ユーリの旅
「それではデリク様、しばらくは会えなくなりますがゆめゆめ油断はなされぬよう。有事の際は必ず駆けつけます。」
「ああ、信じている。」
デリク様と握手を交わす。本来なら許されるべき蛮行であるだろう。しかしデリク様はそれを望み、私もそうしたいと思っていた。
私とデリク様は18になり、学園を卒業した。本来ならばテンタクルへ戻り父の仕事を習うべきだ。しかし私はこれからこの国を見て回ることにした。きな臭い動きがあることを父から聞いたからだ。
デリク様は第二王子ではあるが王位継承権は第一位だ。デリク様の兄の第一王子は側室の子供であるため正室の子供であるデリク様の方が継承権は高い。
ただ第一王子は剣術の才があり、今では王都の騎士団の一部隊の隊長をしており軍部に影響力を持ち始めていた。そしてこの国をより良くするためには軍備を増強するべきだと再三、王様に対して進言を行っていた。それに王様とデリク様はそろって拒否の姿勢を示した。軍備の増強は他国との緊張を高める。他国にそのような動きがない状況でこの国がそのような動きをすればそれは侵攻の準備をしているととらわれかねない。当たり前のことだ。
第一王子は表面上諦めたように見せ、裏で何らかの計画の協力者を募っているらしいというのが父が掴んだ情報だった。なぜ「らしい」と言うかというと第一王子自身に動いている様子が見えないためであり、そして協力者と思われる貴族どうしが接触している様子がないからだ。デリク様自身も確信が持てないと言っていたが父がそう判断したのはテンタクルの領主補佐という立場で長年働いてきたことで領主の少しの変化にも気づいたということと偶然領主1人しかいないはずの部屋から会話が聞こえてきたかららしい。拾った単語は「計画」「王子」「魔物」。それ以上は人が近づいてくる気配があり無理だったそうだ。
その後、父自身のつてを使い普段と多少違う行動をしている貴族を調べ上げた。そのリストに従い私は国を回る予定だ。表面上は領主の仕事を学ぶ旅として。そして第二王子の友人と認知されている私が回ることで牽制を行うために。
そして護衛の騎士5名、メイド2名、5年前から私の専属執事となったウーノとともに馬車の旅が始まった。貴族のしかも伯爵位の次期当主が旅をするにしては明らかに少ない。ただこれには狙いもあった。私の動きを邪魔だと思う者がいた場合に襲いやすくするためだ。もちろん騎士は家の中でも腕利きの者を連れてきている。死にたいわけではない。だがどんなものでも情報は欲しい。その折衷案だった。
リストに従い街を回る。伯爵の次期当主であるため表面上歓迎をしてもらえる。そこで父の協力者と接触し、どんな変化があったのかどこが怪しいのかを確認し、視察目的としてその場所を見せて欲しいと依頼する。さすがに露骨に拒否されることはなかったが、中には明らかに話題を逸らしたりする者もいた。その反応を確認し、街の様子や自分自身が感じた違和感などをまとめ協力者に渡し、父とデリク様にそれぞれ手紙を送っていった。
旅は1年ほど続き、辺境都市イーリス、迷宮都市メルリスを残すのみとなった。この長い旅のせいで2人のメイドは体調を崩したためテンタクルへ帰らせた。その護衛として騎士も2人減っている。ウーノがメイドの仕事をすべて出来たため助かった。減った騎士の代わりに腕利きの信用できる冒険者を雇うことになったがその冒険者たちは騎士よりもなにかと役に立った。さすがに旅慣れた冒険者なだけあり、魔物への対応、地理の把握が段違いだった。
「いよいよこの旅も終わる。」
「そうでございますね。」
「ウーノにもだいぶ負担をかけた。」
「もったいないお言菓です。イーリスもそろそろ終わりですし、また冒険者を雇うのですが1つ私に提案がございます。」
