再会
ブックマーク10人、初評価、ユニーク500といろいろな記念の投稿です。
本日二話目なので、ご注意下さい。
ジンさん達が迷宮都市に行ってから一か月半が過ぎた。
予定では一か月のはずだったので大丈夫なのかとアンさんに尋ねてみたが
「冒険者とはそういうものです。依頼が延びているのかもしれませんし、死んでしまったのかもしれません。わからないものを心配しても仕方がないでしょう。」
と言われてしまった。冷たいような気もしたが、それだけ死が身近に存在するということだとアンさんのちょっと悲しそうな目を見てわかった。
今日も今日とて早朝の仕事を終え、食事をとった後にいつも通りギルドの図書室へやってきた。
ここにある本もほとんど読みつくしてしまい、あと数日で終わるだろう。今後の過ごし方を考えなくてはいけないな。
黙々と本を読んでいると、いつものようにキナさんがやってきた。
「また休憩ですか、キナさん。」
「違うニャ。お客さんが来ているから降りてくるニャ。」
「お客さんですか?誰ですか?」
「えっと、名前は忘れたけれどタイチくらいの男の子ニャ。」
私ぐらいの男の子の知り合い。誰かいたかな。こっちに来てから配達とギルドの図書室と訓練くらいしかしていないから知り合い少ないんだよな。
違うよ、友達が出来ないわけじゃないんだ。生き残るのに必死だから仕方ないんだ。
誰のためだかわからない言い訳を必死で考えながら階段を下りる。
「よぉ、タイチ」
「あれ、カイじゃないか。久しぶりだね。」
そこにはケイルさんのところで、きこり見習いをしているカイの姿があった。
「ギルドなんかに来てどうしたんだい?」
「タイチが午前はギルドの図書室にいると聞いていたから会いに来た。」
「そうなんだ、仕事はお休み?」
「一週間休みだ。」
「そっか、会いに来てくれて嬉しいよ。どこかで一緒に昼ごはんでも食べる?」
「そうだな。」
相変わらず言葉は少ないが、嫌じゃない。何となく、それがカイにとって普通のことであり自然な対応だとわかるからだ。
「一度私が住んでいる屋敷に寄ってからでもいい?メイド長が昼ご飯を作っているかもしれないから。」
「別にいいが、大丈夫なのか?」
どういう意味の大丈夫かな?屋敷で昼ご飯を食べなくていいのか、カイが屋敷にいってもいいのか。まあどちらにしても大丈夫だろう。
「いいと思うよ。アンさんはとてもいい人だし。」
カイと連れ立っていつもより早めに家に戻った。
「あらあら、タイチがお友達を連れてくるなんて初めてね。私の名前はアンよ。よろしくお願いね。」
「カイです。お願いします、アンさん。」
「前話した、手紙の依頼の時に知り合ったんです。お昼を一緒に食べてきてもいいですか?」
「もしよかったらここで食べていきなさい。一人分くらいはすぐだから。」
カイが私の方を見たので、大丈夫と頷いておく。
「ありがとうございます。お願いします。」
「じゃあ、ご案内しますね。」
嬉しそうなアンさんに連れられて三人で食堂へ向かった。
「おいしい。」
「あらっ、嬉しいわ。お口に合ったようで何よりね。」
カイが料理をがっつくように食べ始めた。
「カイ、ご飯は逃げないから味わって食べたほうがいいよ。」
「うっ、そうだな。」
カイがゆっくりと味わって食べ始める。
カイがそうやって食べてしまう気持ちもわかる。アンさんの料理はとてもおいしいのだ。私も朝食をいろいろとローテーションで食べているが、アンさん以上の料理は無かった。
店の料理はレパートリーも少なく、同じような料理が多いのだが、アンさんの料理はレパートリーが多く、一か月は同じメニューが出ることは無かった。
アンさんはこの国の出身ではないかもしれないな。
「それで、カイは私に何か用事があったの?」
「あぁ、おやっさんから斧をもらえることになったから一緒に行こうと思ってな。」
詳しく聞いてみると、斧をもらうということは見習いを卒業し、きこりとして扱うという証となるものらしい。その受け取りのために鍛冶屋に行くので、いろいろなことを知りたいと言っていた私を誘ってくれたらしい。
「見習い卒業なんてすごいじゃないか、カイ。あと誘ってくれてありがとう、嬉しいよ。」
「別にいい。」
表情にはあまり出さないようにしているつもりだろうがとても嬉しそうだ。カイはケイルさんのことを尊敬しているみたいだし。
でも、午後から訓練があるんだよな。どうしようか?
