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RIN ~共に生きる異世界生活~  作者: ジルコ
第一章:イーリスの街にて
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街の外へ

 たー たらったー たーたたったー ・・・

 某有名おつかい番組の音楽を口ずさみながらペダルを回す。そういえば冒険者らしい依頼を受けるのは初めてだからな。いつもは運送業者みたいなものだし。


 あの後、ギルドで依頼を受け、サーラちゃんの手紙を受け取った。「お願いねー」とぶんぶん手を振られながらギルドを後にし、アンさんに午後の訓練を休めるようお願いした。

 許してくれなかったらどうしようとか、こう聞かれたらこう説得しようとかなり綿密に想定していたのだが、あっさりと許可をくれた。すこし拍子抜けだった。

 ただ一言


「もし何かあったとしたら、自分が生き残ることを第一に考えなさい。」


 とだけ言われた。とても真剣で重い言葉だった。


 往復で1日かからないくらいだが、トラブルがあるかもしれないので3日分の食料と水を用意した。家にあった野営道具一式をアンさんに借り受け、ダートと槍をアイテムボックスに入れて持って行くことにした。

 槍を選んだ理由はリーチの長い武器で扱いやすそうなものがそれしかなかったからだ。鞭やくさり鎌なんて素人が扱える武器じゃない。自滅するのがおちだ。

 でも、憧れがないわけじゃない、密林や洞窟を探検するなら鞭は必須だと思うんだ。


 キナさんには明日の配達は出来ないかもしれないと伝言をお願いしてあるので、残りは配達先の店や宿に挨拶に行くだけだ。

 店を回って明日の朝は来れないかもしれないこと、私が来れないときはギルドの職員が来ることを伝え、何か持ち帰りの食べ物があれば買って行った。アイテムボックスなら腐らせることはほとんど無いだろうし。

 こういった根回しは非常に重要だ。私と店との信頼関係はまだまだ薄い。一つの行動で今までの努力が無駄になってしまうこともある。厳しい世界だ。


 自分で想定して出来うることをすべて終え、南門から外へ出る。サーラちゃんのおじいさんがいる小屋は、森の入り口から右方向にしばらく行けばあるそうだ。

 実際に外に出るまで、本当に街から出ることが出来るか心配だったのだ。臨死体験をしてそれがトラウマとなってしまった話は前の世界でもよく聞いていた。

 幸いにも私の神経はそこまで繊細ではなかったらしい。橋を渡り普通に外に出ることが出来た。

 多分他の人から見たら、何でもないようなことなのだが自分にとっては旅をすることが出来る喜びにあふれる瞬間だった。


 森へ向かいペダルを回す。今日も相棒のルージュの調子は絶好調だ。


 そういえば自転車の乗り方の解説本や漫画で、ペダルを回すときは円を描くように力を入れてペダルを回しましょうといった解説があるが、私には合わなかった。

 確かにスポーツ自転車ではなく一般的な自転車に乗るときに踏み込む足と反対側の足を乗せたままだけじゃなく、足を上にあげるように動かすのは長距離走るのに役に立つ。

 足を踏み込むときに瞬間的に使う力が弱くなり、平均的に力が使われるので疲れにくくなるのだ。


 同じようにビンディングペダルなどを使用した時に円を描くように力を入れてペダルを回すのが理想的だとはわかっている。

 しかし私はあくまで自転車に乗ってどこかへ行くのが楽しいのであって、競技者となりたいわけでもなかった。ペダルを意識しすぎて乗っていてあまり楽しくなかったのだ。

 そこで私が意識したのは逆三角形だ。足を踏み込み、最下点から引き上げ、8割ぐらいの高さになったら前に突き出すイメージだ。

 これなら3点注意すればいいだけなのですぐに慣れた。真剣に競技などをやっている人には怒られるかもしれないが、目的が違うのだから別にいいと思っている。

 自転車の楽しみ方は人それぞれだし、極め方も人それぞれだろう。


 だが、大集団で走って交通の邪魔になっていたり、歩道を高速で走っているやつ、お前らはだめだ。人に迷惑をかけない範囲で楽しむのが自転車道だ。


 まあ、それはさておき景色を見ながら走る。前に通った時はジンさん達三人と話しながらだったため、周りの景色をじっくり見るようなことは無かったのだ。

 辺りには一面、草原が広がっている。ところどころに池があるようで鹿や鷺のような白い大きな鳥が集まっている。たまに転がっている動物の白骨死体は冒険者が食べたのか魔物が食べたのか?


