テンタクルの戦い(1)
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
生姜をみじん切りにし、熱したフライパンに入れ、薄くスライスしたシーサイドベアーの肉と軽く炒める。ジュっと油が溶け出してきたら水にさらしておいたささがきにしたごぼうを入れ、全体的に色が変わってきたら砂糖、醤油を入れて水分が少なくなるまでしばらく炒める。醤油と砂糖の香ばしい匂いが非常に食欲をそそる。
あとは味を見ながら醤油の量を調節し、最後に白ごまをかければシーサイドベアーのしぐれ煮の出来上がりだ。うむ、ご飯が進む味だ。
これを弁当に詰めて、とりあえず完成かな。うーん、ちょっと彩りが茶色いからパプリカを薄く切って入れておくか。あんまりヒナは好きじゃないけど。
「ほい、出来たよ。」
(わーい。)
ルージュに弁当を2つ手渡し、ルージュがわざわざ1度弁当を開けて確認してからアイテムボックスに収納していく。食い意地が張ってるな。誰に似たんだろう。
「それでそっちの状況に変化はない?」
(うん、昨日に続いて今のところ街道を引き返してるよ。ヒナは迂回する可能性もあるから一応しばらくは監視するって。)
「そうか。」
反乱するくらいだからもう少し粘るかと思ったけれど、あっさりと引いたな。まあ普通はレッドドラゴンを相手にした段階で逃げると思う。でもなんか腑に落ちない。何かしらの理由があるのか、それとも・・・。
「まあ、引き続き監視して今日変わりがなかったらとりあえずは里に帰ってもいいと思うよ。」
(りょーかーい。タイチの方はどう?)
「こっちは昨日1日と今日半日かけて準備は終わったかな。多少疲れたけれど。後は出てくるのを待つだけだ。」
(はーい。じゃあヒナとご飯食べてくるね。)
「じゃあね。」
ルージュの念話が聞こえなくなったので、お弁当の残りを食べてお昼ご飯にする。お弁当はどうしても詰め込むのを少量にして種類は多くしたい気分になってしまうのでなかなか大変だ。作ること自体は楽しいのだが、なんとなくバランスとか彩りとかが気になってしまう。しかも今は食べているところを見ることも出来ないから美味しいのかの感想も聞けないしな。
1人の昼食を終わらせ暇になってしまったのでどうせならといろいろと細工を追加していく。まあ使うことはないだろうけど威嚇くらいにはなるだろう。
翌々日、ついに街から馬車の一団が出てきた。30台ほどの大集団だ。そしてそれを護衛するある程度統率の取れた集団。うん、間違いないな。
「ルージュ、それじゃあ手はず通りに。」
「あいあいさー!」
ルージュは今、合計4体に分離している。私が乗っているクロスバイク。ここで人化している小径車、人化したルージュの乗るマウンテンバイク、そしてヒナのところにいるシティサイクルだ。耐久値が4分の1になっているので危ないし、魔法も最大効果も4分の1だからあまり戦闘にも向かない。ちょっと注意しないとな。
「では。」
「ゴー!!」
私が内側、ルージュが外側に30メートルほど離れてテンタクルの街をぐるっと取り囲むように併走していく。
「はい。」
「はーい。」
アイテムボックスに2日かけて取り囲んでおいた地面を収納し、すかさずルージュが取り出し壁を作っていく。私たちが通った後には幅30メートル深さ30メートルの溝とそれと同じ大きさの壁が出来ていく。
二人でアイテムボックスを使っているだけなので消費MPは2だ。まあ傍目から見たらものすごい大魔法を使っているように見えるんじゃないかな。
集団が抜ける前に余裕を持ってテンタクルを取り囲むように壁が出来あがる。
「はい、一周完成。じゃあ次行こうか。」
「はーい。」
