変わり者
ブックマークがいよいよ9人まで増えました。
ありがとうございます。後一人で記念投稿ですので近いうちに二話投稿出来るといいなー。
「お断りします。それでは。」
即座に返事をして帰ろうとする。しかしワクコさんが捕まえてきて帰れない。
「なんで帰ろうとするのよ!!話ぐらい聞いてくれてもいいじゃない。」
「いや、人が大切にしているものを分解させてほしいって言われたら普通断りますよね。たとえばワクコーリアルさんが作った大切なものを興味があるから分解させてほしいって言われたらどうしますか?」
「そんなもん、断るわよ。」
「と、言うわけですので、さようなら。」
「待ってよー、せめて少しだけ、ちょっと、ちょっとだけだからー。」
引きはがそうとするが、どうしても見た目が少女であるため強引にいくことが出来ない。少女に腰のあたりに抱きつかれながら叫ばれる。日本なら、おまわりさんこいつです、って言われても仕方がない状況だ。
「だから静かにしろって言ってるだろうが!ワクコ、興味があるものに迷惑も考えず突っ走る癖を直せと言ったはずだよな。」
「はい・・・。」
「すまんな、タイチ。こいつも悪気があるわけじゃないんだ。こいつはなぜかドワーフなのに武器とか防具を作るのに興味がない変わり者でな、包丁とかの魔物と戦うための道具でないものを作っているんだ。腕はいいんだがな。」
「だって武器なんて一部の人間しか使わないじゃない。そんなものは他のドワーフに作らせるなりすればいいのよ。私は普通の人が普通に使えるものをより良くして、皆が楽しく暮らせるようにしたいのよ。」
考え方は素晴らしいけれど、行動が問題だな。でも親父さんのフォローがあって助かった。危うくドワーフが皆、ワクコさんのような感じなのかと誤認識するところだった。
「それで自転車に興味を持ったということですか?」
「ジテンシャって言うのね。魔石も馬も使わない移動手段なら皆が使えるようになるはずよ。」
胸を張るワクコさんを見つつ、頭の中でメリット、デメリットを考える。
(ルージュ、聞こえる?)
(聞こえるよ、何かあった?)
(自転車を作りたいっていう人がいるんだ。メリットとしては自転車がルージュしかいないっていう希少性が薄れるから狙われる心配が減ること、デメリットとしてはその人がルージュを分解したいって言ってることかな。どう思う?)
(自転車が増えるのはいいと思うけれど、分解は嫌だなぁ。)
(わかった、分解しない方向で話をまとめてみる。)
ルージュとの念話を終え、考えている振りをやめる。
相互で念話が可能だとわかってから、人前でルージュと話すときはこの方法に切り替えたのだ。
「条件があります。まず、分解については許可できません。専用の道具が必要ですし、大切なものですので。その代わりに触ったり、観察してもらっても構いません。内部の構造についてはある程度、私が知っていますので知りうる範囲でお答えします。これ以上を望まれるのでしたらお断りします。」
「わかったわ。その条件でいい。」
「いいのかタイチ、そんなに簡単に信用して。お前にとってはメリットが無いような気がするが。」
「親父さんの知り合いですから。それに親父さんが気にかけている相手なら信用できるかなと思いまして。」
親父さんがちょっと照れている。こわもての人が照れても可愛くないな。いつかギャップ萌えというものが私にもわかるようになるのだろうか。
「こいつは変人で、たまにうっとうしいが、腕は確かだし信頼は置ける。まあ鍛冶以外はからっきしだがな。」
「私は変人じゃないわよ!!」
「フォローしてやっているんだからお前は黙ってろ。」
たまにいるよね。助けてもらっているのに空気読めない子。
「それで、ワクコーリアルさんはいつから研究を開始したいんですか?」
「ワクコでいい。」
「えっ。」
「知り合いはそう呼ぶし、無理なお願いをしているのはこっち。名前言いにくそうだし、さんもいらない。」
ばれていたか。長くて言いにくいというよりは「ワクコ」という名前が何となく日本名のようでちょっと気に入っていただけなんだが。
「しかし年上のレディに向かって「さん」なしで呼ぶのはちょっと。」
「子ども扱いしなければいい。と言うかからかって遊んでいるでしょ!!」
「いえいえ、滅相もない。ワクコお嬢様。」
「むっきー!!」
はあ、やっぱり面白い人だ。
「それでワクコはいつから研究をするつもりなんですか?」
「急ぎの仕事もあるから数日はお預けね。それでタイチがジテンシャを使わない時間はあるの?」
「午前中は基本的にギルドの図書室にいると思います。午後は屋敷で使用人をしていますので、その時間くらいですかね。」
「どこかの屋敷に勤めているの?」
「勤めているというか、居候というか弟子というか。まあそんな感じです。アンさんというメイド長がいる屋敷です。ここからだと・・・」
「ちょっと待って、アンさんって白髪のお婆さんの?」
慌ててワクコの口をふさぐ。
「いいですか、ワクコ。アンさんをお婆さんと言ってはいけません。」
「んっ、んーんんっん、んんーんんんん。」
たぶん、えっ、どう見たって、お婆さんじゃん、かな?
「アンさんのことは絶対にアンさんもしくはメイド長と呼んでください。わかりましたね。」
私の真剣な表情にワクコも首を縦に振る。よかった。新たな犠牲者が増えるのを防ぐことが出来たようだ。
ほっとしていると、てのひらに何か生暖かいものがうねる感触がする。うわっと思わず手を放した。
「なにするんですか!?」
「それはこっちのセリフよ。いい加減に離しなさいよ!!」
「それは、すみません。」
こっちは危機を救ったのにと思わなくもないが、実際に目にしないとわからないだろうしな。後で親父さんに手を洗わせてもらおう。
「そういえば、なんでアンさんを知っているんですか?」
「一か月ちょっと前に大量のダートの注文があったのよ。ご丁寧に細かい指定までされて。」
「あれっ、武器は作らないんじゃないんですか?」
「ダートは遊びにも使うしね。それにお金は必要よ。」
背に腹はかえられぬというやつか。お金はだいじだよー、だな。しかし自分の使っているダートの製作者と知り合うとは思わなかったな。
「それでは、午後ならほとんど屋敷にいると思いますので、ワクコの都合のいい時に来てください。アンさんにも了承を取っておきます。」
「わかったわ。それじゃあ数日後に。」
「あと、絶対にアンさんのことは・・・。」
「アンさんってちゃんと呼ぶわよ。」
「よろしくお願いします。」
数日後の再会を約束し、握手をして別れた。握手はもちろん舐められた方の手でしっかりとした。
握手した瞬間にちょっとワクコの目がきつくなった様な気がしたが、何の事だかワカラナイな。
(やっと終わったみたいだね。)
(お待たせ、なんとか分解せずに自転車の開発をしてくれそうだよ。)
(良かったね。タイチ、他にもいいことがあったの?)
(いや、異世界製の自転車がどんなものができるのか楽しみでね。)
(浮気?)
(それはない。)
二人でどんな自転車が開発しやすそうか相談しながら、いつものようにギルドの図書室へ向かった。
読んでくださってありがとうございます。
俺の理想の自転車とかあったら教えてください。
開発してもらいましょう(笑)




