夢の力?
欲しいもの、欲しいものか・・・。とりあえず衣食住は満たされているからいいとして、それ以外か・・・
「自転車整備道具とかかな。」
(ピンポーン、正解。DPと引き換えに欲しいものが手に入るんだ。)
「そもそもDPって何の略なんだ。」
(ディスタンス ポイント だよ。タイチも距離でこのポイントが増えることは分かっていたでしょ。)
確かに朝の依頼など移動をするとポイントが増えていたので距離によって変わるのではないかと予想はしていた。距離のポイントか、そのままやないか。
いかんな、欲しかったものが手に入るとわかってテンションが上がって、思わず関西弁で突っ込んでしまった。幼少期の土曜日お昼の定番、新喜劇のせいだな。
(ちなみに交換できるものはこんな感じ。)
いきなり目の前にリストの一覧が表示される。かなり膨大な量がありそうだ。上から目を追っていくと。
・ブレーキシュー (低品質) 40DP
・ブレーキシュー (中品質) 80DP
・ブレーキシュー (高品質) 120DP
・ブレーキシュー (最高品質) 300DP
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・
・
「えっと、ルージュさんや。」
(なにかな、タイチさん)
「なんだこのアバウトすぎる表示は。メーカーも型番もわからんし、カンチ用なのかV用なのかさえもわからんぞ。最高品質だからと言ってその自転車と相性がいいとは限らんのだぞ。」
(ちょ、ちょっと落ち着いてよ。僕に言われても困る。)
希望から絶望へ突き落されたので思わず、ルージュをがたがたと揺すってしまっていた。
「ごめんなさい。」
(落ち着いてくれればいいよ。そもそもこのスキル自体が特殊なものだろうし、管理者の人が作ったんだろうから、詳しくない人がリストを作ればこうなるんじゃない?)
確かにそうだ。特にスポーツ自転車は最近ブームになったとはいえ、まだまだ知らない人も多い。興味のない人からすれば、値段が高いからいいものなんでしょってなるか。
「とりあえずは必要な部品を中品質で買ってみて適合する部品が出てくるのを祈るか。」
(異議なーし。)
はぁ、期待が大きかった分、落ち込みようも激しいな。
(でもでも整備用品とかはたくさんあるよ。)
そうだな、工具はもちろんとして、欲しかったチェーンオイルやグリスもあるから本格的な整備も出来そうだ。
「おっ灯油もあるのか。」
昔はチェーンを洗うのに利用していたんだよな。安かったし、冬に使って残ったものを再利用できたし。
チェーンをいちいち外さないといけないこと、洗った後、渇くのに時間がかかること、廃油をどうするのかということが難点だった。考えてみると意外と難点多いな。
私は近くのガソリンスタンドが廃油の引き取りを有料化したので灯油を使うのをやめた。有料化した原因が私のような気もしたが気づかないようにした。本当にすみません。
「灯油なんて一般的には自転車にあまり関係ないと思うけどな。」
(どういう基準なんだろうね。)
一緒にリストを見ていく。見たことが無いようなものがリストに載っていなかったので、私かルージュの知識を利用しているのではないかと二人で予想した。
そしてリストの最後の方に私の目は釘付けになった。
・シティサイクル 1000DP
・マウンテンバイク 15000DP
・ロードバイク 30000DP
・小径車 7000DP
・リカンベント 10000DP
なん、だと。自転車と交換できるだと。しかも交換可能な車種は私が持っていた車種と同じだ。もしかしたら向こうの世界へ残してきてしまい、もう乗れないと思っていた自転車に乗れるのかもしれない。
合計63000DPが必要か。サイコンでの検証だと1DPは1kmだったから、毎日100km乗れば一年で36500DPほど貯まる計算か。
地面の状況などを鑑みて、1日に5時間乗れば100kmは達成できる。ギルドの朝の依頼で30kmくらい走るから、その後の午前中の時間を自転車で走れば達成できるか?
