反乱(4)
バタバタバタバタという城には似つかわしくない足音が響いている。というのもこの近くにポーション等の薬の保管庫があるらしく、そこに何人もの人が出入りしているからだ。
「本当に何のスキルなんだろうな?」
「普通に考えれば調教系のスキルなのだろうが規模が違いすぎる。」
「嫌なスキルよね。」
「そうですね。なにかしら条件はあるのでしょうが厄介極まりないです。」
北から王都へ向かってくる大量の魔物の群れの発見報告により現在城の騎士たちの多くは防衛任務にあたっており、物資の配備や支援計画のため多くの人々が走り回っている。この王都への魔物の到着予測は明日だ。
冒険者や騎士が多く、定期的に討伐に出ているため王都周辺の魔物は他の地域に比べて少ない。このような大量の魔物の侵攻など人為的なものでなければほぼありえない。というよりは十中八九あの得体のしれない少女のせいだろう。
「いつ動きますかね?」
「おそらく今夜でしょう。主要な騎士団は防衛に出ていますし、まだ魔物も来ていないから不意の遭遇なども起こりにくい。」
「まあいつでも動けるように準備だけはしておこうぜ。2週間も牢屋に入っていたから体がなまっているかもしれねえしな。」
「そうね。」
「はい。」
休息は十分に取った。あとは全力でデリク様をお守りするのみ!と気合を入れているとドアが開き、そして牢の鍵を外し全身鎧を着た騎士が入ってきた。
「やあ、ユーリ。」
聞きなれた声の騎士が兜の面をカチャっと開ける。
「デリク様!よろしいのですか?今この場所に来て。」
「ああ、身代わりは置いてきたからしばらくは気づかれないはずだ。それよりも時間が無い。用件だけ伝えるぞ。ユーリ・トンプソン。貴殿を私の親衛騎士に任命する。」
「えっ?」
間の抜けた声が聞こえる。自分の声だ。
「そしてジン、ニール、リイナ。指名依頼だ。短期の護衛騎士に任命する。期間はこの混乱が終わるまで。報酬はそうだな・・・。とりあえず1人につき大金貨1枚。追加報酬有りだ。いい条件だろう。」
「「「はっ?」」」
突然の騎士の任命宣言にさすがのジンさん達も驚いて固まっている。
「デリク様、いきなりどういう事です?」
「いや、どうせユーリ達が動くつもりならば混乱を避けるためにも騎士という立場が必要だ。それに今は信頼できる仲間がいる。そちらのジン達についても調べさせてもらったが実力、信頼共に申し分なかった。5級なのが信じられないくらいだ。」
デリク様の言葉を聞いて納得はいったが、その代わりにジンさんとリイナさんがず-んと言う感じに落ち込んでいる。
「そうだったな、俺ら5級なんだよな。」
「仕方がないわよ、ギルドの依頼受けていないし。むしろ死亡扱いで抹消されなかっただけましよ。」
「お前らいい加減にしておけ。次期国王様からの指名依頼だぞ。」
ニールさんの言葉に2人がばっと姿勢を正す。
「ありがたく受けさせていただきますと言いたいところですが。」
ニールさんが言葉を区切りジンさんを見る。そしてジンさんも頷く。
「我々は既にユーリ様の依頼で動いております。ですのでフレデリック様からの依頼を受けてしまっては二重に報酬を受け取ることになってしまいます。」
「冒険者の、いえ、我々の誇りにかけて報酬を受け取ることは出来ません。受け取ってしまえばそれはユーリ、様を裏切ると同義ですから。」
「確かに報酬は魅力的ですがそれだけのために依頼を受けているわけではありませんからね。」
「みなさん・・・」
傍から見たら馬鹿みたいなのかもしれない。次期国王の依頼を断り、私との、それも本当に報酬が払えるのかさえわかっていない依頼を選択するなど。でも私にはそれを3人が選んでくれたことが嬉しかった。
「うむ、感動しているところ悪いがこれは強制だからな。というより騎士にならなくては自由に城内も歩けないしユーリの依頼を果たすことも難しいだろう?」
その感動はあっさりとデリク様の一言で一蹴された。
「そうですね。」
「それに一国の王や王子を助ける働きをした者に褒美を出さないでは国としての常識を疑われるわ!」
その正論にぐうの音も出なかった。
デリク様はその後しばらく今後の予定を話した後、全身鎧をガチャガチャと鳴らしながら去って行った。そしていつもの執事が私達の装備とマジックバッグと騎士の鎧を持ってやってきた。久しぶりに持った自分の剣は良く手になじんだ。
執事に以前こっそりと渡されていた牢の鍵を返し、そして城の中の一室へと案内された。いや一室と言うよりは部屋と部屋の間の隙間のスペースにある空間だ。この隣がデリク様の私室になるそうだ。
「こちらでお待ちください。フレデリック様をどうかよろしくお願いいたします。」
「はい。あの・・・今までありがとうございました。」
執事は静かに微笑み、一礼して去って行った。
「こんな部屋があるんだな。」
ジンさんが興味深げに部屋を見ている。まあ部屋と言っても横幅は2メートルもなく何も置いていないただの空間である。外から見ても中から見てもそこに空間があると知っていなければ気づかないだろう。
「そうですね、貴族などはこういう部屋を作ることが多いです。極端な人になると屋敷が迷路のようになっていて順序通りに進まないと部屋にたどり着けないなんて人もいるくらいですから。」
「面倒じゃないのかしら。」
「まあその屋敷自体はもう使われていないらしいですけれどね。」
旅の途中で見せてもらった奇妙な屋敷のことを思い出す。現当主はその反動なのか本当に一般的な屋敷に住んでいた。その奇妙な屋敷はお客を驚かすために残しているらしい。
「よし、とりあえず打ち合わせ通り可能性の高い今夜は全員で、その後は2名ずつ交代で休憩を取りながら監視を続ける。」
「ジンとユーリ様が先に休憩で、次が私とニールね。」
「そういえばさすがに襲ってきた騎士を殺すのはまずいのか?」
「いえ、反逆してきた時点で死罪ですので問題はないと思いますが、なるべく生かして捕らえたいところですね。」
「どうするかな。」
4人で首をひねる。そしてジンさんが自分のマジックバッグを探りながらにやっと顔を歪める。
「アレ使ってみるか?」
「ああ、アレね。そうね。ユーリ様を見る限り効果はありそうよね。」
「ちょっと怖い気もしますけれど。」
「そうだな。効果があれば儲け物くらいに考えて試してみよう。」
もらった時はどう使うつもりなんだと思ったが今この状況では最適な物かも知れない。もしかしてこの状況を想定して?とも一瞬考えたがここまで来るまでにいくつもの偶然が折り重なってきたのだ。どう考えて用意したのかは今となってはわからないがただ感謝しよう。もしかしたらこれが切り札になるのかもしれない。
準備をし、ただひたすらに待つ。時間が流れるのが非常にゆっくりに感じた。
そして反乱は始まった。
やばい、インフルにかかったせいでストックがない。
せっかくの毎日投稿なので何とか更新していきます。
読んでくださってありがとうございます。