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RIN ~共に生きる異世界生活~  作者: ジルコ
第一章:イーリスの街にて
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価値の違い

 訓練をし始めてから1か月が経過した。

 ステータスはだんだんとアップし、スキルは「開錠」と「罠察知」というスキルが増えた。

 訓練は生かさず殺さずといったラインをアンさんが絶妙に調整しており、頑張ればなんとかクリアできるようになっている。逆に言えば手を抜けば失敗する。

 完全にアンさんの掌の上だ。西遊記みたいだな。


 今日は朝の依頼が終了した後、中央の役所へ行く予定だ。仮市民証の期間が終了したためやっと本当の市民証に交換できるのだ。これでギルド証からも仮が取れる。

 南門の親父さんの宿で朝食をとり、さっそく役所へ向かう。


 役所は石造りの簡素な建物で倉庫部分を含めたギルドよりも小さい。入り口には兵士が二人立っているがあまり緊張感はない。

 住民に道を尋ねられて教えていたりしていて、なんとなく交番の警察官のような感じだ。


 中へ入りちょうど歩いてきた職員に声をかけ窓口に案内してもらう。制服がギルドの職員と同じような服だったのでギルド職員かと迷ったが、女性の服が普通に襟元まであるきっちりしたものだったので見分けがついた。細部を見ればいろいろ違うのだが、同じデザイナーの服かもしれないな。


 そして現在、手続きで待たされて30分経過している。アイテムボックスの内部整理をしているので特に退屈はしていないが、長いな。

 そういえばアイテムボックスの収納について新たに判明したことがある。収納するときに意識しないとアイテムボックス内の適当な場所に収納されてしまうが、意識するとアイテムボックス内で整理ができる。整理して入れることでより多くのものが入るようになるのだ。

 収納する段階で出来るのがベストだが、その後でも集中すればアイテムボックス内を整理できることを発見した。ただやはりMPは消費するが。

 外から見るとぼーっとしているようにしか見えないのがメリットでありデメリットだな。


 そういえば、日本でもこうやって役所で待たされることがあったなと思い出す。

 よくテレビやネットなどで公務員は無能が多いとか無駄とかいうのを見るがそれは正確には正しくない。

 民間で首にされるような人材を排除できないとどうなるか考えてほしい。業務は変わらず使える人間が減るのだ。必然的に出来る人間が割を食うのである。民間以上に。


 私は前職(公的な借金取り?)の関係で役所の職員とも付き合いがあったが、その中に一人異常に有能な人がいた。仕事にしても、連絡にしてもこちらがフォローする立場なのに逆にフォローされるほどの人だ。

 入社したての私に仕事のアドバイスをくれ、私の成績が飛躍的に伸びる手助けをしてくれた。お助けメモのような、その人の趣味などの一見無駄な情報をまとめたのもアドバイスの賜物だ。これがあると交渉時にかなり役に立つ。


「自分の育った町だから恩返ししないと。」


 その人が部署を異動するときに個人的に飲みに行き、うちの会社に来ないか勧誘したのだがそういって断られた。人事の担当もかなり本腰を入れて勧誘したそうだが駄目だったそうだ。

 まあ結局は職に関係なく、その人の性格、能力によるというのが正解だと思う。


 そんなことを懐かしく思っていると、やっと名前が呼ばれた。どうも仮市民証から市民証に変更する手続き自体、5年以上なかったため経験者がおらず時間がかかったようだ。

 確かにこの世界で生まれた人ならその場所で市民証を取っているだろうから、私のようなパターンはあまりないのであろう。そう思うとあの門番さんは有能だったんだな。


 市民証を受け取りギルドへ向かう。今度は仮ギルド証の交換をするためだ。

 朝のピーク時間をもう過ぎているためギルド内部は比較的すいていた。キナさんに声をかけようかと思ったが、男性の冒険者と話していたため別の職員へ向かった。

 仮ギルド証と市民証を渡し、正式なギルド証を発行してもらおうと待っているとキナさんと小さな女の子がしゃべっているのが聞こえてきた。


「なんで、なんでダメなの。ギルドで依頼すれば冒険者さんが受けてくれるんでしょ。」

「確かにその通りだけどニャー。」


 キナさんがとても困った顔をしている。5歳くらいだろうか、茶色い髪を三つ編みにした女の子は今にも泣きそうになっている。


「今日すぐに森まで行って手紙を渡すなんて依頼を大銅貨1枚で受ける冒険者はいないし、ギルドとしてもそんな依頼は受けられないニャ。」

「でも、でもおじいちゃんに早く知らせたいの。」

「かわいそうだけれど無理ニャ。」


 女の子の目から涙がこぼれる。声を必死に押し殺しているが泣き声と鼻をすする音が聞こえる。

 周りの冒険者もギルドの職員も何とも言えない雰囲気になっている。


「はい、タイチさん。これが正式なギルド証です。これからも頑張ってくださいね。」


 奥に行っていて状況をわかっていない職員の声がギルドに響く。あんた、ちょっとは周りの雰囲気に気付け!!


