反乱(6)
私の突然の発言にジンさん達が足を止める。
「おっ、ユーリよくわかったな。」
「さすがフレデリック様の騎士でございますな。」
デリク様と執事がしたり顔でうんうんと頷いている。2人とは逆にジンさん達は驚いた顔で固まっている。
「ど、どういうことだ、ユーリ!?」
最初に再起動したのはジンさんだった。私の肩をがくがくと揺らしているのでちょっとデリク様が面白そうに笑っている。そういえばジンさんもデリク様の前では一応ちょっと言葉遣いとかに気を付けていたからな。
「落ち着いてください。」
私の言葉にジンさんが肩に置いていた手を外す。
「おそらくですが居室に王様はいません。」
「うむ、そのとおりだ。一応影武者はいるが父上はすでにそこにはおらん。どこにいるかは私にもわからないがな。というか襲撃が高確率であるとわかっているのにわざわざ危険を冒す馬鹿はおるまい。」
そんなことを堂々と胸を張って言ったデリク様に4人のあなたはどうなんですかという視線が集まる。その視線の圧にも負けずデリク様はその自信満々の表情を崩さない。こういうところはさすがだと思う。
「ではなぜ我々は危険を冒してまで王の居室へ向かっているのですか?」
「もちろん・・・兄貴を逆に嵌めるためだ。」
なんだろう。今まで王様の危機だと思って張りつめていた糸がプチンと切れてしまったようにデリク様の言葉が耳を抜けていく。
「そういうことは最初から言ってください!!」
「その方が緊張感が出るだろ。それに影武者とは言え我が国の大事な家臣であることに変わりはないんだ。覚悟しての役目だとは言えなるべく助けてやりたい。」
デリク様がぷいっと顔をそらし少し早口になりながら言う。その顔はほのかに紅潮しているように見えた。そうだった。デリク様はこういう人だった。
こういう人だからこそ私は仕えたいと思ったのだから。
「わかりました。ではデリク様の た い せ つ な家臣を助けるために急ぎましょう。」
「ユーリも言うようになったな。」
「はい。デリク様の騎士ですから。」
デリク様に向けて最高の笑顔を返した。
気合を入れ直し王の居室へ向かい走る。先程までは焦りが心の大半を占めていたのだが、今は急がなくてはという気持ちも残っているが、心の中に燃えるような思いがあり温かい。デリク様のためにも必ず助けてみせる、そう思わせる何かだ。
居室が近づくにつれて剣戟の音が聞こえてくる。良かった、まだ間に合う!
「ニールを先頭にジン、私の順で飛び込みます。後に続いてください。味方から攻撃される可能性もありますので注意してください。」
リイナさんの言葉に頷き、後ろについて部屋に突入する。そこには傷つきボロボロになりながらも剣を構えて立っている威厳のある40中盤ほどの王の影武者とそれを取り囲んでいる4人の騎士達、そして他の騎士とは違う意匠の凝った鎧を着たデリク様よりも少し年上の男がいた。社交会で見たことがある。あれがデリク様の兄だ。
「そこまでだ!!」
突然侵入してきた私たちに驚き、止まっていた騎士たちに対してデリク様の声が響く。それは普段とは違う人の上に立つものとしての威厳のある言葉だった。
「デリクか。ふんっ、あいつは失敗したようだな。役に立たんやつだ。せっかく俺が引き立ててやったのに。」
「私には信頼できる仲間がいたからな。兄貴の計画はもう破綻しているよ。そこにいるのが父上じゃないことはもうわかっているんだろ。」
その言葉に顔色が変わる騎士達を尻目に第一王子の顔は全く変わらなかった。いや少しずつ何かがおかしくてたまらないような表情に変わっていく。
