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RIN ~共に生きる異世界生活~  作者: ジルコ
第五章:それぞれの戦い
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イーリスの異変(4)

「まだ撃つなよ。よーく引きつけろ!いくぞ、撃てー!!」


 合図に合わせて、魔法が、弓が、石が飛ぶ。防壁の前の堀に手間取っている魔物たちを上から無慈悲に攻撃していく。


「第二撃目、用意、てぇー!!」


 再びの攻撃により先程よりも多くの魔物たちが倒れる。

 冒険者と騎士の混合部隊による防壁からの攻撃は順調だった。敵勢力に防壁を突破できるような魔物は存在しておらず一部の魔物を除いて正面からそのままぶつかってきたのだ。このまま行けばこちらの損害なくして撃退も可能かと思われた。


「隊長。思ったより楽そうですね。」


 防壁よりの攻撃を指示された第二分団の隊長のもとへ騎士が戦況の報告へやって来ていた。


「ああ、しかし普通の魔物ならこれだけ一方的にやられたのなら逃げ出す個体も出てくるはずだ。だが一向にその様子がない。それが不気味だ。」

「確かに。」

「なんにせよやることは変わらん。武器と魔力の残りに気を付け引き続き殲滅しろ。第二分団の強さを知らしめろ!!」

「はっ!!」


 部下が走っていったのを見送りながら第二分団長は自らの胸に去来する一抹の不安がなんなのか考えを巡らせていた。





 そのころ第三分団は街の外にいた。正面を迂回しようとする魔物を殲滅するためだ。


「いくぞ、第三分団猛者たちよ。一匹残らず殲滅しろ!!」

「「「おー!!」」」


 騎士たちが隊列を組み魔物に向かって駆けていく。魔物の数も多いが騎士は誰ひとり脱落することもなく魔物を倒していく。

 騎士団の強みは個にして全であること。騎士団全体が個人を守る鎧であり、そして剣である。一人一人の技量もさる事ながら訓練によって培われたその動きはまるで一つの壁が動いているようであった。


「ヒュー、相変わらずすごいね。じゃあこっちも仕事分の働きはしますか。」


 冒険者たちも負けてはいない。魔物と戦うことについてはこちらのほうが専門だ。確実に弱点を突き、パーティで連携をしながら魔物を倒していく。


「まあ、こんな何もない辺境でも俺達は好きでいるんだ。だから・・・死ね!!」


 心臓を突き刺されたゴブリンが倒れる。戦況は一方的であった。





「順調、だな。」


 言葉とは裏腹にその声の調子は優れず、エルラドの顔も引き締まったままだ。


「はい、現在魔物の約7割を南門城壁より第二分団が対応、迂回した3割についても第三、第四分団で問題なく対応できています。このまま進めばこちらの被害を最小限に抑えたまま殲滅できるかと。」

「わかった、引き続き気を引き締めていけ。あと第一分団にくれぐれも注意しろと伝えろ。」

「はっ!」


 報告に来た騎士を伝令として戻す。戦況は確かにこちらに有利だ。


「どう思う?」

「そうですね、一言で言えば簡単すぎる、ですかね。」

「そうだな、これだけの魔物にこの街を襲わせるだけの手間をかけた割にこんな襲撃というのは不自然だ。なにかしら策があると考えるのが普通だが・・・」

「第五分団に今のところ不自然な動きはありません。」

「そうか。」


 何かあるとすれば第五分団だと思っていたが当てが外れたか。


「まあいい。起こってもいないことを考えすぎて動きが鈍くなる必要は無い。相手の想定以上の速度で殲滅すれば済む話だ。」

「はい。では部下には街中及び第五分団を引き続き注視するよう伝えておきます。」

「頼んだ。」


 部屋の中から気配が消える。


 はぁとエルラドがため息をつく。


 父から代替りして自分で戦うこともめっきり無くなった。騎士をしていた頃はただ目の前の状況を判断し敵を殲滅すればよく、気楽だった。そして今、自分が判断を誤ると大勢の騎士が死ぬ立場になった。自分にはむいていない。だが、やるしかないのだ。


「剣を振っている方がむいているのだがな。」


 自嘲した笑みを浮かべ、それをすぐに消すとやってきた騎士への対応をするのだった。





「本当に避難しなくていいんですか?ワクコさん。」

「行かないわよ。魔物が来るかもしれないから自分の工房を離れるなんて職人の風上にも置けないわ。」

「普通に道具とかをマジックバッグに入れて避難すればいいのでは?」

「そういう問題じゃないのよ。あんたこそ避難したらどうなのよ?」

「ワクコさんに死なれたら研究が完成しないじゃないですか。」


 鉄製の輪や剣、そのほかよくわからない棒など雑多なものに埋め尽くされた工房で2人の男女が言い争いをしていた。ワクコとネロだ。避難勧告は出ていたが住人の中にはこの2人のように家に残っている者も多い。その多くは火事場泥棒対策として残っているのだが、そうでない者もいる。


「それではいつも通り試作品でも作りますか。」

「そうね。今のところいいところまで行ったのは35番と52番と78番よね。非接触系の魔法ならどんな剣でもある程度いけるけど剣を剣として使うとなると強度の問題があるから厳しいわね。とりあえず混合比を変えた剣をいつも通り数種類用意してあるわ。」