「あっ、タイチニャ。ちょっと来るニャ。」


 キナさんが救いはここにあった、というような目で私を見ながら呼ぶ。自然と周りの目も私に集中する。

 やめてくれ、私に子供はいなかった。子供の扱いなんてわからないぞ。扱いの分かるのは同居人のことぐらいだ。いや、あいつ子供っぽかったから何とかなるのか?


「なんですか、キナさん。」

「ちょっとこの子の面倒見てほしいニャ。奥の店使っていいからお願いするニャ。」


 キナさん、お願いって言っているけれど、断ったらなぜか私が悪者になるパターンのやつですよね、これ。


「わかりました、あっちでちょっとお話を聞かせてくれるかな?」


 しゃがみこみ女の子と同じ目線にして、ゆっくりと、穏やかな声で話す。

 女の子はちょっとびっくりしたようだが、私が冒険者とわかると小さくうなずいて後をついてきた。


「はじめまして、私の名前はタイチだよ。この街で最近冒険者になったんだ。君の名前を教えてくれるかな?」

「サーラ。」

「サーラちゃんか。いい名前だね。何歳かな?」

「5歳。」

「そっか、5歳かー。サーラちゃんはのどが渇いてないかい?私は紅茶を飲もうと思うんだけどミルクでいいかい?」

「うん。」


 店員に紅茶とミルクを注文し、サーラちゃんと向き合う。涙の跡が見ていて痛々しいが何とか泣き止んでくれたようだ。


「それで、サーラちゃんはなんで冒険者に依頼しようと思ったんだい?」

「あの、あのね、サーラのお母さんが夜に赤ちゃん産んで妹が出来たの。それでおじいちゃんに知らせたくて、お手紙書いたんだけど。おじいちゃん森にいるから届けたくて・・・」


 たどたどしい説明であったが内容は理解できた。

 サーラちゃんの妹が今日の朝早くに生まれたので、きこりとして森に行っている祖父にそれを知らせる手紙を渡したいらしい。祖父が返ってくるのは14日後くらいの予定だそうだ。


「おこずかい貯めたお金全部出したのに、お姉ちゃんがダメだって・・・」


 また泣きそうになる。


「そうか、サーラちゃんは偉いね。みんなでお祝いしたいもんね。」

「そうなの、おじいちゃんも一緒にお祝いしたいの。」


 注文したミルクを飲みながら必死にしゃべっている。どうしたものだろうか?ぬるくなってしまった紅茶を飲みながら考える。


「お待たせしたニャ、タイチ。」


 窓口の業務を代わってもらったらしいキナさんがやってきた。女の子がキッとキナさんを睨みつける。


「キナさん、依頼をギルドが受けられない理由ってなんですか?」

「危険度、時間、労力すべてが報酬に見合わないからニャ。そういった無茶な依頼を受けないのもギルドの仕事ニャ。」


 確かに日本でいえば報酬は1000円くらいなのに、森へ行って帰ってくるだけでも歩いていけば一日かかってしまう、さらに魔物もいるし割に合わない仕事というわけだ。

 でも、この報酬はただの大銅貨1枚ではない。サーラちゃんの全財産、気持ちがこもったお金なのだ。

 ならば答えは一つしかないか。


「キナさん、この仕事を受けたいという冒険者がいれば依頼は受けられるんですよね。」

「そうだニャ。まさか受けるつもりかニャ。」

「はい、ちょうど正式なギルド証ももらって門の外へ出ることも出来るようになりましたし。」

「そこまで言うならわかったニャ。手続きするからちょっと来てほしいニャ。」


 キナさんがちょっとあきれたような顔をしながら私たちに言う。サーラちゃんはちょっと呆けた後、とても嬉しそうに、かわいい笑顔を私に向けてくれた。


「ありがとう、おじちゃん。」


 ぐふっ、そこでダメージを食らうとは思っていなかったよ。サーラちゃん。

この話の公務員さんは実在のモデルがいます。やっぱりその人次第ですね。

読んでいただいてありがとうございます。

よろしければ感想などいただければもっと頑張れそうです。

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RINの外伝の小説を書いています。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。 「お仕事ですよ、メイド様!!」(飛びます) 少しでも気になった方は読んでみてください。
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