ノノとお買い物
翌朝訓練を終え、ヒナが起きてきたので一緒に朝食をとり、ノノと一緒に魔道具屋へ向かうことにした。以前ルージュ用のトライアングル型のマジックバッグを買った店だ。
「ノノは何を買うつもりなんだニャ?」
「新しいマジックバッグね。エルフの里から持ってきたのもあるんだけどそろそろ19階層の宿に泊まって長期間探索しようかと思っているから食料を運んだり、素材を持って帰るのに使えるようなもう少し容量の多いものが欲しいのよ。」
「予算は?」
「金貨1枚以下に抑えたいわね。」
金貨1枚か。ルージュのマジックバッグと同じくらいの金額だ。まあ私も3つ買う予定だしまとめ買いでちょっと安くしてくれないかな?いや、でもあの店主だしな。
「いいものがあるといいニャ。」
「絶対に見つけるわ。」
決意に燃えながら先導していくノノをヒナと2人で微笑ましく眺めていた。
「いらっしゃいませー。」
古めかしい魔道具屋のドアを開けるとそんな威勢のいい声がかけられた。あのおじいさんが座っていたカウンターに20歳くらいの女性が座っていた。
「おはようございます。あの、以前はおじいさんがいたと思うんですが?」
「あー、爺さんならしばらく前に・・・。」
女性が表情をさっと変え、悲しげな表情になる。
「俺に無理やりこの店を押し付けて工房にこもりやがったんだ!」
そして一転して怒りの表情になる。まあそうだよね。なんとなく死にそうにないおじいさんだったし。女性は怒りで握り拳をプルプルさせている。
「せっかく部屋でごろごろ出来ていたのに面倒事押しつけやがって。」
あー、この人が駄目な人だ。家事とかもしていなさそうな感じがする。グッジョブおじいさん。孫は新しい道進み始めているよ。
「あー、そうでしたか。頑張ってください。マジックバッグを見せてもらってもいいですか?」
「はいはい、勝手にどうぞ。」
ものすごく面倒くさそうに言われた。客の扱いの教育はしなかったのか。いやおじいさんもあれだったしな。
以前マジックバッグが陳列されていたコーナーに向かうと前よりもかなり多くのマジックバッグが並んでいた。普通のバッグの形のものも増えているが、丸型や三日月のようなデザインなど一風変わったマジックバッグが増えていた。なんだろう新進気鋭のデザイナーと契約でもしたのか?形は斬新だが使い勝手は悪くなさそうなところが何とも言えない。しかも変わった形のマジックバッグの方が2割ほど安い。
「むー。」
ノノがバッグを見比べながらむーむーと唸っている。まあ気持ちはわからないではない。ノノは案外定番を好む。定番のバッグの方がデザインは好みだが同じ性能でデザインは変わっているが安いものがあるのだ。ノノにとっては高い買い物だし少しでもいいものを買いたいのだろう。
「ヒナはどれがいい?」
「うーん、これかニャ?」
ヒナが選んだのは三日月型のデザイン。値段は金貨3枚。しかし同価格帯のバッグに比べて容量は1.2倍ほども入るので実用的だ。
「選んだポイントは?」
「月みたいでかわいいからニャ。」
まあそうですよね。ヒナは剣とかは実用性重視なのに他のものについては気に入るか気に入らないかで取捨選択をする傾向がある。だからヒナが持っているものはお気に入りばかりだ。その割に扱いは適当だが。
それじゃあ私も選ぼうかな。私としては機能性が高い方が好きなので一風変わったデザインの方を買いたいところではあるのだが、今回はジンさん達に持って行ってもらうためのものを選ばないといけない。無難なものの方がいいだろう。
定番のリュック型を1つ、肩掛け型を1つ選んだ。値段はともに金貨5枚。15日分の食料を入れるのに十分な量だ。あとはユーリさんの分だが、貴族的にあんまり荷物を持っているように見えてもまずいんだろうか。何となくだが貴族は荷物を従者に持たせてあまり自分では持たないようなイメージがあるし。偏見かもしれないが。
