街道での戦い(2)
(レオノール、あともうちょっと東ね。)
(いいよー。)
上空100メートルほどのところをレオノールが飛んでいく。地上でたまたまその姿を確認した商人たちが鍋をひっくり返したり、馬に乗って逃げようとしたりしている様子が見える。
「まさか私がドラゴンライダーになるなんてニャー。」
ヒナは初めて見る空からの景色を楽しみながらしみじみと言った。
この里の猫人族にとってドラゴンライダーは特別な存在だ。はるか昔に猫人族を救ってくれた英雄であり、ある意味で神のごとく敬われている。それもあってか猫人族の里人のレオノールに対する思いは、一般的な恐怖ではなく畏敬であり、子供たちからはかっこいい英雄のように思われている。
飛竜便のようなワイバーンに乗るのでも希少なのに普通のドラゴンに乗る機会に恵まれ子供のころに話を聞いてあこがれた状況に少しわくわくする気持ちを抑えきれなかった。
(ヒナ、見つけたよ。ほらあれ!)
(うん、なんかいっぱいいるね。)
(あー、確かにいるニャ。)
眼下の1キロほど先の方に豆粒くらいの行列が街道を進んでいる様子が見える。一部は馬に乗っているがほとんどが歩兵だ。先頭に槍を持った歩兵、次に馬に乗った騎兵、次がローブを着ているのでおそらく魔法兵、続いて豪華な馬車があるから司令官がいて、後ろは弓兵と槍を持った歩兵だった。
(注意するべきは魔法兵だけかニャ?)
(200くらい?)
(おそらくニャ。まあドラゴンを前にして戦おうと思う魔法兵がどれだけいるかわからないけどニャ。)
(だよねー。じゃあ準備してっと。レオノール上空を飛んでね。魔法にだけは気を付けて。)
(はーい。)
レオノールが騎士達の上空を見せつけるかのように飛んでいく。騎士達も気づいたようだが攻撃は飛んでこない。まあそれはそうだ。ただ通り過ぎるだけかもしれないのにいたずらに攻撃して被害を出すほど馬鹿じゃあるまい。
「「せーの!」」
上空を通り抜けながらマジックバッグからとりだした紙を放り投げていく。紙がひらひらと舞い落ちていく。それを2往復ほど繰り返し用意した500枚の紙が無くなったところで騎士団の進行方向の街道沿い5キロの所に着地し、しばらく様子を見る。
(来ると思う?)
(あー、全く何もせずに撤退ってことは無いと思うニャ。でもしばらくは休憩かニャ。)
(おなかへったー。)
(さっきタイチにごはん頼んでおいたからちょっと待ってね。)
ルージュがアイテムボックスからお弁当二つと巨大なマグロとシーサイドベアー2匹を取り出す。
ヒナがお弁当を開けるとそこにはブリの照り焼きをメインに、エビフライ、つぶ貝ときのこのバターソテーといった海産物満載の1段目と白米と卵焼きやミニトマトなどの彩り豊かな2段目の特製弁当が広がっていた。アイテムボックスなので料理はまだ温かく、フライ系はさくさくでおいしそうな匂いを漂わせている。
「いやー、こんなところで海産物を食べられるなんてルージュ様様ニャ。」
「でしょー。タイチもあっちはもう少しかかりそうでまだ余裕がある言ってたから張り切ったみたいだね。」
「そうだニャ。なんか前よりも料理が美味しくなった気がするニャ。」
(おいしい。マグロっておいしいね。)
充実のお弁当タイムはしばらく続くのだった。
「あっ、ヒナ。来たみたい。10人くらいの人間が近づいてくる。前方やや左の方から。」
「へー、隠密のスキル持ちの斥候部隊って感じかニャ?」
「まあそうじゃない?マップにあっさりと映るから意味がないけど。」
「あー、まあマップを持っている人自体が少ないからニャ。じゃあとりあえずけん制するかニャ。」
(レオノール、おねがーい。)
(いいよー、しゅぎょうのせいか、みせちゃうね。)
首をくるんとして円のような形で伏せていたレオノールが首を持ち上げ、斥候部隊の方を見る。
「GRUU、GRU!(ファイヤーサークル!)」
レオノールの口の前に大きな炎が生まれ、それが回転をしていきながら大きな輪を作っていく。直径6メートルほどの大きさの輪になるとその輪が斥候部隊の方へ向かって飛んでいった。
「おおー、きれーい。」
「まあ確かにニャ。」
空中を炎の輪が飛んでいく光景は確かに綺麗だ。しかしその飛んで行く輪の真下の草が熱で焼き尽くされている。この辺りは水分を多く含む草が多いため延焼はしていないがその桁違いの威力がわかる光景だ。
炎の輪は斥候部隊の手前10メートルほどの地面に当たる。ドゴォンという大きな音とともにあまりの熱に土の焼ける匂いが辺りに広がる。
(修行頑張ったね。)
(うん。)
(でも当たった後、炎が吹き上げる感じだと面白くない?)