「今日の訓練は帰ってからでいいですよ。」
「えっ、本当ですか?ありがとうございます。」
「鍛冶の現場を見に行くのも勉強になりますし、いい経験です。」
アンさんの了解も得たことだし、早速向かうことにしよう。
「それで何と言う店なんだい?」
「いや、店じゃなくて直接鍛冶師のところへ行くように言われている。」
屋敷を出た後、カイが地図を見ながら答える。
「こっちだ。」
カイと一緒に歩きながら、私が帰ってからの話を聞く。
ちなみにケイルさんが戻ってきた後、孫の話を永遠とするのでちょっと大変だったそうだ。先輩たちは皆逃げてしまうのでほとんどカイが聞いていたらしい。
「多分、俺は今、家族以外でおやっさんの孫について一番詳しいと思う。」
「大変だったね。」
カイを慰めながら30分ほど歩くと、煙突が林立している地区に着いた。
「えっと、ここだな。すみません、ケイルの弟子のカイです。斧を受け取りに来ました。」
「ちょっと今、手が離せないの。奥の工房まで来て。」
あれ、この声は二、三日前に聞いた気がするな。その声の指示に従い、奥へ進んでいくカイを追いながらそう思った。
工房へ着くとやはりワクコが仕事をしているところだった。細かい模様の彫られた木製の椅子の様だ。他にも同じものが三脚あるから四脚セットなのかもしれない。
「カイです。」
「あぁ、ケイルさんの所のね。斧はそこに掛かっているのよ。」
壁に掛けられた斧は、バトルアックスのようなものではなく純粋に木を切り倒すために作られており、持ちやすいように曲線的な木製の柄になっている。
斧の良し悪しなどあまりわからないが、この斧が丁寧に作られたものだとわかる一品だ。
「お金を置いておきます。」
「毎度あり、ケイルさんに良く言っておいて・・・。ってタイチなんでいるのよ。」
「カイの付き添いと鍛冶の仕事の勉強かな。」
「知り合いなのか?」
「ちょっとね。」
いきさつを最初から話すと面倒くさいので適当にはぐらかす。
「というより、鍛冶してなかったですね。」
「ドワーフがいつも鉄とかばかり叩いていると思ったら大間違いよ。特に私の場合は木を使うことが多いしね。」
確かに武器ではなく日常生活の道具を作るなら、木の需要が多いかもしれないな。椅子に彫られている彫刻もすばらしいものだし。
「それはそうと、今日は斧の引き渡しが終わったら屋敷に向かうつもりだったのよ。別にいつでもいいのよね。」
「アンさんには了解をもらっているので大丈夫です。私は訓練があるので相手が出来ませんが。」
「いいわよ、別に。勝手に見るから。」
興味を持ったことには本当にまっすぐだな。もう少し周りに気を使ってほしい気がするが。
「カイはどうする。」
「屋敷に薪があれば試してみたい。」
「たしか裏庭にあったと思うから聞いてみるよ。」
「わかった。」
鍛冶を見ることは出来なかったが、ワクコが木工も出来ることがわかったのは大きな収穫だ。これならルージュと相談した計画が実行に移せそうだ。
「そういえば、店はいいの?」
「別にいいのよ、本当に私が必要なら明日も来るでしょ。」
他に人もいないので完全に工房を閉めてしまったワクコを心配して声をかけたのだが、全く気にしていないようだ。
行きは二人で来た道を、三人で戻りながら屋敷へ向かった。
読んでいただきありがとうございます。
次回、いよいよ自転車づくり開始です。




