監視者対策
「ふわぁー、くそっ。さすがに面倒だな。」
男が毒づく。昨日迷宮から帰って4時間ほど仮眠を取ってからこの場所で誰も出入りしない中級迷宮を夜中の間ずっと監視し続けていたからだ。
「あの冒険者達は使えねえ奴ばっかりだし。」
11階層を捜索させていたが、砂漠の気候にやられる奴、毒を受けて倒れる奴も多くそれにつれて不平不満を言うようになってきていた。
「初級迷宮もクリアできない愚図のくせによ。」
男の愚痴は止まらない。もともと男はシーフではなく狩人だ。森の中などでじっと獲物を待つことは得意だったがこんな街の中で変化のない門を気配を消しながら監視し続けるなど専門外だ。ただ気配察知と隠密のスキルが他のメンバーよりも高かったためこんな仕事を押し付けられてしまった。
まあそれもあと数時間で終わる。交代したら一眠りして、昼から花街でも言って憂さ晴らしをしよう。いい店は夕方以降だからまずは軽くだな。そんなことを考えながらあくびをかみ殺していた。
その時突然地面がぼこっという音と共に崩れ落ちた。
「なんっ・・・」
男の悲鳴を飲み込むように深く開いた穴へと滑り落ち、男の姿が消えていく。
誰もいなくなった穴の開いた路地に1人のフードを深くかぶった者がどこからともなく現れ、地面に手を降ろすと地面に空いた穴は元の通りにふさがった。その者は静かに立ち去った。
残されたのは誰もいなくなった路地の風景だけであった。
「くそがあああ!!」
男は両手足を突っ張り、なんとか滑り落ちるのを止めようしたが落ちる力の方が強くさらに壁面がつるつるしており止まりそうもない。武器や防具を入れたマジックバッグも持っていたが落下時に落として見つからない。なんとか止めようと爪を壁に突き刺してみたが勢いに負け、爪がはがれて刺すような痛みが走る。
しばらくなすすべなく滑り続けた後、角度が緩くなりしばらくして止まった。
辺りは真っ暗で夜目に長けた狩人とは言え何も見えなかった。ただ空気の流れから広い空間に出たのだろうと当たりをつける。腰からナイフを引き抜き足をずりながら慎重に歩を進める。街中だと油断してそれ以外の装備や道具はすべてマジックバッグの中だ。
せめて火打石でもあれば灯りを点けられるのだが。
「俺も鈍ったな。」
パーティを組んでより多くの獲物を効率的に狩れるようになった。Lvも上がりソロで活動していた時よりも強くなった。しかしこの体たらくだ。ソロの時なら最低限この状況でも灯りくらいはつけられる準備はしていたはずだ。
堕落した自分を一通り自嘲した後、気持ちを切り替える。まずはここから脱出しなければならない。そのためにはまずはマジックバッグを探すことと出口が落ちてきた場所以外にあるか確認しなくてはならない。この場所がどういった場所かはわからないが俺をはめるための罠なら食い破るだけだ。
男が獰猛な笑みを浮かべる。久しく感じていなかった手ごたえのある獲物にありつけた凶暴なライオンのような笑みだった。
周辺を探ったがマジックバッグは無かった。多少落胆したがその可能性は考えていた。ならば次の作業に移るだけだ。壁に片手を当てながらじりじりと進んでいく。気配察知を使用しているが自分の他に気配はない。もちろんわからなくする方法はいろいろあるので油断することは無い。
そうしてその空間の角についたと思われた時それは突然起こった。
「「「キャハハハ。」」」
周囲から笑い声が響く。それも1人ではない。部屋で反響してはいるがいくつかの場所から同時に響いている。しかし1人かもしれない。その声は全く同じ声だったから。
「おいおいおい、マジかよ。」
最悪の予想が頭をよぎる。それはゴーストやレイスといった肉体を持たない魔物である可能性だ。そいつらに物理的な攻撃は効かない。効くのは魔法か特殊な処理や材料で作られた武器による攻撃だけだ。マジックバッグに入っている愛用の弓と特殊な矢なら対処できるが今持っているのは獲物を解体するためだけのただのナイフ。それなりの物ではあるがただそれだけだ。
逃げるかとも思ったがこの何も見えない状況ではどうしようもないと思い直す。そして出した結論はその声の方向へ近づいていくということだった。レイス等ならどのみちそのうち取り殺される。そうでなくても食料が無い今の状況では長く生きられはしない。それならば、その声が俺をはめた奴の誘いだと考えて食い破ってやる、そう考えての決断だった。
