テンタクルの戦い(3)
「ははっ、最初からこうすれば良かったのだ!」
そう笑うディエゴを傭兵騎士たちは胸糞悪いと思いながらも、なにも行動しなかった。目の前で繰り広げられる状況は悲惨の一言だが、有効であることに変わりはない。
ディエゴの取った手段は、奴隷にその爆発する場所を歩かせてその後をついていくという方法だった。そこかしこで爆発に巻き込まれた奴隷が引きずられてきて、代わりの奴隷が投入される。怪我をした奴隷は簡単な治療された後、また投入されるのだ。
「ちっ。」
自分たちの稼業もそこまで綺麗な仕事ばかりではない。傭兵なのだから殺し、殺されるのが当たり前の世界だ。しかし少なくともこんな腐った真似をするものではなかったはずだ。
「抑えてくださいっす。」
「ああ、効果があるというのはわかっている。ただ俺はこういうのは好かん!」
「俺もっす。先輩、この仕事辞めません?嫌な予感がひしひしするっす。」
「ああ、俺もだ。」
その日、十数名の傭兵がその場を去っていった。ディエゴは怒り狂い、報酬を払わないとまで言ったが彼らの決意は固く変わらなかった。それが結果的に彼らを救った。
その日の夜、ディエゴは怒りで寝付けなかった。いままで散々良くしてやった傭兵達の一部が突如として去っていったからだ。この邪魔をしている奴にも腹が立つ。ここで足止めされている間にも同士はすでに集まっているはずだ。補給部隊であるディエゴ達が来ないのでは侵攻に支障をきたす。それでは計画が狂ってしまうではないか!!
「くそっ!」
飲みきったワイングラスを投げつけ叩き割りメイドに片付けさせる。
ワインを2本ほどあけ、酒もまわりウトウトとし始めたときそれは起きた。以前にもあったあの地響きとゴゴゴゴゴっと言う音だ。
「なんだ!!」
テントの外へ出る。まだ地響きは続いている。しかし辺りは真っ暗で、焚き火のそばに立って周りを警戒している傭兵騎士達しか見えない。新月ではないので月明かりで多少見えるはずなのだが。
「おい、何が起こった!?」
「わかりません。いきなり俺たちのいた地面が沈んでいってそして天井が塞がれました。」
「なんだと!!」
その後しばらくして地響きが止まり、そして何も起こらなくなった。ディエゴと傭兵騎士たちは地下50メートルの巨大な穴に閉じ込められたのだった。
「はーい。こんなもんでいい?」
「そうだね、じゃあこっちは任せるよ。一応空気穴は開けてあるけど風の魔札使って1時間に1回くらい空気を入れ替えてあげて。死なれても困るし。」
「りょーかーい。タイチはどうするの。」
「とりあえず、キリク様の所へ行ってくるよ。どうも領主の館に監禁されているっぽいし。」
「お土産待ってるねー。」
ルージュに手を振り、地面から馬を連れて出ていく。来ていた奴らは一網打尽にしたし街の付近で放してやればいい。帰りたい馬は帰るだろうし、逃げたいやつは逃げるだろう。その後にどうなるかはその馬次第だ。ボスの駄目豚が捕まっている今なら再利用されることもないだろうし。
門付近まで馬を引き連れていき、ポンポンと体を叩いてやるとほとんどの馬は街の門の方へ走っていった。まあ人に飼い慣らされて育ったなら人と生きるのが良いのだろう。その選択をだれも咎めはしない。野生は魔物に殺される可能性もあるし。
しばらく闇に潜みながらその様子を眺め、土魔法とアイテムボックスを使い地面に坂道を作り進んでいく。封鎖されている今の状況は街からも見えているし、その状況で街に来るなんておかしすぎるからまあ不法侵入するしかない。
地下をずんずんと進み、キリク様の反応を確認するとどうも領主の館の地下に幽閉されているようだ。じゃあさくさくと救出しますか。ということで。
「こんばんは。」
「んっ、ああ君か。君はいつも突然だな。」