「くっ、くっ、くはははははははは。俺の計画が破綻、そんな訳がないだろう。俺が生きている限り計画は続く。デリク、お前や父上には見えていないのだ。これから来る世界の変化が!暗躍する者共が!このままではこの国は飲み込まれる。それがわかっていないのだ!」
第一王子は狂ったように笑いながら、デリク様に向けて剣を抜く。笑っているのだがなぜか目がとても悲しそうな色をしていた。その目は国を憂う時のデリク様にそっくりだった。思わずデリク様の方を見る。そして気づいた。騎士達と別方向の窓際からデリク様に向かって矢が射られようとしていることに。
「デリク様、危ない!!」
咄嗟に剣を抜き、矢を弾く。キンっという音とジンさんの剣の打ち込みのような威力を持ったその矢は黒塗りの矢だった。
「キャハハハハ。まーた失敗しちゃった。いっつも君が邪魔をするよね。一回死ぬといいよ。キャハハハ。」
「お前は・・・」
そこにはあの少女がいた。あの時と同じ黒いフリルのついたドレスを着て。突入した時にはいなかった。気配察知に優れているジンさんにも気づかれずに侵入し、デリク様を攻撃するなんて普通ありえない。攻撃を防げたのも皆が第一王子を見ている中、たまたまデリク様を見たので気づいただけだ。あのまま第一王子を見ていればデリク様の命はなかった。
「はーい、迷宮ぶり。よく生き残ったね君たち。死ねばよかったのに。」
「何者なんだ、お前は?」
「かわいい謎の美少女だよ。キャハハハハ。あーあ、結構長い間頑張ったのに最後の最後でいろんな邪魔ばっかり。もー最悪。でももう私の手札はないからこれで終わりだよ。ゲームはルールを守らないと面白くないしね。」
少女が本当に可笑しそうにキャハハハハと笑い続ける。その異様さにこの部屋の誰もが少女に釘付けになっていた。
「じゃあ、さ・よ・な・ら。君たちはそいつの相手をするといいよ。キャハハハハハ。」
「待ちやがれ!!」
そう言うと少女は窓から外へ飛び出していった。ジンさんが追ったが窓の外をキョロキョロとしばらく見回してそして首を振った。
「すまん、見失った・・・っておい!」
ジンさんが驚愕の表情を浮かべある方向を指差す。その部屋に居た全員がその方向を見る。その指差されたひとりを除いて。
「兄貴!!」
そこには胸にあの黒い矢が刺さった第一王子が立っていた。自分の胸に突き刺さっている矢を信じられないものを見るかのように眺めながら何も言わずただ立っていた。そして膝から崩れ落ちると体を丸めるようにして床に転がる。
「ぐっがあああああ!!」
「兄貴!!」
第一王子から流れた血が床に伝い、絨毯に赤いシミがついていく。そしてその赤いシミが段々と緑色に変わっていく。体の表面がボコボコと泡立つように隆起し肉体が肥大していく。
「がぁああああ!俺が、オレガァ、コノクニヲ、守らなくテハァ、ギャアアああアア。」
鎧が弾ける。その下に着込んでいた鎖帷子が肉体に食い込みその圧に耐え切れなくなったのか弾け飛んでいった。
「デリ く、貴様さえ、キサマサエ、イナケレば、グあぁぁアアあああ!!」
誰も動かなかった。動けなかった。人が人ではなくなっていく光景に思考がついていかなかった。しばらくして叫び声が消え、肉体の変化が止まった。そこには第一王子の面影は既になく、真っ黒な肌をした身長3メートルのオーガが居た。
「団長!!」
取り囲んでいた騎士達が第一王子のもとへ向かう。第一王子はゆっくりと立ち上がり騎士達の肩に手を置くと、くきっと目に見えないほどの速さで首を折り、4人の騎士達は自分がどうして死んだのか理解しないまま永遠に意識を失った。
熱、怖いです。
思考がループするのとなぜかめちゃくちゃいいアイディアだと思ったことが後で考えると矛盾していて書き直ししたり。早く治さねば。
読んでくださりありがとうございます。