販売戦略
「えっと、本当にやるの?」
「もちろん」
「どうしても?」
「どうしてもです。」
「わかったわよ、やるわよ。やればいいんでしょ!!」
完成したホビーホースMk7、面倒くさいからホビーホースでいいか、に乗る練習をワクコにした後、町の中心街をワクコにホビーホースに乗って移動してもらうようにしたのだ。
子供みたいだから嫌だというワクコに、自転車の開発には絶対に必要とこんこんと説明し、何とか納得してもらったのだが、ここにきて決意が揺らいだらしい。
「では、ワクコ、ゴー。なるべく楽しそうにね。」
「わかってるわよ!!」
今回の狙いは子供だ。この街は辺境であるからか明らかに遊びが少ない。街も防衛を最優先に作られているので公園のような遊具のある場所と言うものがないのだ。
そこで、この街の特徴である真っ直ぐな道を利用して遊べるホビーホースをアピールすれば、おそらく遊びに飢えているであろう子供たちの間で流行すると踏んだのだ。
ワクコがホビーホースで大通りを走っていく。
おぉ、目立ってる、目立ってる。改造したホビーホースは頑張れば時速10キロくらい出るので、なかなかの速さだからな。
ワクコ、笑顔が引きつってる。もっと楽しそうに、ほらそこの女の子に手を振るんだ。
うーん、注目はされていて、ついて行っている子供もいるんだけれどなかなか話しかけられないな。何かきっかけがあるといいんだけれど。
あっ、ワクコが転んだ。ちょっと涙目になってる。本当に子供にしか見えないな。
「大丈夫か、ほれっ、手をだしな。」
白髪の犬耳の少年がワクコに手を差し伸べる。
「ありがとう。」
「怪我はないか?」
首を振るワクコ。少年と並ぶと本当に少女にしか見えない。さすが合法ロリ。ただしあと数年が期限らしいけれど。
「そっか、ならよかった。そういえばなんだその乗り物、見たこと無いけれど。」
「ホビーホースって言ってこうやって手で持ってから蹴って進むの。」
「へえ、面白そうだな、やってみてもいいか?」
「いいよ。」
少年がワクコからホビーホースを借り、遊び始める。周りの子供たちも集まってきたようだ。
「おー、意外と速いな。しかも両足離すと勝手に進むし。」
「僕も、僕もやりたい。」
「次わたしー。」
「なんだよ、横入りすんなよ。」
いい感じに子供に受けているな。喧嘩が起きないように注意しながら状況を見守るか。
「ありがとな、他の奴らにも貸してもいいか?」
「うん、いいよ。」
わあっという歓声と共に子供たちが順番にホビーホースに乗っていく。うまく乗れない子もいたが、年長の子が手助けして押してあげたりすることで楽しんでいるようだ。
「これっていくらで売ってるんだ?」
「大銅貨5枚だよ。この先の角の道具屋で明後日から売られる予定なんだ。」
「ちょっと高いけど、買えなくもないな。」
値段はワクコと二人で相談して決めた。
原価としてはサーラちゃんにも手伝ってもらって、ケイルさんから1台あたり大体大銅貨2枚で仕入れることに成功した。ちょっと渋っていたが、孫の「おじいちゃん、お願い。」攻撃には勝てなかったようだ。その代わりにホビーホースの製品版第一号を無償提供することになった。
あとはワクコの手間と店の利益分だが、ワクコ自身もホビーホースで儲けようとは思っていなかったので、子供でも手が出るようにと言うことでこの値段になった。
子供たちが一通り遊び終わった後、このホビーホースを道具屋に置いておくので店の人に言えば遊べることをワクコが伝えると再び歓声が起きた。まだ遊び足りなかったみたいだ。
道具屋にホビーホースを置いて、道具屋の主人に、契約通りもし乗りたいという人が来たら試乗させるように伝えると、早速子供たちが殺到していた。
「ワクコちゃん、大人気でしたね。」
「誰がワクコちゃんよ!!子供みたいに演技するの疲れたわ。同族に見られたら赤っ恥よ。」
20代までのドワーフは普通の人には子供にしか見えないが、同族にはだいたいの年齢がわかってしまうらしい。同族から見たら20代中盤の女が子供のフリをして遊んでいるイタイ状況だそうだ。
「お疲れ様、でも今日の様子を見ると人気は出そうだね。」
「これで出なかったら疲れ損よ。」
頑張ってくれたワクコに以前買った果物ジュースを渡し、労っておいた。
数日後、ワクコの工房には大量の注文依頼が来たらしい。さすがにワクコだけでは作りきれないので他の工房に通常の制作を委託したそうだ。
想定外だったのは、珍しい物好きの貴族から豪勢なホビーホースの注文が相次いだことだ。今回売り出したホビーホースは作成の手間を考えて塗装もせず、かなり簡易的な作りの馬を彫っていた。それをより芸術的にしたいらしい。
この原因は、例の大人の木馬が趣味の貴族がワクコの工房でホビーホースを見て、子供へお土産として買って行ったものが貴族のネットワークを通じて広がったらしい。というか子供がいたのか、そいつ。
「結局、ジテンシャの研究が出来ないじゃない!!」
「まあ、しばらくすれば落ち着くと思うから頑張れ。」
「本末転倒もいいところじゃない!!」
訓練中にやってきたワクコの相手をしながらダートを投擲する。よしっ、命中。
他のことをしながらでもだんだん当てられるようになってきたな。
「でも儲かっているんだろ。貴族なら値段はある程度つけ放題だろうし。」
「確かにね。」
「じゃあ、自転車を研究する元手を稼いでいる期間と考えるしかないんじゃない?」
うーん、やはり利き腕でない左手の精度が低いな。ちょっと投げ方を変えてみるか?
「タイチなんて作りもせずに儲かってるじゃない!!」
「まあ、それは発明者だからね。材料も安く仕入れられたでしょ。」
そうなのだ、利益分の1割を販売店が、6割をワクコが、3割を私がもらえるように契約している。まあ、普通のホビーホースはワクコが委託しているからワクコ自身も6割はもらっていないと思うけれど。
そんなわけで私はちょっとした小金持ちになりそうだ。
「まあまあ、また今度食事でもおごるから。」
「アンさんの方がおいしいじゃない!!」
仕事ばっかりしているとピリピリしてきていけないね。
おっ、左で命中。ちょっとこの投げ方を試してみるか?
ワクコの愚痴を流しながら訓練を進めていくのであった。
この世界に来て2か月経過した。ジンさん達はいまだに帰ってきていない。
ワクコは未だに特注のホビーホースの制作をしているらしい。貴族の間で話題になってこの街以外の貴族への贈り物としての需要が出てきてしまったらしい。
最近はほぼ毎日屋敷に来て、私の訓練の邪魔をしない程度に愚痴を言うのが習慣となっているみたいだ。アンさんが喜んでお茶の用意などをしているから気分転換になるのだろう。
私と言えば、ホビーホースの売り上げによってかなりの現金を受け取った。ワクコに計算が間違っていないかと何度も確認しすぎてちょっと叩かれた。
貴族への売り上げが結構な儲けになっているらしい。
お金持ちになったからと言って生活を変えるつもりはないので、今日も今日とて早朝ギルドで依頼を受けようとした。
「タイチ君、ちょっと相談があるんだけれど。」
いつもの男性職員が話しかけてきた。
「朝の配達を週3日に減らしてくれないか?」
いやぁ、チートがでましたね。うーん、チートか?
読んでいただいてありがとうございます。




