初めてのドワーフ
この世界で初めての雨の日から10日ほど過ぎた。
自転車用グローブをつけながら投擲するようになったため、必然的にグローブをつけている時間が長くなった。洗ってはいるが、匂いや消耗具合が気になるので予備が欲しいところだ。
ただ、整備用品のことを考えると安易に交換することも出来ずとりあえず保留になっている。
今朝の配達を終え、南門の親父さんの宿で朝食をとるつもりだった。いつもならこの時間はそれほど混んでいないのでルージュの見える位置に座るのだが、なぜか今日はほぼ満席だった。
仕方がないのでルージュを木の柵と繋げるように鍵をかけ、店の奥の方で食事をすることにした。
「親父さん、儲かってるね。」
「毎月一回、恒例の飲み物一杯無料の日だからな。この時はいつもこんなもんだ。」
「へー、じゃあ私は紅茶で。」
「へいへい。」
いつもは料理しか作っていない親父さんが料理を運んでいる珍しい光景に、本当に忙しいんだなと感じる。
来月からはこの日は外すよう心の中でチェックしておいた。
おせっかいな人なら手伝おうと思うのかもしれないが、私がもし失敗した場合、評判を落とすのは親父さんの店になってしまう。慣れない素人が手伝うものでもないだろう。
邪魔になってもいけないので、急いで食べて出て行こう。
(タイチ―、なんか僕、さわられてるんだけど。)
食事を食べ終え、あとは紅茶を飲み終えたら会計して帰ろうかなと思っていたところにルージュからの念話が届いた。内容の割に緊迫感がないから、緊急性はないだろう。
そういえば念話については半径15メートルくらいなら離れても通じるようだ。壁も突き抜けられるので防犯にはぴったりだ。
親父さんに美味しかったとお礼を言い会計を済ますと、店の外のルージュのもとに向かった。
ルージュのそばには一人の女の子がいて、ペタペタと触っているようだ。
「どうしたのかな、ルージュが珍しいのかい?」
なんとなくサーラちゃんに初めて話しかけた時を思い出しながら、びっくりさせないように話しかける。
「何、その態度は。私は子供じゃないわよ。年上なんだからちゃんとレディとして扱いなさい。」
そう言って振り返った少女をしっかり見ても120センチくらいの身長、ずんぐりむっくりの体型、肩までの茶髪を無造作にまとめた髪型、くりくりの目とどう考えても年上には見えない。
なんだろう、背伸びしたいお年頃と言ったやつか?
「それではレディ、親御さんはどちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「むきー、年上だって言ってるでしょ!!」
うわぁ、むきーって言う人初めて見た。なんだかこう言っては悪いかもしれないが自分が思った以上のリアクションを返してくれると嬉しいな。
「これは失礼しました、レディ。お詫びにこちらのお店でミルクでもいかがですか?」
「今日、飲み物一杯無料の日じゃない。しかもなんでチョイスがミルクなのよ!!」
おぉー、素早いつっこみだ。いいぞ、レディ(仮)。君ならお笑いで天下を狙えるかもしれない。
二人で店の前でワイワイしていると、店から親父さんが顔を出してきた。
「誰だ、っと思ったらワクコとタイチか。あんまり店の前で騒ぐんじゃねえ。」
「すみません、それはそうと、このレディは親父さんの知り合いですか?」
「ああ、包丁とかの調理道具を作ったり、修理してもらっている。というかレディってなんだ?」
「いえ、こちらのレディがレディとして扱えと言われましたので、レディと呼ばせていただきました。」
「あんた、レディ、レディうるさいわよ。私にはワクコーリアルっていうちゃんとした名前があるんだから。」
「略してワクコな。」
「略さないでよ!!」
親父さんとのやり取りを見て確信する。あなたはレディではない。いじられキャラだ。
「それでなんでワクコは騒いでいたんだ?」
「なんで私にしか聞かないのよ。」
「大体の騒動の原因はお前だからだ。」
「ひどくない!?」
「どうもルージュ・・・、じゃなくてこの乗り物に興味があったみたいなんですが。」
「そうよ、なによその乗り物。噂には聞いていたけれど、どうやって動かすのよ。こんなに複雑な構造あんまり見ないわよ。」
あー、なんかまたワクコさんのテンションスイッチがオンになったみたいだ。どうしようかなと思っていると親父さんがワクコさんの首を猫のように掴んだ。
「店の前で騒ぐんじゃねえって言っただろ。とりあえず奥の事務所行くぞ。」
そしてそのまま連れて行かれるワクコさん。こわもての親父さんに連れて行かれる少女か。事情を知らない人から見たら事案だな。
(ごめん、ちょっと行ってくる。)
(いいよー。何かあったらまた僕から連絡するよ。)
(頼んだ。)
(頼まれた。)
そして親父さんの後について組事務所、もとい宿の事務所へ向かった。
事務所は調理場の奥の方にあり、4人が入ればちょっと狭く感じるくらいの部屋だ。宿帳や仕入れの資料などが整理されて並んでいる。
小さめの椅子に座り、その正面にワクコさんが座る。
「それで、あの乗り物よ。なんなのあれ?どこで作っているの?誰が作ったの?材料は何?」
身体をずいっと近づけながら矢継ぎ早に質問をしてくる。近いよ、近いってワクコさん。
「落ち着け、ワクコ。タイチが驚いているだろう。」
「落ち着いていられるわけないでしょ。ドワーフとしてあれだけのものを見せられて、興味が湧かないわけが無いじゃない!!」
興奮しながら反論する。あれっ、聞き逃せないことを聞いたぞ。ドワーフ、ドワーフって言ったよな。
「えっと、ワクコーリアルさんはドワーフなんですか?」
「そうよ、見ればわかるでしょ!!」
わざわざ立ち上がり胸を張るワクコさん。うーん、顔はちょっと大人びているが、ずんぐりとしており、せっかく張った胸も残念な感じだし、身長のこともあり子供にしか見えない。
「一応本当だぞ。年は確か23だ。」
「なによ、一応って。しかもレディの年齢を言うなんて信じられない。」
「えっ、これがですか?」
「なによ、これって!!」
しまった、怒らせてしまったようだ。ちょっと本音が出ただけなのにな。しかし怒った顔を見ても23歳にはとても見えない。
「タイチはドワーフを見たのは初めてか。ドワーフは30くらいまではこんな感じで、次第に貫禄がついていくんだ、男も女もな。」
よかった。自分のイメージするようなドワーフもいるようだ。でもなぜそんな成長をするんだろうな。
「そろそろ俺は戻るぞ。話すのはいいがあまりうるさくするなよ。」
親父さんが出て行く。あれは絶対に面倒くさいから逃げたよな。部屋を貸してくれるだけでもありがたいか。
ワクコさんは素直な人みたいだから、とりあえず直球で質問してみるか。
「それでワクコーリアルさんは何がお望みですか?」
「ちょっとアレ、分解させてほしいの。」
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