ウーノがモノクルをくいっと上げながらこちらを見る。
「失礼ながらユーリ様は他の貴族の子と違い、Lv上げをされておりません。今後の安全を確保するためにも次のメルリスの迷宮にてある程度のLv上げをなさってはどうかと?」
「確かに・・・」
普通、貴族の次期当主ともなれば小さいころに護衛の騎士にしっかり守られたうえでLv上げをしてしまうのが一般的だ。その方が能力も上がるし、何かあった時の生存確率も上がるからだ。
しかし私はあまりにも優秀な兄がいたためそういった貴族としての当たり前のことをほとんどしていない。学園そしてこの旅で多少は上がっているが一般的な貴族に比べれば、はるかに遅れている。元々この旅が一段落したら殿下の役に立つためLv上げはするつもりだったのだ。ウーノの言うとおり予定を前倒ししてもいいのかもしれない。
「そうだね。ウーノの言うとおりにしよう。幸いメルリスは本当に視察だけの予定だったし。ではウーノ、そのつもりで冒険者の手配を頼む。」
「かしこまりました。」
ウーノが一礼して部屋を出ていく。イーリスに関してはたぶん大丈夫だ。一部で危なさそうな動きはあるが領主のエルラド様も切れ者で、見せていただいた騎士団も精強であった。危険な兆候があれば即座に潰されるだろう。それがわかっただけでも今回の訪問は意味があった。
「迷宮か・・・」
子供のころ街の冒険者に聞いて憧れた場所へこんな立場になって行くことになるとはなんとも不思議な話だ。心の底から昔のわくわくしていた気持ちが溢れてきてなかなか眠りにはつけなかった。
「こちらの方々が今回私達を案内していただける4級冒険者のジン様、ニール様、リイナ様です。」
ウーノの紹介に3人の冒険者が頭を下げる。そして3人の目を見て心の中で苦笑する。まあ半分指名のような形で次期伯爵から依頼があれば警戒しないはずがない。今まで雇った冒険者もそうであったし、またそういった慎重な冒険者を私としても望んでいるので仕方がない。
だから私はいつも通り彼らの元へ近づいていく。ウーノには何度も危険な真似はしないようにと注意された。しかし私の事を知ってもらうにはこの方法が1番いい。
「港湾都市テンタクル、トンプソン伯爵家次期当主のユーリ・トンプソンです。急な依頼を受けていただきありがとうございました。」
ジンと紹介された冒険者の手を取り握手する。普通の貴族ならありえない行動だろう。しかし良くも悪くも私はこういう人間だ。ウーノが額に手を当てている姿が見える。ごめん、ウーノ。
ジンさんに続いてニールさん、リイナさんとも握手をしていく。こういうのは相手が変な考えを巡らしてしまう前に終わらしてしまうに限る。
「道中、また迷宮にていろいろと教えていただくこともあると思いますのでよろしくお願いいたします。」
「あっ、ああ。」
「ああ、じゃないでしょ。ジン!」
「こちらこそよろしくお願いします。」
リイナさんにジンさんが小突かれ、ニールさんが2人を隠すようにこちらに向かって礼をしてくる。不思議なものを見るような目で私を見ているが若干の警戒は解けたかもしれない。
「お三方には先に話しておくべきでした。私の主人であるユーリ様はご覧のような方ですのであまり緊張されなくても大丈夫ですよ。」
「うわっ、それはいくらなんでもひどくない?」
少しおどけて返す。
ウーノのあまりの物言いに騎士たちも苦笑している。事実でありそのことをウーノに言われても私が気にしないことを彼らも重々承知しているのだ。
「まあこんな貴族らしくない貴族ですがよろしくお願いします。」
こうしてジンさん達との旅が始まった。
ほとんどの貴族はLvが高いだけでスキルが上がっていないので強くはありません。
騎士や文官など一部のスキルだけ特化している感じです。
読んでくださってありがとうございます。




