ルージュの冒険(後編)
背中から斧を取り出しこちらに突きつけるタコさん。さっきまで笑っていた人達もタコさんのあまりの剣幕に静まりかえっている。
「やだ、だって受けても得にならないし。」
「この流れで断るんじゃねえー!!」
なんかタコさんが地団駄踏み始めた。それに合わせて三つ編みがふわふわ揺れる。なんか泳いでいるみたいで面白い。
「得になればいいんだな。よし、もし万が一だが俺が負けたら今後お前の言うことを何でも聞く。これでどうだ!」
「えー、タコさん臭いからいらない。」
「そん時はちゃんと体もきれいにする。これでいいだろ!!」
うーん、ちょっと可哀そうになっちゃったし受けてあげようかな。
「駄目だよ。冒険者同士の決闘は禁止されている。もちろんギルドがわからないところなら仕方がないけれどここをどこだと思っているんだい!」
ミアさんからストップがかかった。そういえばそんな規則があったような気がする。でもなー、可哀そうだし恨まれてつけられたりするのも嫌だしなー。
「あっ、じゃあ訓練にしようよ。ギルドの訓練場でやればいいじゃん。」
僕の提案にタコさんも納得したようで、冒険者登録して初の練習試合が決まった。
「いいかい、あいつは今はあんなだが6級の冒険者だ。危ないと思ったら降参するんだよ。」
試合の審判はミアがかってでてくれた。周りにいた冒険者たちもぞろぞろと訓練場に集まってきている。酒場からおつまみとエールを持ち込んでいる冒険者もいる。いいなー。
「どうだい、どうだい。落ち目とは言え6級冒険者タコさんと今日登録したばっかりのルーキーのルージュの試合だ。倍率は1.5対4だよ。もうすぐ始まるぜ。」
「ここは固くタコさんだな。」
「まあな。」
「いや、こういう時こそ大穴狙いだろ。」
「だからお前はいつも金欠なんだよ。」
男の仲間が主導でトトカルチョが始まっていた。僕もかけてみたいなー。でも落ち目って自分達で言っちゃうんだ。
タコさんは20メートルほど向こうで訓練用の斧を構えて、今にもこちらに飛び込んできそうだ。
「両者、準備はいいね。始め!!」
ミアの合図にタコさんは何も言わず一直線にこちらに向かってくる。たぶん一般的に言ったら速いんだろうけどヒナの動きを見てるとねー。
「遅いよ。我求めるは石柱、ストーンポール」
突っ込んでくるタコさんの足元から円柱形の土の柱がせり上がりタコさんのお腹に突き刺さるとそのまま跳ね上げる。たーまやー。
魔物なら先をとがらせておくんだけど訓練だしね。
タコさんが地面にどさっと落ち、お腹を押さえて転がっている。本気で走ってたもんね。ダメージ2倍って感じかな。
「我求めるは束縛、ストーンチェーン」
僕の足元から石の鎖が延びていってタコさんを地面に縫い付ける。
「はい、しゅーりょー。」
しばらく暴れていたタコさんが大人しくなったので、魔法を解除してタコさんの様子を見に行く。タコさんの頭はもう赤くなくてタコさんではなくなってしまっていた。
「タコさん、大丈夫?」
地面で暴れたため顔は汗と土にまみれていたが、なんだかすっきりとした目をしていた。
「ああ、大丈夫だ。頑丈なだけがとりえでな。それにしても負けた、負けた。完敗だ。」
タコさんが起き上がり頭を下げてきた。
「嬢ちやん。悪かったな。最近何もかもがうまくいかなくて八つ当たりしちまった。」
「僕の方こそごめんね。変な名前つけちゃって。」
「いや、考えてみたらいい名前じゃねえか。嬢ちゃんが俺につけてくれたあだ名だ。俺はこれからタコさんとして生きるぜ。」
うーん、なんかタコさんの人生を大きく変えてしまったような気がするけど、まあいっか。
「じゃあ今日はこれで帰るぜ。風呂に行ってきれいになってくるぜ。用事があるときはギルドに伝言しな。嬢ちゃんの望みならどこでもついていくぜ。」
そう言うとタコさんは訓練場から出て行った。
「まじかよ、タコさん。」
「うっしゃあ、これがあるから大穴は止められねえぜ。」
「というかあの子すごくないか?魔法の速度、範囲が桁違いだぞ。」
「うちのパーティに欲しい。」
「抜け駆けしないでよ。それにあんたが言うと犯罪者っぽいわよ。」
なんかギャラリーがざわざわしているけどこれからどうしようかな。そういえば市場に果物とかがあったし見に行こうかな。
「じゃあ、ミア。帰るね。」
「あっ、ああ。それじゃあね。」
なんかぼーっとしていたミアに挨拶をして帰ろうとしたら見ていた冒険者たちに囲まれて止められた。
「俺達のパーティに。」
「いや、私達の。」
「おいおい、俺達の方がいいに決まってるだろ。」
「もう入るパーティ決まってるから無理だよ。5級と7級の人のパーティに入るんだ。」
そう言うと冒険者達は意気消沈してお通夜のようになってしまった。
「それなら、せめて俺と練習試合をしてくれ。嬢ちゃんくらいの魔法使いと戦える機会なんてあんまりないんだ。」
「あっ、私もしたい。」
「少女にぶちのめされる経験か。いいな!!」
なんかちょっと危ない人がいたけどそれくらいならいいかな。
「いいよー。あっそうだ。報酬として1試合につき何か食べ物ちょうだい。おいしいやつ。なるべく違う種類で。」
「よっしゃあ、行くぞ。」
一目散に外へ走っていく冒険者や、マジックバッグから果物を取り出す冒険者など色々だった。
それからは夢のような時間だった。ただ向かってくる冒険者を倒すだけで美味しい食べ物がもらえる。しかも1人につき1回って決めなかったから何回も挑んでくる人もいてお得だった。試合の間につまみ食いしたけどおいしいものって言っておいたからほとんどは美味しかった。美味しいけど硬くて噛みきれない肉とかもあったけど。
最後の方は同じ人が繰り返し挑んできて、僕の攻撃を食らっては「ありがとうございます。」って言って向かってきてゾンビみたいでちょっと面白かった。最後はミアに気絶させられてたけど。
お腹もいっぱいになって満足したので分離を解除して帰った。タイチにはばれなかったみたいだ。
それからは夜にタコさん達のパーティと一緒に初級迷宮に潜ったり、夜店を冷やかしたりしてメルリタスを満喫した。
そういえばタコさんのパーティの人達からあだ名をつけて欲しいと言われたのでなんとなくイカさん、フグさん、シャコさんってつけたらいつの間にかパーティ名が海の仲間たちになっていた。我ながらいい仕事をしたと思う。でも最近は嬢ちゃんじゃなくて姫って呼んでくるのでそれは止めて欲しい。
仮ギルド証なのでランクは上がらないけど、もう少しして正式なギルド証になったら8級には上がれるとミアが言っていたから今から楽しみだ。
はあ、早く1か月が経たないかな。タイチ達の驚く顔が早く見たいな。
海の仲間たちはいつかテンタクルに行き漁師の道を・・・
まあそんな閑話は書かない予定ですが。
読んでくださってありがとうございます。次話から新章です。