と言うことで目立たない物を探しているとビニール袋のような薄いペラペラのマジックバッグがあった。これでいいか。隠して持つには便利そうだ。まあこれだけ金貨6枚もするが、容量もその分多いので問題は無い。
「じゃあ私はこの3つにするよ。」
3つのマジックバッグをひょいひょいと取るとノノが信じられない者を見るかのような目でこちらを見ている。
「どうかした?」
「タイチってもしかして・・・お金持ち?」
ああ、そういえば特に考えていなかったけど日本円で考えれば1600万円になるのか。それにしては陳列方法と言い扱いが雑な気がするが。今の手持ちは日本円にすると5000万円以上あるから特にそこまで気にしていなかった。無くなったらまた迷宮でボスをくるくるすればいいし。その他にもイーリスに戻ればワクコからお金がもらえるはずだし。
「お金持ちってわけじゃないけど資金はそれなりにあるかな。多分ヒナも同じくらいあるんじゃない?」
「私はそこまでじゃないニャ。装備を新しくしたりもしているし、砥ぎに出したりしているから結構使うニャ。タイチは魔法メインだからそういうのが無くていいニャー。」
「一応、シーフなんだけどね。」
「自覚が出てきているニャ。」
そうなんだよな。魔法を使うことが多いから最近自分でもシーフなのかと疑問に思うことが多い。いやっ、私はシーフだ。騙されてはいかん。
「いいわね。私なんか最初は宿代を払うのもカツカツだったわよ。」
「あー、ちょっと割高だからね。その分サービスもいいけど。」
「それで、ノノは決まったのかニャ?」
「これにするわ。」
それは普通の肩掛け型のマジックバッグだった。バッグの形状がちょっと丸っぽくなっているがそこまで変と言うわけではない。大銀貨8枚と値段は同じ性能のものに比べて2割程度安い。
「私のセンスと性能と懐事情の妥協点よ。」
「じゃあまとめて会計しちゃおう。ちょっとノノは待っていてね。」
小首をかしげてこちらを見ているノノを置いて会計に向かう。
「すみません。この3つのバッグをください。」
「はーい、うわっ金貨16枚ですね。本当に買うんですか。」
いや、それを言っちゃ駄目でしょ。
「はい、まとめて買いますのでおまけしてもらえませんか?」
「うーん。いくらぐらいだ?」
「そうですね、金貨14枚でどうですか?」
そう言った瞬間、女性の目がさっと厳しくなる。こういうところは商売人っぽいな。
「無理だね。冷やかしなら帰りな。」
「いえ、冷やかしではないんですがね。逆にどのくらいならまけられますか?」
「大銀貨5枚ってところか。」
「ちょっとそれは渋くないですか?」
「いや、うちの商品は・・・」
女性と交渉を続けていく。相手のプライドを傷つけないように細心の注意をする。こういう店は商品に絶対の自信を持っているところが多い。値段交渉をするのがこの世界では一般的とはいえあまりやりすぎると取り返しがつかなくなる。
「大銀貨7枚。これが限界だよ。」
「そうですか、あっ、それじゃあノノちょっと来て。」
私と女性とのやり取りを唖然としてみていたノノを呼ぶ。呼ばれたノノはちょっと良くわかっていないようだがとことことこちらにやってきた。
「この子が欲しいマジックバッグが大銀貨8枚なのでこれも合わせて金貨16枚でどうですか?」
「あー、もういいよ。それで売ってやる。あんた冒険者なんて辞めて商人になりな!」
「ありがとうございます。きれいなお姉さん。ノノもお礼を言っておきな。」
「その・・・なんかごめんね。」
「まあいいよ。これも勉強だ。」
なんか女性とノノが私をあきれたような目で見ている気がする。なぜだ?ただノノのマジックバッグをただで売ってもらおうと頑張っただけなのに。解せぬ。
最近はめっきり値引き交渉とか無くなりましたね。
フリーマーケットとかいくとまだやっているようですが。
読んでくださってありがとうございました。