「じゃあいきますね。84番。」

「はい、どうぞ。」


 ネロが剣に魔力を通し、水弾を飛ばして板に当てる。そして木を切り、また水弾を飛ばす。これを何度も繰り返す。


「はい、いいわよ。とりあえず10段階評価なら5ね。」

「そうですね。やはり切り続けると魔術式が変形して発動できなくなります。魔力の伝導はいいのですが強度がイマイチですね。」

「じゃあ、次。」

「はい、85番。」


 同じように実験し、ノートに記録を取っていく。今回の結果もあまり芳しくはないようだ。


「あー!!やっぱり駄目ね。」

「まあ研究は地味な努力の積み重ねですから。本当の失敗とは途中で諦めることですからね。」

「わかっているわよ!職人も一緒なんだから!」


 86番の実験に入ろうとしたところで気づく。


「ねえ、なにか焦げ臭くない?」

「おやっ、そういえばそうですね。火の魔術式は使っていませんからここではないはずですが。ちょっと見に行きましょうか?」


 工房から出て外を見る。


「なによ、これ?」

「いやはや、これはまずい。」


 2人の目に飛び込んだのは街のいたるところで煙が上がっている状況。一番近いところでは2軒隣の武器屋の壁から火が出ている。このままだとワクコの工房まで火が燃え移りそうな勢いだった。


「ちょっと、なんで街の中で火が燃えてるのよ!」

「いや、そんなことを私に言われましても。あっ、騎士の方がいらっしゃいましたよ。」


 2人の騎士が慌てて火を消そうとしているが焼け石に水状態だ。まあ普通なら周囲の住民が手伝って消すし、水魔法を使える魔法使いが対応してくれるが今の状況では明らかに手が足りていなかった。


「ちょっとちょっと、このままだと私の工房まで燃えちゃうわよ!!」

「うーん、仕方がありません。失敗品ですがあれを投入しますか。」

「失敗品?ああ、あれね。まあ確かに火は消えるだろうけど。」

「まあ、背に腹は変えられないと言いますし。」


 2人が取り出してきたのは一台のバイシクルだった。それを持って2軒隣で火を消そうとしている騎士の元へ向かう。


「君たち、すまないが手伝ってくれ。」


 騎士の1人がところどころすすで黒くなりながら助けを求めてきた。


「火なら消すわよ。というか危ないからちょっと離れてなさい。」

「よろしければこのバイシクルを支えるのを手伝ってもらえますか?さすがにワクコさん1人では危ないので。」

「何を言っているんだ君たちは。」


 戸惑いを隠せない騎士にワクコが胸を張りながら自信満々に答える。


「火を消してあげるって言ってるのよ。ちょっと派手になるけど、このワクコーリアルに任せなさい!」

「何をって、ワクコーリアル?あのワクコーリアルか!!」


 騎士の顔つきが変わる。ワクコーリアルといえば今イーリスで一番の有名人。バイシクルやホビーホースを買いに商人が多く訪れるようになったためイーリスの物価は安くなり、今までなかったような珍しいものも増えてきている。騎士の娘が遊んでいるホビーホースもワクコーリアルの工房のものだ。


「あのが、どのかはわからないけど私は私よ。」

「それで、どうすればいい?」

「えっと、私がこのバイシクルを漕ぎますので抑えていてもらってもいいですか?ちょっと反動があるので怖いんですよ。」

「ああ、わかった。」


 バイシクルにネロが跨り、その車体を屈強な騎士2人が固定する。


「じゃあ、いきます。」


 スタンドで空中に浮いた後輪をペダルを回して回転させていく。そしてそこに魔力を流していく。後輪の上の筒状になっている荷台の部分に水が大量に溜まっていく。


「おい、大丈夫なのか?」


 すでに水は人よりも大きくなっている。


「えっとあと3秒です、2、1、0。」


 ネロがそう言った瞬間に溜まっていた水がとてつもない勢いで後部へ吹き出し炎を消してしまった。しかしその勢いで窓や扉が壊れてしまっている。反動で前に進みそうだったが屈強な騎士のおかげで大丈夫だった。


「相変わらず危ないわねー。」

「いや、作った本人が言わないでくださいよ。」

「水を加えれば反動で早くなりますって行ったのはあんたじゃない!」

「いや、それはそうですけどね・・・」


 言い争いを始めた2人に騎士が待ったをかける。


「すまないが、非常事態なんだ。けんかをやめて手助けして欲しい。一刻も早くこの火を消さねば街が立ち直れなくなってしまう。」

「うーん、わかったわ。ネロ、あんたはこのバイシクルを騎士さん達に持ってもらって火を消してきなさい。私は試作品の剣を持って回ってくるわ。水魔法の剣だし役には立つでしょ。」

「わかりました。じゃあ私は近場からここから半時計周りに回っていきますのでワクコさんは逆回りでお願いします。」

「わかったわ。じゃあさっさと終わらせて実験の続きをするわよ。」


 ワクコとネロはそれぞれ反対方向に走っていった。一刻も早く実験を再開するために。

自転車でポンプ車のようなものを作って市民消火隊が消すという案もあったのですが。

ちょっと無理がありますよね。

読んでくださりありがとうございます。

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RINの外伝の小説を書いています。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。 「お仕事ですよ、メイド様!!」(飛びます) 少しでも気になった方は読んでみてください。
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