(あっ、たしかにそうかも。)
(じゃあ、次はそうしてみよう。)
(はい、ルージュせんせい。)
不穏な会話がされている中、ヒナは斥候部隊の監視を続けていた。眼前でファイヤーサークルの爆発を受けた斥候部隊の先頭にいたものは、肌がさらされていた部分に火傷を負い、爆風で吹き飛ばされていた。今は後ろから来ていて比較的怪我をしなかった者に何か飲まされている。おそらくポーションだろう。そしてそのまま動けない仲間を背負いながら後退していった。
「ふぅ、とりあえず。これで本当だとわかったかニャ。」
「そうだねー。紙を見ても信じなかったかもしれないしね。」
上空からヒナとルージュがまいた紙に書いてあったのはただ一言。
「先に進もうとするならドラゴンが相手になります。」
タイチが土魔法で作った判子を使ってヒナとルージュがペタペタと押して2時間ほどで作り上げた力作だ。長々と説明するよりもインパクトがあるし、何より紙の使用量を減らせるのでこの言葉になった。
「後は斥候部隊の報告を受けてどう動くかだねー。」
「帰ってくれるとありがたいんだけどニャ。」
「そうだねー。僕もミーシャの晩御飯食べたい。」
(おなかいっぱいだし、ちょっとねむたいから、ねむるねー。)
「「おやすみ」ニャ。」
緊迫した状況であるはずなのに全く緊張感がない2人と1匹だった。
一方そのころ斥候部隊の報告を受けた騎士団の首脳陣は頭を悩ませていた。
「どうするのだ。レッドドラゴンだぞ。」
「あの紙を見た時はふざけるなと思ったが。」
「どうされますか?隊長。」
隊長と呼ばれた若い男は目がしらに深いしわを刻みながら黙考していた。男が領主に受けた指令はメルリスで補給部隊と合流し王都へ進軍すること。第一王子の革命が成功すればそれでいいし、失敗した場合は自分の独断で行ったこととし、領主へ害が及ばないようにすることであった。いわゆる捨て駒である。自らの意思で選択したことではないが、受けざるを得ない事情があった。
命令は絶対、しかしこの遠征に文句も言わずついてきてくれた自分の部下達を絶望的な戦闘に送り出すことも決意が出来なかった。
「この紙通りということなら迂回して進もうとしても駄目だろうな。幸いあちらから積極的に攻撃してくるつもりは無いようだ。そして斥候があっさりと見つかったところを見るとドラゴンを操っている者はかなりの察知能力があるらしい。不意打ちは無理だろう。」
「では、どうされます?」
「部隊を半分に割る。こちらでドラゴンをけん制して足止めする部隊と、森を迂回しメルリスを目指す部隊を作るぞ。動いてみてドラゴンがどう反応するか確かめる。」
「「「はっ!」」」
それぞれの部隊へ戻っていった年上の部下を見ながら隊長がひとりごちる。
「何も出来ないかもしれないよ、義父さん。」
その言葉を聞いたものはいなかった。
圧倒的な戦力差です。
盛り上がるのは逆なんですけどね。
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