反乱(8)
「うん、やっぱりヒナの言うとおり出なくても大丈夫だったね。」
「まあ、あの執事がいる時点でよっぽどのことがなければ大丈夫ニャ。」
「そうだね。あの人、私達のことも気づいていたっぽいしね。」
城の屋根の上に隠れながらジンさん達の戦いを見ていたが、結局執事さんの一撃で化物が吹っ飛んでほとんど終わってしまった。
手が足りないようなら助けに行こうと思っていたのだが、昼の時点でこちらの方を警戒するような仕草をわざとしてきた執事さんを見て、ヒナがあの人は別格なくらい強いから何もしなくていいニャと言っていたのでちょっとお気楽な観戦モードで待機していた。もちろんピンチになったら助けに行くつもりだったが。
「それにしてもあの少女がジンさん達が迷宮で会ったって言う奴か。」
「強いニャ。戦ったら負けるかも知れないニャ。」
「なんか変なスキル持っているしね。」
「まあいくつか候補は考えられるけれど、全部対策が面倒なんだよな。倒すなら不意打ちで一気にというのが一番かな。」
「タイチ、えげつないニャ。」
「そうそう、正面からぶつかってバトルしようよ!」
「そんな面倒は嫌です。」
マップ内にはあの少女だと思われる反応がまだある。そしてその傍らにもう1人いることもわかっている。あの少女だけでも相手をするのが面倒なのに正体不明のもう1人と一緒に戦うなんてことになったら危険すぎる。
「とりあえず、後始末に行こうか。」
「りょーかーい。」
「それにしてもやっぱりタイチは便利ニャ。」
屋根を伝い、王の居室へ窓から侵入する。部屋の半分が黒焦げになっておりあの一撃の威力を物語っている。よし、もしあの執事さんに見つかったら全力で逃げよう。
目的はジンさん達が戦っていたオーガ。黒焦げになり完全に死んでいるように見えるがマップの反応はまだこれでも生きていることを示している。
「でも本当に生きているのかニャ?」
「まあ今までさんざん助かってきたマップさんだからね。それにこの魔物自体が普通の魔物じゃないし。ヒナもあまり近づかないほうがいいよ。」
黒焦げの塊に近づこうとしていたヒナに注意をしながらアイテムボックスからフォレストウルフの死体を取り出して投げつける。
「うわっ、気持ちわるーい。」
「本当だニャ。」
「あー、やっぱりスライム系か。」
黒焦げになっていた黒い塊がフォレストウルフの死体を包み込んで取り込もうとしている。
元々は人間だったはずなのにいきなりオーガになるなんておかしいと思ったんだよな。よしんばオーガに変わるようなことがあったとしても8割以上黒焦げになっているこんな状態で生きているはずがない。こんな状態で生き残ることができるとしたらスライムのような決定的な場所を攻撃されなければ再生する能力のある魔物くらいだ。
「じゃあ消化している今のうちに囲んで焼却しちゃおう。あんな生まれ方をした魔物だ。弱点となる魔石があるのかさえ不明だからね。」
土魔法で逃げ場がないように囲んだ上で火魔法でルージュと2人がかりで燃やし尽くしていく。その魔物はうねうねと動いて逃げようとしていたが段々と小さくなっていくと最後には真っ黒な魔石を残して消えていった。マップにも反応は無いしこれで大丈夫だろう。
「うわっ、黒い魔石なんて初めて見たニャ。」
「なんか呪われそうだよね。」
「まあでも残しておくわけにもいかないからアイテムボックスに入れておこう。また今度アンさんに会った時に聞いてみよう。アンさんなら何か知っているかもしれないし。」
なんとなく手で持つのが嫌だったので足で踏んでアイテムボックスに収納する。これ以上ここにいても仕方がないのでそろそろ退散しよう。まあジンさん達もいるしこれ以上手助けしなくてもなんとかなるだろう。魔物もそこまで強そうでは無かったし。
あっ、そうだ。一応牽制はしておこうかな。
ダートを手に取り力いっぱい投げ、城の中庭に降りて地下から脱出する。さすが王城と言うべきか、地下にも結界があってかなりの深さまで潜らないと潜入できなかった。
「とりあえず魔物の襲撃が落ち着いた頃にもう一度来よう。」
「わかったニャ。」
「じゃあレオノール呼ぶ?」
「そうだね。猫人族の里でしばらく休もう。米や味噌も買っておきたいし。」
「あっ、そういえばあのダンジョン30階層までだったらしいニャ。30階層のボスはミスリルゴーレムらしいからウッハウハだニャ。」
「おもしろそー。タイチ、行ってみようよ。」
「しばらく休んでからね。」
侵入経路をつぶしながら3人で帰っていった。
「あー、なによあいつら。私の実験体38号、スライムオーガちゃんが!!」
「残念でしたな。」
黒いフリルのドレスを着た少女と中肉中背の普通の男が城の見張り塔の屋根の上から王の居室で少女が放ったスライムオーガが黒づくめの衣装で身を隠した3人組に燃やし尽くされていくのを見ていた。
「うー、傑作だと思ったのに。あのまま放置されればそのうち生き物を食べて何度でも復活するはずなのに!!ちょっとあいつら殺してくる!!」
見張り塔から飛び出そうとした少女の首根っこを猫のように掴んで男が止める。
「これ以上の干渉は主から許されていないはずですよ。」
男の冷めた声に最初は抵抗していた少女も諦め、肩をしょんぼりと落とす。その様子を見ず知らずの者が見れば年相応の少女が落ち込んでいるように見えただろう。
「わかった。今回は私の負けよ。あーあ、あんたを殺した段階で勝ったと思ったのになー。」
「そうですな。まあ私がいなくてもこのような結末になったことで、主も満足していただけるのではないでしょうか?」
「まあね。主にとってはこの国がどうなろうが関係ないしね。戦争を仕掛けてしっちゃかめっちゃかになったほうが私は面白かったけど。」
「そうですかな?おっと失礼。」
男が高い風切り音させながら高速で飛んできた何かを2本の指で掴む。それは土で作られたダートだった。
「警告でしょうな。」
「うっわー、生意気。やっぱり殺すべきじゃない?」
「いえ、当たる軌道ではなかったですし、我々の存在に気づいているぞ、という意思表示でしょう。あちらとしてもこちらの戦力についてはわからないでしょうから戦いたくはないでしょう。」
男がダートを握り締め、手を開くとダートはパラパラと崩れ去っていった。その様子を興味なさげに見ながら少女が屋根に敷いていたハンカチをポケットに突っ込む。
「じゃあ帰りましょ。」
「そうですな。あなたと違い私は主と会うのは久しぶりですから楽しみです。」
「ちかいまーす。私のほうが楽しみでーす。キャハハハハ。」
屋根を跳ねるように跳んでいく少女の後を追いながら、眼下で倒れた兵士を荷車で運んでいる青年を見る。
「お元気で、ユーリ様。」
その一言を残し、ウーノと呼ばれていた男はこの国から姿を消した。
とりあえず熱が下がったのでなんとかなりました。
危なかった。
読んでくださり、ありがとうございます。