イーリスの異変(1)
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皆様のお陰です。ありがとうございます。
記念投稿で本日二話目です。
「魔物の大発生だと!どういうことだ!?」
「わかりません。兆候はありませんでした。数はおよそ4千から5千。真っ直ぐこちらに向かってきます。このままいけばあと8時間程度で街に着きます。」
「各分団長、担当大臣及び冒険者ギルドのギルド長を呼べ!」
「はっ!」
礼もそこそこに急いで出て行った騎士を見ながらイーリス領主であるエルラド・イーリスは大きなため息をついた。
「おい、どういうことだ?」
エルラドがそばに立っているメイドに尋ねる。
「いえ、こちらにもそのような情報は入っていませんでした。最近はエルラド様のご命令で別の任務に多くの配下がついていましたので、いつもより外の警戒が薄れていたのは確かです。それでもこれだけの規模ならば事前に兆候ぐらいは察知できたはずです。」
メイドは表情を崩さず、ただ淡々と答える。
「チッ。と言う事はこの大発生は人為的なものか!?」
「はい、おそらく。」
「・・・お前もうちょっと愛想よくできないのか?」
「エルラド様には必要ないでしょう?」
そう答えたメイドにエルラドはにんまりと笑う。
「ああ、俺に、いやこの辺境に必要なのは実力のみ。では俺は行く。全力で情報を収集しろ!」
うやうやしく礼をしたメイドを残し、謁見室を出る。メイドの礼がいつもと違ったことに苦笑しながら。
私室にてしばらく以前の記録を確認し、エルラドが会議室に入る。会議室に集まっていた関係者が一斉に立ち上がりエルラドに対し臣下の礼をしようとする。
「いらん。会議を始めるぞ!第二分団報告!」
「はっ!魔物の主力はフォレストウルフなどのイーリス南部の森に生息している魔物達です。ただ、森ではあまり見かけないゴブリンやオークを見たとの情報もあります。現在偵察隊を送り情報を確認しています。」
立ち上がり報告した第二分団長が腰を下ろす。
「次、避難状況!」
「はっ!現在街には厳戒令を発し、順次こちらへと避難するよう誘導しています。街の外につきましては部隊の半数を使い冒険者、狩人などに街へと戻るよう伝えています。ですが・・・」
「なんだ、さっさと言え!」
「きこりが数人森へ入っていると言う連絡が入っています。」
エルラドは一瞬だけ考えた。そして判断を下す。
「今から行っても間に合わん。後4時間ほど巡回を続けて戻ってこい。」
「はっ!」
「次、防壁関係!」
文官が立ち上がる。
「森方面の防壁に関しては問題ありません。北の先日ヒビが発見された箇所については一報を聞いた段階で土魔法による応急修理を開始しております。バリスタ、投石等については問題ありません。」
「急がせろ!次、備蓄関係。」
「食料に関しては1か月、回復薬、武器、防具等に関しては1か月以上十分にもつ量があります。保存食であるため市民から不平が出る可能性がありますが。」
「言わせておけ!非常事態だ。」
「わかりました。なるべく不平が出ないよう考えます。」
そう答えた大臣が座る。エルラドは座っている面々の一人一人の顔を見回す。
「状況は把握できたな。愚かにも魔物がこの街を襲いに来るらしい。第一分団!」
「はっ!」
「市内の警戒を行え。この機に乗じて犯罪を起こす者がいれば即刻切り捨てろ!」
「はっ!」
「第二分団!」
「はっ!」
「防壁上の警護につけ!魔物をぎりぎりまで引き付けてから攻撃しろ。無駄打ちするなよ。」
「はっ!」
「第三、第四分団!」
「「はっ!」」
「それぞれ東、西門付近で待機。魔物の群れがこの街を襲えばいいがこの街を無視して進む者が出るかもしれん。その対応をしろ!」
「「はっ!」」
「第五分団!」
「はっ。」
「北門で待機し、第三、第四分団から抜けた魔物がいた場合に討伐せよ。」
「はいはい。しっかりやれよな、三、四。」
「貴様!!」
あまりの物言いに第三分団長が席を立ちあがり詰め寄ろうとするのを第五分団長は座ったままあざけりの目で見ていた。
「お互いやめろ!今は時間が無い。」
エルラドがぎろりと第五分団長をにらみつけながら止める。そしてごほんと咳をして集まった全員を見据える。
「喜べ。この国で最強の盾がどこか知らしめる絶好の機会だ。イーリス精鋭の騎士たちよ、己が知恵を、武勇を、技術を見せつけろ。我らイーリスこそ最強だと知らしめるのだ!!」
「「「「おー!!」」」」
士気が上がったことに満足し、この空間で1人だけ浮いている男に目を向ける。
「ギルド長、現在の状況はどうだ?」
「はい、運よくほとんどのパーティが街へ戻っていましたので被害はあまりありません。現在は緊急依頼を出して待機中です。」
「よし、弓、魔法などの遠距離攻撃を使える者を第二分団に合流させ防壁の上から攻撃をさせてくれ。残りの者は第三、第四分団と合流させ万が一の討伐に加わってもらう。」
「パーティ単位を分けるのは反発を招きかねないかと。」
「わかった。それではパーティ単位で第二分団に合流。その後こちらの判断で第三、第四分団にパーティ単位で合流してもらう。」
「わかりました。そのように取り計らいます。」
「頼むぞ。ではこれで解散とする。各自自身の為すべきことを為せ!!」
「「「「はっ!」」」」
その声に会議室が震え、そして関係者が席を立ち急いで出ていく。エルラドは最後の1人までその姿を見送りため息を吐く。
「くそっ、厄介者め!」
毒づく対象は言うまでもなく第五分団長だ。貴族でしかも実力もあるため分団長となっているが、その性格は自分勝手で目立ちたがりそして他者を見下している。エルラドにとっては気に入らないが戦力としては魅力であった。
彼がまとめる第五分団についても粗暴で他の分団でつまはじきになった者や、他の貴族からの推薦などで騎士にはしたものの身元がはっきりしない者などを寄せ集めた分団だ。他の分団の半数に満たない500人以下の分団であるがそのせん滅力はイーリス1と言っても良かった。
「勝手な行動をとらないか監視するように伝えておくか。」
エルラドは会議室を出た。謁見室にいるであろうメイドに会うために。
何人がこの領主の名前を覚えていたでしょうか。
私自身うろ覚えで見直しました。
読んでくださってありがとうございます。