 マップを見ながら走っているがあまり魔物の反応はない。あったとしてもこちらに近寄ってこないので凶暴な魔物ではないのだろう。グリーンラビットとかかな?

 そういえば全く動かない魔物の反応があったので調べてみると、グリーンスライムというファンタジー定番の魔物であることが分かった。

 かなり見てみたい衝動に駆られたが、スライムの弱点も調べていないので関わらないことにした。ほらっ、重要な仕事中だからそちらを優先しないと。

 決して物理無効とかで、そのままなすすべなくやられるかもって考えたわけではないのだ。


 それにしてもこの世界の道はすごい。土なのにあまりでこぼこを感じないのだ。もちろんコースを選んでいるのもあるが、日本なら雨などで、すぐにぐちゃぐちゃになってしまうはずだ。

 魔法で道を作ったのかもしれないな、今度アンさんに質問してみようと心に留めた。


 2時間ほど走り、イーリス南部の森の入り口に着いた。

 前回ここを通った時は必至すぎて気づかなかったが、入り口には丁寧に「イーリス南部の森 北」と看板が出ていた。誰がどんな目的で看板を建てたんだろうなと疑問に思いながら、森に沿って右方向へ進んだ。


 さらに30分ほど走ったところにログハウスが2軒あるのが見えた。奥には家畜用だろうか簡単な小屋もあるようだ。

 その建物たちを囲うように2重の柵があり、二つの柵の間には深い溝が掘られていた。かなり厳重に魔物対策をしているようだ。

 柵の外には伐採した木が長さをそろえて積まれており、その山が20程度あるようだ。木から水分を抜くためだろう。山は伐採した時期の違いかな?


 森とは反対方向に出入り口があり、そこに人が一人立っていた。頭に布を巻き、タンクトップを着ている筋肉隆々の日焼けした男性だ。ザ・仕事人って感じだ。


「こんなところに来るなんてめずらしいな。何かあったのか?」

「こんにちは、私は冒険者でタイチと言います。ここにケイルさんがいらっしゃると聞いてきたのですが。」

「おやっさんに用事か?昼までは帰ってこないからとりあえず中で待っていてくれ。」


 ケイルというのがサーラちゃんのおじいさんの名前だ。サーラちゃん曰く、ひげがいっぱいで力持ちでお酒もいっぱい飲むの、だそうだ。私の中でケイルさんのイメージはドワーフだ。いや、普通の人間のはずだけれどね。


 中で自由にしていていいとのことだったがさすがにログハウスの中に入ったりするのは気が引けたので外でルージュの整備をしながら時間を潰す。

 今のところ雨が降っていないからいいものの、早めに整備用のグリスとかだけでも代用品を探さなければと考えていると森に行っていた一団が帰ってきたようだ。


「儂に用事がある冒険者とは、お前だな。」


 そっかー、そっちだったかー。後ろから声をかけられ、振り返って見たケイルさんは衣装を着ていないサンタクロースの様だった。


「はい、サーラちゃんからの依頼で手紙を持ってきました。」

「なんだと。サーラのか。早く見せろ。」


 取り出した手紙をひったくるように奪うと、慎重かつ丁寧にしわにならないように開封し手紙を読み始めた。

 しばらくはすごく嬉しそうに、そして最後の方になって難しそうな顔になった。


「手紙を届けてくれてありがとな。今から帰ると閉門に間に合わんじゃろう。ここで泊まっていくといい。」

「ありがとうございます。それでケイルさんはいつ帰られるのですか?」


 相棒のルージュに乗れば余裕で帰ることも出来るのだが、林業をしている現場にいるのだ。

 せっかくなら働いている人に現場を見せてもらったり、面白い話などが聞けるといいなと思い、好意に甘えることにした。


「儂は帰らん。」


 それは想定外だ。

自転車豆知識

<ビンディングペダル>

ロードバイクなどの真骨頂。専用の靴とくっつくようになっているペダル。ペダリング効率が上がるが初心者が失敗して転ぶのは普通。そういう時は基本新車なので傷がついて涙目になるのも普通。

失敗したくないときは誰かに手伝ってもらったりして着け外しの練習をしっかりするのが吉。


結構個人の見解が入っていますので生暖かく見守ってください。

読んでくださりありがとうございます。

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RINの外伝の小説を書いています。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。 「お仕事ですよ、メイド様!!」(飛びます) 少しでも気になった方は読んでみてください。
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