いや、人が通るから街を走るのは難しい、となると街の外へ出て走るか。でもギルドの依頼でないと入市料かかるし、魔物の問題もあるな。
そんなことを上がったステータスを駆使して全力で考えていると
(タイチ、考えていることは予想できるけれど、しばらくは勉強や修行をした方がいいと思う。)
とたしなめられてしまった。確かにそうだな。地球と違って生き残ることに必死にならないといけない世界だもんな。
アンさんやジンさん達そしてケイルさんといった異世界人の強さを考えると、私なんてひよっこも同然だ。
「ありがとう、ルージュ。正気に戻れたよ。」
(そっか。ならよかった。)
「ちょっと後ろ髪ひかれるけれど、強くなることが今一番必要だしね。」
(あ、やっぱりひかれるんだ。)
それは自転車ごとに違う楽しみがあるのだから仕方がないのです。
(で、最後に一番重要なことがあってね。)
「なにかな、ルージュ君?」
(リストの一番下をご覧下さい。)
一番下をみると「・リペア 1000DP」という表示がある。
(このリペアっていうのが僕自身を回復する唯一の手段なんだ。いまは大丈夫だけれど「耐久」が0になってしまったときにどうなるかは、僕にもわからないんだ。だから覚えておいて欲しい。)
ルージュの真剣な言葉に思わず息をのむ。さっきまでの浮かれた気分が嘘のようだ。
ルージュがいなくなるなんて考えられない。ここまで一緒に来たのだからこれからもずっと一緒だ。
「わかった。絶対に忘れない。そしてルージュを死なせはしない。約束する。」
(ありがとう、タイチ。ずっと一緒に旅をしようね。)
「あぁ」
1001DPで整備用の工具などを買おうと思っていたが、いざという時のために1000DPは必ず確保しておきたい。余剰分で必要なものを買っていこう。
(とりあえず話はこんなところかな。)
「ありがとう、ルージュ。それじゃあそろそろアイテムボックスの訓練をして気絶するから、夕食の時間になったら起こしてくれる?というか「念話」って寝ている人にも聞こえるの?」
(うーん、わかんないから実験だね。)
「わかった、とりあえず「念話」についてもおいおい実験していこう。」
(じゃあ、おやすみタイチ。)
「おやすみ、後は頼んだ。」
いつもどおりのアイテムボックスの出し入れでMPを枯渇させ、そのまま床で気絶した。
(タイチ―、朝だよ。仕事の時間だよー。)
はっ、と目を覚まし慌てて窓から外を見ると夕焼けが映え、家々を黒い輪郭としてうつしていた。
「おはよう、いろいろと思うことがあるが、とりあえずなぜ朝だと言った?」
(そのほうが目覚めがいいかな、と思って。)
「そうか、明日の整備は無しな。」
(えー、自転車って実はデリケートなんだよ。乗る前のチェックは基本って、いつも自分で言ってるじゃん。)
ぐっ、実に痛いところを突く。長年一緒に走ってきただけあるな。
「仕方ない、だが朝は大切な仕事があるから冗談でもやめてくれ。寝過ごしたかと思った。」
(りょーかーい。でも寝てても聞こえるってわかって良かったね。)
確かに寝ているのを起こすことが出来るのなら、旅をするときに非常に役に立つはずだ。
「そういえばルージュは寝るのか?」
(基本は必要ないかな。整備されていると気持ちいいから寝ちゃうけど。)
なんか自分の整備を気持ちいいって、はっきり言われると嬉しいもんだな。
「じゃあ食堂に向かうか。そういえばルージュのことをアンさんに話そうと思うけれどいいかな?」
(いいんじゃない。話さなくてもすぐにばれる気がするし。)
「確かにな。」
規格外のアンさんのことを思いながら食堂へ向かった。
自転車豆知識
〈ブレーキシュー〉
ホイールを挟んでブレーキをかける部品。溝が無くなる前に交換するのが基本。安物にすると坂道や雨の日にブレーキが効かず、死にそうな体験をすることになる部品。非常に大切。
取り付けも注意点がいろいろあるが本編に出てくるかもなので省略。
〈V カンチ〉
ブレーキの種類。
Vは大企業の商品名なのでVとしかかけず。あまり知られていないと思うがリニアプルブレーキが一般名称。スポーツ自転車に多く使われている。
カンチは、ブレーキを中央で引く構造のブレーキ。汚れ難いので昔はマウンテンバイクに良く使われていた。
〈サイコン〉
サイクルコンピューターの略。走った距離、速度、時間、ケイデンス(一分間のペダルの回転数)、心拍数などを測定する機能がある。値段により測れる種類は様々。
自転車を長く続けるモチベーションにもなるのでぜひ購入をおすすめしたい。
読んでいただきありがとうございます。
自転車始めました報告はもっと頑張ります。