声は続いていく。そして近づくごとに声は離れていく。レイスならこんな動きはしないはずだ。罠の可能性が高くなったことにほくそ笑みながらじりじりと進んでいく。
その時男の目に急に3つの物がうつる。それは光に照らされた全く同じ顔の生首。少女の生首がにやりと笑い、楽しげな声をあげる。
「「「キャハハハハハハハハ」」」
「ちくしょう!!」
自分の想定が甘かったことを後悔しながら少しでも距離をとろうと思ったところでちくっとした痛みを首筋に感じ、男は意識を失った。
「おい、なに寝てんだ!」
「うわぁ!!」
足に感じた衝撃と声に男は飛びのきすかさずナイフを引き抜き構える。しかしそこは何も見えない暗闇ではなく、生首もなく仲間のシーフの男がいるだけだった。シーフの男は蹴りを放った体勢のまま固まっている。自分の体を確認する。爪もはがれておらず、マジックバッグも腰にちゃんとついている。
「夢か?」
それにしては現実感がありすぎた。しかしあの状況で生き残れるはずが無い。
「夢か、じゃねえよ。」
「すまん、疲れていたみたいだ。今度花街に行くときに俺がお前の分の花代をもとう。」
「おっ、さすがに話が早いな。ミスは他の奴らには言わないでおいてやるぜ。」
「ああ。それじゃあ交代だ。後は頼む。」
「あいよ。」
他の仲間に知られて分け前が減らされるよりはよっぽどましだ。
疲れがたまっているのかもしれない、そう考え男は宿へと帰って行った。
「うん、大丈夫みたいだ。」
男が誰にも会わず宿に入ってから1時間以上経っているがマップで確認しても動く気配は無い。おそらく眠っているのだろう。
(ねえねえ、僕の演技どうだった?)
「ふわぁ、もう眠いニャ。」
「首尾は上々って所だね。」
500メートルほど離れたオープンテラスのカフェで朝食を取りながら警戒していたが問題は無かったようだ。すでにジンさん達は迷宮を脱出し、今頃は街道を馬に乗り進んでいるだろう。
(ねえねえ。)
(良かったと思うよ。)
(いえーい。)
これで3回目だ。よっぽど楽しかったんだな、幽霊ごっこ。
「じゃあ今日はこれで解散かな。1週間くらいは今までどおり迷宮探索して、そうしたら私だけで手紙を届けに行って来るよ。1人なら1日で着けるはずだ。」
「じゃあ私は寝るニャ。おやすみニャ。」
(おやすみー。)
ジンさん達を無事に旅立たせることは出来た。でも更なる深みに足を突っ込んでしまった気もする。事としだいによっては・・・。
「いや、今考えても仕方が無い。」
作戦が成功したことをもう少し祝ったら私も宿に帰ろう。
~ステータス~
名前:タイチ
年齢:16
職業:冒険者
称号:アンの後継者
Lv:41
HP:2667/2667 MP:3083/3083
攻撃力:1702 防御力:1650
魔力:2021 賢さ:1978
素早さ:1930 器用さ:2189
運:235
―スキル―
「アイテムボックス Lv7」「マップ Lv4」「知識 Lv3」「投擲 Lv8」「開錠 Lv7」「罠察知 Lv7」「罠作成 Lv4」「罠解除 Lv5」「魔力操作 Lv6」「杖術 Lv6」「気配察知 Lv5」「採取 Lv6」「毒耐性 Lv5」「睡眠耐性 Lv4」「麻痺耐性 Lv4」「混乱耐性 Lv4」「魅了耐性 Lv4」「石化耐性 Lv4」「恐怖耐性 Lv5」「調薬 Lv4」
―装備―
主武器:ワクコのダート 副武器:アンの杖
頭部:なし 外着:冒険者の服
腕部:謎の腕当て 胴体:謎の胸当て
腰部:謎の帯 足部:謎のすね当て
靴:謎のブーツ その他:謎のゴーグル
ルージュ Lv14
称号:赤竜の友
耐久 500/500 DP:13020/38570
「土魔法 Lv7」「光魔法 Lv4」「火魔法 Lv3」「水魔法 Lv3」「念話 Lv5」「変形」「分離」
―装備―
主武器:謎の錫杖 副武器:フェザー
頭部:なし 外着:緑魔布のマント
腕部:ドスクロコの腕当て 胴体:ドスクロコの胸当て
腰部:ドスクロコの帯 足部:ドスクロコのすね当て
靴:ドスクロコのブーツ その他:なし
この章もこれで終わりです。
数話閑話を挟んで新章に移ります。次の章で大きな区切りになりそうです。
読んでくださってありがとうございます。




