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RIN ~共に生きる異世界生活~  作者: ジルコ
第一章:イーリスの街にて
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集中

皆様のお陰で2000PV達成出来ました。

ありがとうございます。本日二話目の投稿です。

「メイド長、今日のランニングの訓練って。」

「もちろん予定通り行いますが、何か?」

「ですよね。」


 わかってたよ、雨だからってアンさんが訓練を休みにすることなんてないって。むしろ嬉々として訓練させそうだし。


(頑張ってねー。)


 ルージュさん、いいご身分ですね。



 せっかく着替えてさっぱりしたのにすでにびしょ濡れだ。服が水分を吸い、体にぴったりとはりついて重いし動きにくい。地面も泥になっていてぬかるんでおり踏み込めない。水滴が目に入るので視界も悪い。

 今までで最悪の状況だ。いや、アンさんにとっては最高の状況かもしれない。

 通りに人がいないことだけが救いだな。


 なんとか外周を終え庭に入る。さすがに罠はないだろう、と希望的観測をしてみたが、入り口付近にあからさまな落とし穴がある。罠があるよと知らせる優しさだろう。

 うん、わかってたよ、本当だよ。


 雨のおかげで糸で発動するトラップに水滴がついてわかりやすくなっているので楽勝だと思ったら大間違いだ。アンさんのトラップは、わかりやすい罠を効果的に使って罠にはめることが多い。

 罠を見つけたら、他にも罠があると思え、がこの一か月の訓練で培った教訓だ。罠を見つけたからって油断しているとろくなことは無いのだ。


 そう、今、穴に落ちている私のようにね。


 ちゃうねん、落とし穴、雨だと見つけにくいねん。庭は水はけがいいから水たまりとかで判断できんし。

 だめだな、ルージュと話すようになってから精神年齢が下がった気がする。えせ関西弁も出るようになったし。この世界に来て張りつめていた精神が、なんでも話せる存在が出来たことで余裕が生まれたのかもしれない。


 すぐに穴から出てダートを投げる。手が雨のせいで滑る。かろうじて的の端に当たったが思った以上に投げにくい。何か対策を考えなくては。

 有効な対策が思いつかないまま、適度に罠にはまりつつ1周目を終えた。


 2周目、3周目とダートの投げ方を変えてみたり、ずれる方向に傾向が出ないか確かめてみたが有効な手段はなく、傾向もばらばらだった。

 地面が泥でぬるぬるしているのもあるが、やはり一番の原因は手が濡れてダートが滑ることだ。滑り止めか・・・。ゴムのような素材であれば止められるか?


 走りながらアイテムボックスから自転車用のフルフィンガーグローブを取り出す。春夏秋用という売り込みで性能にしては安く感じたので買ってみたが、実際には夏につけると暑かったので、山に行くとき専用になってしまったちょっと残念な思い出の一品だ。

 しかし黒を基調としたデザインは格好よく、転んでも大丈夫な耐久性、そして特筆すべきは指先に滑り止めがついており、現在の状況にマッチしている。


 装着し、何度か拳を握りしめて具合を確かめる。これならいけるとなぜか予感する。

 罠を回避しつつ的を狙って投げる。素手の時と感触の違いはあるがすべりは感じない。ならば、この感覚に慣れるだけだ。

 手を放すタイミングを少し修正、目標とする地点を2センチ右へ修正・・・。一投ごとに誤差を修正し、新たな問題点を潰していく。

 投擲に集中する分、罠にかかることが多くなったが、この感覚をつかむことの方が優先だ。


 結局、自分の納得のいく投擲となったのは9周目のことだった。いつの間にか雨は小雨になり、遠くの空には雲の隙間から光が差し込む美しい光景が広がっていた。

 さながら、天使の降臨みたいだと場違いな感想を抱きながらラスト一周に向かった。



(おつかれー、タイチ)

「お疲れ様、何か掴みましたか?」

「はい、この感覚を忘れたくないので今から地下でダートの訓練をしてもいいですか?」

「どうぞ。その感覚は大切なものだから覚えておきなさい。」

「わかりました。ありがとうございます。」


 さっそく地下へ向かおうと屋敷に入っていくとアンさんに止められた。


「使用人が屋敷を汚してどうするつもりですか?」


 夏の終わりとはいえ、雨の中を走り続けても一度もしなかった悪寒が走る。ぐぎぎぎぎ、と音がしそうな感じで振り返ると笑顔のアンさんがいた。


「冗談ですよ。体を拭いて着替えてからにしなさい。風邪をひきますよ。」

「はい、すぐ行ってきます。」


 なるべく屋敷を汚さないように裏口から風呂場に急いで向かった。

 後にルージュは語る。


(冗談と言ったけれど、絶対に一部は本気だった。)



 風呂場で体を拭き、服を着替えた。服の替えは雨の中で訓練するだろうとあらかじめ予想して用意しておいたものだ。

 その後、裏口から風呂場までの汚してしまった廊下などをきれいに掃除し、ルージュを連れて地下室へ向かった。


 地下室にある屋敷を支える柱にいくつかの目印を貼り。走りながらダートを投擲していく。

 右にずれる傾向があるな、修正・・・。高速移動時に力が入って狙いが下に下がるな、修正・・・。急停止時に狙いがばらつくな、修正・・・。修正、修正、修正・・・。

 なんだろう、この懐かしい感覚は。ひたすらに修正し、最適解を求める感覚は。


 ふっと気づくと、いつの間にかかなり時間が経っていたらしい。

 ルージュの隣にはアンさんがおり、なにか二人で話している。


(あっ、おつかれー)

「お疲れ様、素晴らしい集中力でした。」


 二人がほぼ同時にこちらに気付いた。


「まだ完全とはいきませんが、何かを掴めたような気がします。」

「それは良かった。訓練や実戦でまれにとてつもない成長をすることがあります。タイチの今の感覚がそうでしょう。もし次にその状態になったら心のおもむくままに行動するといいと思いますよ。今回のようにね。」


 アンさんがほほ笑む。


「でもなぜか以前にも経験したような気がしたんです。記憶にはないのですが。」

「とても小さいころの経験だったかもしれませんね。」


 少し早いが食事の準備が出来たそうなので汗を拭くためにまず風呂場に向かう。大体2時間くらい夢中になっていたということか。


(ねえ、タイチ。)

「なんだい、ルージュ。」

(タイチが以前に経験したようなって言ってたやつ、おそらく自転車をオーバーホールするときのことだと思うよ。顔つきが一緒だったもん。)


 そうか、確かにそうかもしれない。一番走りやすいように、使いやすいようにブレーキからスポークの張りまですべての部品を調整する。

 全体のバランスを見て再度調整。

 少し走ってみて再度調整。

 最適な調整のため、終わってみれば8時間かかったなんてことはざらにあった。

 1mmを修正するためにもう一度やり直すこともあった。

 調整、調整、最適解が求められるまでひたすら調整。


「そうかもしれないな。」


 私はひたすらに良くなるように考えたり、行動するのが好きみたいだ。


(ということで僕のオーバーホールもよろしくね。)

「道具がそろったらな。」


 そんな軽口をたたきあいながら、二人で進んでいった。

オーバーホールは素人がやると取り返しがつかなくなる可能性があります。ご注意を。

読んでいただきありがとうございます。

感想、自転車始めた報告など何でも待っています。

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RINの外伝の小説を書いています。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。 「お仕事ですよ、メイド様!!」(飛びます) 少しでも気になった方は読んでみてください。
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