壁をぶち抜いて登場したのに冷静だな。まあ今現在この部屋にはキリク様しかいないからこんな登場をしたわけだが。この部屋は地下にあるはずだが普通の豪華な部屋に見えるし、あるものが見えていなかったら囚われているとは思えないほどだ。キリク様はベッドから両足を下ろし腰掛けた状態でこちらを見る。
「とりあえず、なんで幽閉されたんですか?」
「テンタクルの各騎士団の団長達と私が領主の暗殺を企んだそうだ。」
「へー、証拠は?」
「さあな、後からでっち上げるのではないか。あの男は今は王都へ行くことを第一優先しているからな。自分の思い通りに動かない騎士団と私を足止めするためにはなんでもするさ。」
「あー、やりそうですね。じゃあさっさと脱出しますか。騎士団長とかも囚われているなら救出しないといけませんし。」
「すまんがそれは無理だ。この足についている鍵は特殊なものでな。ディエゴが持っている鍵でなければ開かない。私より先に騎士団長を救出してディエゴの暴走を止めるように言ってくれ!」
キリク様が両足に巻かれた鎖付きの足錠を見せながらこちらに懇願してくる。
「だが断る!」
「!!」
「いや冗談です。正体不明な私が説得するとか無理ですよ。それにこの街を指揮する人も必要ですし。」
アイテムボックスから開錠道具を取り出し、鍵の形状を探っていく。
「無駄なことだ。この鍵は特注品の属性付きの鍵だぞ。開錠できるとしても時間が・・・」
「ちょっと黙っていてください。」
鍵の形状を棒を何度も差し込み、ゆっくりと引き出しながら少しずつイメージをしていく。確かに形状自体は複雑に作られている。普通に開錠しようとしたら前の隷属の腕輪みたいに道具が足らなくなるほどだ。だがただそれだけだ。
「クリエイトキー!!」
魔石をすりつぶした粉末を手に取り、自分が想像した形状と一致するように土魔法で鍵を作り出していく。芯の部分には属性キーを差し込む溝も作成済みだ。
「ふぅ。」
属性キーを作った鍵に差し込み、光魔法を込めて鍵穴にいれひねる。カチャっという音を立てて足錠はあっさりと外れた。
「はい、じゃあ行きましょうか。」
「本当に何者なのだ、君は?」
「ただのシーフですよ。開錠は得意なんです。」
それから、キリク様に案内され本当の意味での地下牢に閉じ込められていた騎士団長達を救出して回った。一応フードを目深にかぶって顔を覚えられないようにしたけれど怪しさ爆発だっただろうな。そうして今、食堂にキリク様と4人の騎士団長(今は解任されて元になっているようだが)それに私が集まり情報交換をしている。
「・・・と言うわけでとりあえず駄目ブ・・・じゃなかったディエゴと護衛たちは地下に閉じ込めてあります。仲間が監視していますがなるべく早くそちらに引き渡したいですね。」
「そうしたいのは山々だが、騎士団内部の調査もある。誰がディエゴ派なのか確かめないことには再編も出来ん。最低でも2,3日は頂きたい。」
「まあ、そのくらいなら。それと馬車の馬は逃がしちゃいました。面倒見切れないので。」
「まあ仕方があるまい。問題は壁だ。街道を封鎖されては流通がストップしてしまう。この街にとっては致命的だ。」
「それなら2時間もあれば撤去できますからディエゴを受け渡してこれで大丈夫と判断出来たら防壁に青い旗を立ててください。そうしたら撤去を開始します。」
「2時間だと!?いや、わかった。それでは騎士団長の諸君。さっそく取り掛かってくれ。」
「「「「はっ!」」」」
騎士団長達が囚われていた疲労も見せずに走り去っていく。というかマイアーさんって騎士団長だったんだな。そんな重役が冒険者の実力を測りに来ていたのか。暇なのか?いやそれほど重要な任務だったんだろうと思っておこう。
「すまんな、恩にきる。」
「いえ、こちらの都合で動いたことです。それでは失礼します。」
キリク様を残し、ルージュのもとへ帰る。変な遊びをしていないといいが。
あっさりと主人公パートが終わるという。
まあそんなもんです。
読んでくださってありがとうございます。




