか、あった場合はその時はどうなったのかを教えてください。」
「証拠ですかー。そうですねー。はいっ。」
そんな軽い掛け声とともに後輩さんは窓口に並んでいたような光に変身する。
「どうです、これで信じられます?」
光から声が聞こえる。確かに後輩さんの声だ。目の前の信じられない光景に常識が崩されていく。
「はいっ、一応魂の状態にもこんな風に戻れるんですが業務の効率上こっちの方がいいんですよねー。」
人間の姿に戻りしみじみと言っている様子をずっと見ていたがトリックであったようには見えない。自分の目で見たものしか信じないという人がいるが、それは見たものは信じるということだ。私は自分の目で見たものでもそれが正しいとは限らないと思っているが、今回についてはいくらなんでもありえない。
「わかりました。とりあえず自分の常識の範囲外の状況であるみたいです。」
「ありがとうございます。最初からこうしておけば良かったですねー。」
「いまだに信じられませんがね。それで今までに私と同じケースの方は?」
「私も新人ですから実際に会ってはいないんですが、この支部で400年以上前に太一さんと同じように 来る予定のない方が来たことがあったらしいですよ。」
「400年以上前ですか!!」
「なんか先輩がこの部署に異動させられた原因らしいです。先輩、元は技術部の開発員で魂の通行用の道の開発、設置をしていたんです。当時の上司の方針が「なんか成仏っぽい感じでありがたそうなやつ」だったので、お寺の仏像の上の天井の板の中に隠れるように設置したんですが、その方が仏像を足蹴にして天井を突き破って来ちゃったらしいです。罰当たりですねー。」
いやいや、罰当たりうんぬんの前にその上司を何とかした方がいいと思う。指示が適当すぎるしその部下だった先輩さんもかわいそうだな。
「お酒飲むと先輩その話をよくして、その上司に対して「し・・」、ぶへっ」
いつの間にか来ていた先輩さんが後輩さんの顔を書類の束ではたく。あの束、5センチはあるぞ。
「なにするんですかー。鼻がつぶれたらどうしてくれるんですか?」
「なに勝手に俺の話をしているんだ。」
「いいじゃないですか、減るもんじゃありませんし。」
「個人的に減らしてやろうか、お前の身長とかな・・・」
頭にこぶしを乗せぐりぐりとしながら先輩さんは笑っている。確かに自分の過去話を話されるのはこっぱずかしいしな。
「痛い、いたいですー。減らすなら身長じゃなくて体重にしてくださいー。」
「そんなわけないだろ。っていうかこれ俺のどら焼きじゃねえか。」
「先輩のお菓子箱に落ちてたんで拾ってきました。」
「それは盗んだっていうんだ。罪人には死だな。」
「えっ、またまたそんなー。キャー・・・、ふべっ」
おおっと先輩さん、後輩さんの後ろにすばやく回り込むと腰に手を回しバックドロップの体勢だー、いや、これはバックドロップではない。なんとそのまま放り投げたー。後輩さん壁にぶつかったまま動かない、動けない。このまま終わってしまうのかー、1、2、3 カンカンカン 放り投げ式バックドロップで先輩さんの勝利です。
思わず心の中で実況してしまった。やはり先輩さん体育会系だな。素晴らしい動きだ。
とりあえず後輩さんには合掌しておこう。ちーん。
「すまんな、太一さん。だいぶお待たせした。」
「いえいえ、こちらこそどら焼きをいただいてしまい申し訳ありません。」
「いやっ、太一さんに責任はない。この責任はそこで伸びている奴に取らせるから気にしないでくれ。」
えっ、この状況は責任取ったわけじゃないんだ。後輩さんにもう一度合掌しておこう。
「ところでどこまで話が済んでいるんだ?」
「とりあえず、この場所の役割、あなたたちの存在、過去の事例といったところですね。」
「納得できたのか?」
「すべてではありませんが、ある程度は信じてもいいかと。」
「めずらしいな、普通ならもっと疑うなり、取り乱すなりすると思うが。」
「彼女が光に変わるのを目の前で見ましたし、私の常識の範囲の話ではないなと。それに同居人に同じような話を聞いていましたし。まぁ、それは想像の産物ですが。」
「そうか、ありがたい。前回は理解させるのにかなり苦労したらしいからな。」
面倒くさいことにならずにちょっとほっとした様子だ。でも私は彼に聞かねばならないことがある。
「聞きたいことがあります。」
「なんだ、というか半ば予想はついているが。」
「私は元の世界に帰ることができますか?」
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