反乱(5)
ドン、ドンと扉を破ろうとする音に壁の抜け穴からデリク様の部屋へ入る。そこにはすでに鎧を着て剣を構えたデリク様といつもどおりの執事服に白いグローブの上に金属製の篭手をつけたあの執事がいた。
「よお、ユーリ。早かったな。」
デリク様が片手を上げていつもどおりに呼びかけてくる。
「早かったな、じゃありませんよ。なんですかこれは。こんな音を立てて、あいつら馬鹿なんですか!?」
扉の前には豪華なタンスが置かれ、簡単には開かないようになっている。扉の向こう側からの衝撃でそのタンスが揺れる。だがかなり重いのかもうしばらくはもちそうだ。
「馬鹿なんだろうなー。音なんか立てたら異変に気づいた騎士たちがやってきそうなものなんだがな。まあ兄につくぐらいだし周囲の状況も判断できない馬鹿なんだろうが、もし騎士の応援が来ないとわかっていて音を気にしていないならちょっとまずいことになるな。」
「そうですな。フレデリック様、そろそろ破られます。部屋の奥の方へ。」
「ああ。」
執事の言うとおりタンスが少しずつずれていき扉の隙間が広くなっている。もう少しで人が1人通れそうだ。
「ジン、リイナ。いつも通りで行くぞ。ユーリ様はフレデリック様の護衛をお願いします。」
「おうよ!」
「はい。」
扉から人が入ってくる。自分たちと同じ騎士の鎧を着けている。そいつはこちらを確認すると一瞬ぎょっとしたようだがこちらに向かって剣を抜き走ってきた。
「我らが大義のため死ね、フレデリック!」
そいつは早かった。ニールさんの槍に皮膚を割かれながらも避け、リイナさんのライトアローをかわし、一直線にデリク様のもとへ進んでいた。
「いや、無理だね。」
そしてもう少しで私のところまで来るといったところで横から飛び出たジンさんがそいつを斬りつけ、そいつもそれに反応し鍔迫り合いになった。
「うぬぅ、邪魔をするな!!」
二の腕の筋肉が盛り上がり、ジンさんが一瞬押されるかと思われたとき剣を構えた状態のまま受身も取らず横に倒れていった。
「うわっ、かすっただけでこれかよ。」
床に倒れて動かないそいつを見ながらジンさんが嫌そうな顔をする。
「ジン、遊んでないで手伝え!!」
ニールさんの声にそちらの方を見るとニールさんが3人を相手に盾と槍を使って応戦しているところだった。リイナさんのライトアローをけん制に使い、攻撃よりも防御に重点に置いて捌いていた。
「おう、悪い。」
2人でも互角に立ち会えていたところにジンさんが加わったことでほどなくして襲ってきた者達を制圧することができた。
「うむ、兄貴の分団の副分団長か。兄貴も本気だな。」
デリク様が最初に襲ってきた男の顔を持ち上げて確認する。
「かなりの使い手ですね。」
「ああ、剣の腕だけなら騎士団でも屈指の腕前だ。実績から言えばどこかの分団の騎士団長を任されても申し分ないのだが性格に問題があってな。副分団長止まりになっているな。」
「そうですな。平民出身の騎士を見下しておりますからな。」
執事さんがロープで襲撃者を縛り上げながら付け加える。今回も気付かなかったが本当にどこから縄を取り出しているんだろう。
「それにしても何をしたんだユーリ。こいつがこんなに簡単に倒せるとは思わなかったぞ。」
「ああ、それはジンさん達の仲間が用意してくれた複合毒のおかげですね。私も話半分に聞いていたんですが、これを見る限り効果は本当のようです。3日は動けず、治療も難しいそうです。」
「恐ろしいな。しかし今の状況では心強い。」
床に転がった4人の襲撃者は固まったままピクリとも動いていない。しかしこの毒が本当に恐ろしいのは体が全く動いていないのにおそらく意識があることだ。私達が話すごとに怒気が膨れ上がっていくのを感じる。意識があるのに動けない。何をされるかわかっていてもにげることも抵抗することも出来ない。この毒薬が悪用されればとんでもない被害が出る可能性がある。それがたまらなく恐ろしい。
「こいつらが音が出るのも気にせずに襲撃してきたことが気になる。父上のところへ行くぞ。」
デリク様の言葉を合図に、ニールさんを先頭にドアの隙間から慎重に出ていく。廊下に出るとそこにはこの部屋を警備していたのであろう騎士2人が折り重なるように倒れていた。リイナさんが2人の脈をとり様子を確認している。全員がその様子をじっと見つめる。リイナさんが何かを呟き騎士の体が光に包まれる。しばらく様子を見ていたが騎士達に変化はなく、リイナさんが首を振った。
「大丈夫、死んではいないわ。ただ私の魔法では治療しきれなかった。おそらくタイチにもらったのと同系統の睡眠薬ね。いつ起きるのかもわからないわ。」
「殴ったり、水をぶっかけたら起きるんじゃねえか?」
「無理ね。睡眠薬とは言ったけれど、どちらかというと気絶薬と言ったほうがいいかもしれないわ。自然に薬が抜けるのを待つか解毒薬でもない限り難しいでしょうね。」
リイナさんが唇を噛み締めながら立ち上がる。あの顔はよくわかる。自分の力量が足らず治せないことが悔しいのだろう。この1年以上私が感じていた感情だ。
「リイナ、実力不足を嘆くのは後だ。今は先を急ぐぞ。」
「ええ。」
ニールさんの言葉を自分の胸にも刻み、王様の居室へと進み始めた。
「良い騎士達ですね。」
「ああ、我が国自慢の騎士達だ。」
王様の居室へ向かう途中にはいくつかの扉がある。普通ならその扉の前に護衛の騎士が立っており、侵入者を撃退するのだが扉の前に騎士たちの姿はない。人1人が通れる程度開いている扉をくぐるとその扉にもたれかかり扉が開かないように押さえた格好のまま倒れている騎士達と壊れた扉の取手、そしてその取手にかんぬきのようにかかっていたであろう騎士の命とも言える剣が転がっていた。
意識を失う最後の一瞬まで王を守ろうとする騎士達の気概が見て取れた。
そんな騎士達を横目で見ながら、心の中で感謝を伝えひたすら走る。
「これは食事にでも盛られたかな。」
「その可能性が高いでしょうな。信頼できるものばかりのはずでしたが、申し訳ありません。」
「いや、いい。人の心の中までは推し量れぬものだ。」
私の後ろでデリク様と執事が走りながら原因について話している。その声にはまだ余裕が見え、息も乱れていなかった。王様の命の危機にしてはそれほど切迫しているように見えない。それに違和感を覚える。この感覚は覚えがある。
学生の頃に課題を全くやっていないように見えたデリク様をさんざん心配していたら、提出はとっくの前に済ませていてその心配する私を見て面白がっていた時に似ている。
「デリク様。この先に本当に王様はいらっしゃいますか?」
インフル治りませんねー。
見直しが出来ていないので誤字があったら教えてください。
読んでくださりありがとうございます。