私とルージュは作業を続けた。
ディエゴ・テンタクルは豪華な馬車の中でこの革命のことを思っていた。あのいけ好かない王が泣き叫びながら命乞いする様を見ることが出来るかも知れないと醜悪な笑みを浮かべながら。それを見ることが出来るのならこの面倒な馬車の旅でさえ楽しいもののように思えてくるから不思議なものだ。
メイドが持ってきたワインを飲みながらそろそろ眠ろうかと思っていた時だった。遠くの方からドーン、ドーンと響くような音が聞こえてきて馬車の動きが止まった。
コンコンっと馬車の扉がノックされる。
「なんだ?」
「申し上げます。前方に突然壁が出来ました。何らかの妨害工作だと思われます。」
ディエゴが馬車から身を乗り出して見てみると確かに大きな壁が辺りを塞いでいる。それも先程まではなかったはずのものだ。
「誰だ!?こんな大規模な魔法が使えるのは王宮魔術師長位のはずだぞ。まさか奴がいるとでも言うのか?」
「いえ、確認できておりません。しかし彼ならばこんな壁など作らずこちらを攻撃してくるはずです。」
「そう言われれば確かにな。」
攻撃こそ全てと言ってはばからない王宮魔術師長のことを苦々しく思い出す。それに奴は現在外遊中で国外に居るはずだ。ここにいるはずがない。
「よし、奴でないなら良い。魔法使いを使って道を開けろ。さっさとしろよ。」
「はっ!」
集団は進行を再開した。
「うわぁ。」
「おおっ。」
そこかしこで悲鳴があがる。しかし集団に危機感はない。あるのはイラつきだけだ。
突然出来た土壁の方に向かって歩いていると突然ズボッと地面が抜け、腰まで埋まってしまったのだ。それを笑ってみていた仲間もすぐに落とし穴に落ち、同じ姿になる。なまじ命の危険性がないため危機感は働かず、しかもその穴の大きさが丁度馬車の車輪がはまる幅であるためその穴を避けて馬車を動かさなければならない。進行は非常に遅々としたものになった。
「くそっ、ガキみたいな罠のくせに。」
「ああ、危険性がないから逆に面倒だ。」
護衛の騎士たちの中に罠を発見するスキルを持っているものはいない。王都を侵攻するためと物資の護衛が任務であり、罠があることを想定していないからだ。スキルは剣術や槍術などでそれらは優れているがこのような事態は想定外だ。危機察知のスキルを持っているものもいるが命の危険のないこのような罠では反応しなかった。
「おい、領主様から早く進めって伝令が来たぞ。」
「わかっている。くそっ、言うのは簡単だよな。」
そんなこんなでなんとか壁の手前の溝まで着く。幅30メートルほどの溝だ。
「おい、これどうするんだ?」
「土魔法使いが数人いるからそいつらを使って道を作るらしいっす。」
「どのくらいかかるんだよ?」
「さあ?」
数人の魔法使いが代わる代わる魔法を使っている様子が見えるが一向に埋まっているように見えない。彼らが覚えている魔法はあくまで攻撃に関するもので工事などに使う土魔法は専門の学校や職人同士で学ばなければ使えないため非常に効率が悪いのだ。
「おい、あれを続けるつもりか?」
「そうじゃないっすか?」
「少なくとも今日はここで足止めだな。野営の準備をするぞ。いや、それよりも一旦町に帰るか?おまえ、領主様に聞いてこい。」
「えー、絶対怒られるっすよ。俺のせいじゃないのに。」
「下っ端の宿命だと思え。」
「ちぇ。」
後輩の走っていく姿を見ながら一応周囲を警戒する。この壁を作ったやつが襲ってくる可能性もあるからだ。しかし何事もなく、溝は相変わらず遅々としてしか埋まっていかずそして街へ帰ることも許されず夜を迎えるのだった。
いよいよ主人公です。
物語りもだいぶ佳境に入ってます。
読んでくださりありがとうございます。




